おっとり少年の異世界冒険譚

ことり

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13話

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玲はその夜、冒険者ギルドに泊まることになった。

ギルドの3階にギルドマスターのノーランや職員数名の部屋があり、他にも5~6部屋、宿泊施設として使っているらしい。
そこにギルド待機を申し出た、カール、ニア、これまで名前が出てこなかった、決して玲が忘れたわけじゃない、魔術師のマーラも宿泊する。
人数が多いので、夕食は隣接する食堂でバイキング形式となった。
今までの食料はオルカルマールが持たせてくれた、元の世界のものだったので、玲は初めての異世界料理を楽しんでいた。
「レイ、たくさん食べてるかい?」
声をかけてきたのはカールだ。金髪に少し垂れ気味の青い目をした、優しいお兄さんという雰囲気である。
「はい!どれもとってもおいしいです」
「よかった」と笑って頭を撫でてくるカールに、玲はにっこりと笑い返した。
身長差は15センチくらいで、近い目線の先で頬をちょっと赤くするカールに、玲は不思議そうに首を傾げた。
「ええと、ニアさん、は?」
いつもカールと一緒にいたような感じの、鬼太郎風の人が食堂内のどこにもいない。
尋ねると、カールは「ああ、あいつは…」と言葉を濁してから苦笑した。
「料理を山ほど皿に盛って、外に出てった。ノラ猫にでも配ってるんだろう」
「内緒だぞ?」と言われた玲は、カールと二人でくすくすと笑い合った。そこへ、玲とさほど体格の変わらない、魔術師のマーラが近づいてくる。
「あー、俺、アイツ苦手」
カールが小声でそう呟くのと、マーラがぶしつけに「ちょっとアンタ」と話しかけてきたのはほぼ同時だった。
「…僕、でしょうか?」
「そうよ、アンタよ。属性いくつ持ってるのか教えなさいよ!」
「……はい?」
イラついた口調で言われたが、玲には意味が分からない。
玲の肩でドライフルーツをかじっていたシャールを見ても、『何言ってんのこのひと』という表情だった。
ちなみにシャールは、混乱を避けるため人前ではしゃべらないことにしている。
この世界から見れば「使徒」というべき存在に値するのだが、そんなことを知られても面倒なだけだし、普通の人間には理解できない。
よって、ただのペットのふりをするつもりだった。
「マーラ、初対面でそういうことを聞くのは失礼だろう」
「だっておかしいじゃない!聖属性のほかに風と、あとはなんなの?!やっぱり火なの?!」
窘めてくるカールを押しのけ、憤慨したようなマーラが迫ってくる。
その剣幕にシャールが逃げ、マーラから遠いほうの肩へと素早く移動した。
「…私にはわかるのよ…そのリスだって、ただのリスじゃない、精霊でしょ」
─えっ、違うけど?と思いながら、玲はぱちくりと目を瞬いた。が、それを肯定と取ったのか、マーラはなぜか勝ち誇ったような、それでいてどこか卑屈な笑みを浮かべ、さらにまくし立てた。
「ねえ、どこで見つけたのよ、ソレ、私も欲しいわ。ちょっと貸しなさいよ」
言いながら、返事も聞かずにシャールへと手を伸ばしてくる。
すると当然、パリィッと音がしてキリンの加護が発動し、小さな雷光がその手を撃った。
「いたッ!なんなのよこれ!雷なんて、幻の属性……そんな…」
「いい加減にしろ!マーラ!」
マーラの暴挙を茫然と見ていたカールが、玲をかばうように立ちふさがる。
彼女は「なによなによなんで私じゃないのよ!」と激高した後、今度はうつむいてブツブツと何か呟きながら、階段のほうへ去っていった。
「レイ、大丈夫か?怖い思いをさせてすまない…ええと、シャールも」
「へ?え?あ、大丈夫、です。なんだか、激しい方なんですね、彼女」
玲は苦笑しながら、ポケットに逃げ込んだシャールの頭をちょいちょいと撫でた。
言いがかりをつけられていた気がするが、キリンの加護でパンチパーマにならなかったところを見ると、それほど悪意があった訳ではないんだろう、と結論付ける。
「魔術師として行き詰ってるらしくて…もともと性格がいい方でもなく…最近特にひどいというか…」
「ふふ、大丈夫です。気にしていません」
一応、彼女のフォローをしようとして、できていないカールが面白くて、玲は笑みをこぼした。
「ならよかった。もしまた何か言ってきても、無視してかまわないから」
「はい、ありがとうございます」
正直で人の好い、好青年のカールが安心したように息を吐いたのを見て、玲もほっとする。
普通っぽい人だから、きっと濃いメンバーの中で苦労してるんだろうな、などと勝手に同情してから、玲は次の料理を取るために席を外した。
一連の出来事を、じっと見つめる視線があるのを気づかずに。

「あれは…キリンの加護……?」

料理を出すためのカウンターに腰を持たせかけたノーランは、ひとり呟いた。

─北に住む聖獣、霊峰、と聞けば、思い浮かぶのは霊峰の主、キリンだ。

処女1000人を愛した伝説の獣は、青白い雷を纏っているという。
ギルドマスターであるノーランは、魔獣やその類に関する伝説・古典などにも造詣が深い。
レイと名乗った少年が狼型の魔獣のボスに襲われていた時も、先ほどとは比べ物にならない強い雷光が降り注いでいた。
だが、キリンの加護を受ける方法、それは──。
「……っ」
ノーランは何か叫び出しそうな気分になり、思わず自分の口元を押さえた。
顔に血が上り、熱い。
「ノーラン、あの子が気になるの?うふふん、かっわいいわよねぇ…囲って、甘やかして、愛でたくなるわ~」
厨房からカウンターの上に身を乗り出した美女が、ノーランの耳に毒のように赤い唇を寄せた。
見た目20代後半だが、美少年趣味の推定40才オーバー、通称腐魔女である。
「よせ。あれはまだガキだ」
「んもう、わかってないわね。ガキじゃないわ、食べごろ完熟の美少年よ。いい?少年の旬は短いの。成長途中の手足の頼りないしなやかさ、子供から大人へと変わる危うい色気……未完成だからこそそそられるのよ!ああほんとおいしそう…」
「……」
ノーランはうっとりと語り始めた腐魔女に圧倒されて声も出なかったが、言っていることを否定もできず、レイに視線を戻した。
相棒のちょっと変わったリスを連れて料理を物色するさまは、確かに美少年ではあるが、ノーランから見れば無邪気な子供そのものだ。

─まだ大人の庇護が必要な幼気な少年が、キリンに処女を──?
─いや待て、キリンの元はユニコーンのはずだから…馬だろ?!──

白銀の角を持ち、青白く輝くユニコーンの身体で、霊峰の頂上に立つ姿が目撃されたのは100年も前のことで、現在のキリンの姿を知るものはいない。
ノーランは馬に組み敷かれる少年の姿を想像して青くなったり、そんなはずは、きっと人型に、と思いなおしては赤くなったりしてその場で頭を抱えた。

ぐるぐると考え続けるノーランを「うふふん」と笑って一瞥した後、腐魔女は厨房の奥へと消えていった。
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