コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

文字の大きさ
95 / 95

第95話 新たな始まり

しおりを挟む
 年が明け、新しい朝を迎えた。

 サイトウが目を覚ますと、リビングからは、お雑煮のいい匂いが漂ってきていた。イズミが、寝ぼけ眼のサイトウに笑いかけた。

「おい、いつまで寝てんだ。お雑煮、冷めちまうぞ」

 サイトウは、イズミが自分よりも早く起きて、お雑煮を作ってくれていたことに、胸が温かくなった。

 朝食後、二人は初詣に行くことにした。近所の小さな神社には、たくさんの人が集まっていた。二人は、人混みをかき分けてお賽銭を入れ、新しい年への願いを込めて手を合わせた。

(イズミが、今年も健康でいられますように)

 サイトウは、心の中でそう願った。

 参拝を終え、二人がお守り売り場に向かっていると、サイトウの無自覚なコミュ力が発動してしまった。

 サイトウは、お守りの一つ一つをじっくりと見ていた。すると、サイトウが手に取ったお守りを、近くにいた巫女さんが微笑んで見ていた。

「そのお守り、とても人気なんですよ」

 サイトウは、急に投げかけられた言葉に驚き、顔を上げた。

「あ、はい……。確かに、可愛いデザインですよね……」

 サイトウがどもりながらそう言うと、別の巫女さんが、そのお守りの由来について、楽しそうに話し始めた。

「このお守りは、縁結びにご利益があるんですよ。特に、好きな人に振り向いてもらいたい、という願いを叶えてくれると評判なんです」

 サイトウは、その言葉に、初恋を思い出してしまい、少し気まずくなった。しかし、サイトウの困惑した様子が、巫女さんたちには、まるで純粋な少年のように見えたらしく、次々と巫女さんたちが集まってきた。

「お客様は、お仕事は何をされてるんですか?」
「え、営業です」
「やっぱり! きっと、すごくお仕事できるんでしょうね!」

 サイトウの周りに、自然と巫女さんたちの輪ができていく。サイトウは、人見知りを発動させてしまい、どうしていいか分からず、ただただ困惑していた。

 イズミは、遠くからその様子を見て、呆れたようにため息をついた。

「ちっ、あいつまた囲まれてるのかよ……。おい、サイトウ! もう帰るぞ……」

 イズミはそう言うと、サイトウの周りに集まる人々の輪を、強引にかき分けて、サイトウの腕を掴んだ。

「はいはい、こいつは俺と帰りますんで」

 イズミがそう言うと、巫女さんたちは、驚いたようにイズミとサイトウを見つめた。イズミは、サイトウを連れて、その場を足早に去った。

「イズミ、ありがとう……!」

 サイトウが安堵の表情で言うと、イズミは不機嫌そうな顔をした。

「まったく。お前、そろそろその能力、なんとかしろよな」

 イズミの言葉に、サイトウは「またわけの分かんないことを…」と苦笑いした。

 初詣を終え、家に戻った二人は、こたつに入り、熱燗を飲みながら、今年の抱負を語り合った。

「イズミは、何かあるか?」

 サイトウがそう尋ねると、イズミは少し考え込んだ後、言った。

「まぁ、特にないけどな。サイトウが、なんかあったら、いつでも頼ってくれていいからな」

 イズミの言葉に、サイトウは胸が熱くなった。

「イズミ……」
「なんだよ。お前、泣いてんのか?」
「泣いてないよ! ただ、イズミの優しさに感動しただけだよ!」

 サイトウは、照れくさそうに笑った。

(今年は、イズミに感謝を伝える年にしよう)

 サイトウは、心の中でそう決意した。

 イズミは、サイトウの成長を、隣でずっと見てきた。失恋で落ち込んでいたサイトウが、少しずつ前向きになり、そして、自ら新しい一歩を踏み出そうとしている。

「イズミ、今年もよろしくな」
「おう。今年も、お前のこと、しっかり見張っててやるよ」

 イズミの言葉に、サイトウは笑った。

 新しい年が始まり、サイトウは、仕事にも、プライベートにも、前向きに取り組もうと決意していた。イズミという最高の親友がそばにいてくれることを、改めて実感したからだ。

 サイトウの新しい物語が、今、静かに幕を開けた。
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

かみちん
2025.08.29 かみちん

文章がとても読みやすくて、ぐいぐい引き込まれました。続きを期待しています!

2025.08.29 西東キリム

かみちん様、こちらでもありがとうございます!(≧▽≦)
読みやすいと言っていただけて嬉しいです!
これからもよろしくお願いしますm(__)m

解除
青い石
2025.08.25 青い石

サイトウさん泣けたなら大丈夫だね
涙って悲しみをやわらげる効果があるらしいから。
イズミくんがいてくれて良かった(^^)

2025.08.25 西東キリム

いつも感想ありがとうございます(^^)
泣くのって大事ですよね!嫌なこともいくらか流れていってくれる気がします。
イズミのような頼れる親友がいることが、サイトウにとっての一番の強みです!
これからも応援よろしくお願いしますm(__)m

解除
青い石
2025.08.21 青い石

エッ??
まさかの展開!!
イズミくん助けて〜( ; ; )

2025.08.21 西東キリム

コメントありがとうございます!
サイトウ…まさかの展開ですね(^_^;)
イズミが慰めてくれるはずです!

解除

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。