コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

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第94話　ふたりきりの年越し

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　クリスマスのサプライズパーティーから数日が経ち、街はすっかり年末の慌ただしさに包まれていた。

　サイトウは、イズミにもらった万年筆を大切に使いながら、年内の仕事をすべて終わらせ、胸をなでおろしていた。イズミもまた、サイトウがプレゼントを喜んでくれたことが嬉しくて、いつもより少しだけ機嫌が良かった。

　今年の年末年始は、二人とも実家には帰らず、家でだらだらと過ごすことに決めていた。サイトウは、イズミに何も言わず、大掃除や年越しの準備を率先して行っていた。

「サイトウ、俺もやるから仕事残しとけよ」

　イズミがそう言って、サイトウが持っていた掃除機を奪おうとする。サイトウは笑顔で首を横に振った。

「いいんだよ。クリスマスパーティーのお返しだから」

　サイトウの言葉に、イズミは少し照れたように顔を赤くして、手伝いを諦めた。

　大晦日の朝。二人はスーパーに買い出しに行った。店内は、年越しの準備をする人々でごった返していた。イズミは、人混みにげんなりしていたが、サイトウは慣れた様子で、テキパキと買い物かごに食材を入れていく。

「なぁ、サイトウ。お前、なんか主婦みたいだな」

　イズミがからかうように言うと、サイトウは苦笑いした。

「イズミも手伝ってくれよ」

　イズミは、サイトウに言われるがまま、重い買い物かごを二つ持って、サイトウのあとを追った。

　家に帰ると、二人は年越しそばの準備を始めた。イズミは、蕎麦を茹でる係、サイトウは天ぷらを揚げる係だ。料理はイズミが得意だけど、今回はサイトウが難しい油物に挑戦したいと言ったのだ。

「おい、サイトウ！　天ぷら焦げてるぞ！」
「うわっ！　ホントだ！」

　サイトウが慌てて天ぷらをひっくり返すと、イズミは呆れたように笑った。そんなイズミの様子を見て、サイトウは、失恋の傷が癒えていくのを感じていた。

　夕食後、二人は温かいこたつに入り、テレビで年越し特番を見ていた。テーブルには、イズミが用意した年越しそばが並んでいる。

「なぁ、サイトウ。今年は、色々あったな」

　イズミがそう言うと、サイトウは頷いた。失恋、新しい仕事、そして親友との絆の再確認。サイトウにとって、この一年は、激動の一年だった。

「そうだね。でも、イズミがいてくれたから、乗り越えられたよ」

　サイトウがそう言うと、イズミは少し不機嫌そうな顔をした。

「なんだよ、気持ち悪いな」

　イズミはそう言いながらも、サイトウの言葉が嬉しくて、心が温かくなっていた。

　深夜11時59分。二人は、テレビの画面を見つめていた。年越しのカウントダウンが始まる。

「5、4、3、2、1……」

　そして、年が明けた。

「明けましておめでとう、イズミ！」
「おう。明けましておめでとう、サイトウ」

　二人は、顔を見合わせ、静かに笑った。サイトウは、イズミが何も言わずとも、彼が何を考えているのか分かっていた。そして、自分の想いもまた、同じであることを知っていた。

（来年も、イズミとこうやって笑っていられますように）

　その夜、二人は、いつもより少しだけ、お互いの存在の大きさを感じていた。

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