私を変えた10の設定

枢名ゆい

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戸惑い_3

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(大丈夫……もうすぐエッチできるから……)

自分に言い聞かせながらも、私の体は徐々に熱くなっていった。
隣に立つサラリーマンの体温を感じ、彼の使っているコロンの香りと雄臭さが鼻をくすぐる。いつの間にか、私の呼吸は少し荒くなっていた。

(あ……ぅ……)

次第に顔が火照っていき、体の中のスイッチがカチリと切り替わる。
頭がぼーっとしてきて思考が鈍くなっていく。
電車が揺れるたび、バイブの感覚がより鮮明になり、私は唇を噛んで声を抑えた。
目の前に立つサラリーマンは30歳前後だろうか。整った顔立ちと、きちんとしたスーツ姿。彼は片手で吊り革を持ち、もう片方の手でスマホを見ていた。

(あ……ここにも男性器がある……)

私の視線が男の腰元に向かっているのが自分でも分かった。
あの布を隔てた先には私が欲しいものがある。
周りの音はほとんど聞こえない。ただ、自分の心臓の音だけがドクンドクンと響いていた。私は自分の鼓動に合わせるように、足の裏を擦り合わせていた。

(もう……限界……)

体が勝手に動き、電車の揺れに体を預けて彼に少し寄りかかる。
彼の体に触れた瞬間、私の中に電流が走った。彼は一瞬驚いた顔をしたが、混雑した電車内では珍しくないことだと思ったのか、特に反応はなかった。

(ひっ……うっ……♡)

近づいたことでより濃厚な性の匂いに包まれる。
頭がくらくらとして、一つのことしか考えられなくなっていた。
私は震える手で彼の太腿にそっと手を置いた。そのままゆっくりと撫でるように撫で回す。掌に感じる感触。スラックス越しでも分かる太い骨の感触。それを感じた瞬間、私の中で何かの糸が切れた。

「あの……」

男性の耳元に口を近づけて、私は囁くように言った。

「次の駅で……降りませんか?お金は全部出しますから」

彼も、ごくりとのどを大きく鳴らし、私の視線の意味を理解したようだった。

気づけば私たちは駅のホームに立っていた。
自己紹介もそこそこに、彼と私は近くのホテルへと向かっていた。私がカードを出し、部屋代を支払う。「何をしているんだろう」という自問が頭をよぎるも、体の疼きがそれを上回っていた。

部屋に入るなり、私たちは激しくキスを交わした。
彼の手が私の体を探り、私も彼の体に触れる。バイブのリモコンを取り出し、振動を止める私。そして、彼にコンドームをつけるよう頼む。それだけの理性は、かろうじて残っていた。

「コンドームは絶対に……」

それは「風見あんず」の設定が影響していたのかもしれない。
「中出しされた相手に完全に支配される」という設定。
そんなことはあり得ないと分かっていても、どこかでそれを信じてしまう自分がいた。そして、その「支配者」として少なくともこの人はふさわしくない。

見知らぬサラリーマンと体を重ねながらも、私の頭の中には拓海の顔が浮かんでいた。
彼の腕に抱かれているという妄想が、私の快感をさらに高めた。

「っ♡……拓海さま……っ♡」

思わず漏れた言葉に、相手の男性は気づかなかったようだった。あるいは、気にしなかったのかもしれない。
事が終わった後、私たちは無言でシャワーを浴び、服を着た。
それぞれの連絡先を交換することもなく、別々の道を行く。
こんな状況に以前の私なら違和感を覚えたかもしれない。でも今の私は、むしろそれが自然に思えた。

その夜、自宅に戻った私は、スマホを開き慌てて剛にメッセージを送った。

『ごめんなさい、今日は体調が悪くて……また今度』

嘘をつくことにも罪悪感はほとんどなかった。
私の心の中は、次第に何かが麻痺していっているようだった。
そして、もう一つのスマホを手に取り大切なメッセージを確認する。拓海からのメッセージだった。

『明日、会えますか?重要なお話があります』

その言葉を見た瞬間、私の心臓は早鐘を打った。
拓海に会う。彼と二人きりになる。その想像だけで、体の奥から熱いものが広がる。

『はい、ぜひお会いしたいです』

返信しながら、自分の感情に戸惑いを隠せなかった。
見ず知らずの男性と会ってエッチする私。
仕事中もバイブを入れている私。
そして今、拓海との再会をこんなにも熱望している私。

なぜあの時少しだけあっただけの拓海と会うことにこんなに胸がときめいているのだろう。

そして、心の奥で小さな声が「何かが違う」と囁いていた。

ベッドに横たわりながら、私は拓海との約束に思いを馳せた。
彼に会えることへの期待と高揚感。そして、頭の片隅にある小さな恐怖。それらが混ざり合って、私の意識は徐々に眠りに落ちていった。

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