おっとり少年の異世界冒険譚

ことり

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20話

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バインディーディアにおける『称号』とは、世界に貢献したものに、世界が贈るものもの、らしい。
世界には世界の意思があるのだ。
本来はお知らせなどないが、オルカルマールの神格アップのついでに、世界のもっと上が気を利かせたのだろう、とのことだった。
「世界の、上?」
「そうよ。アタシたち神にも、上がいるのよ。よし、できたわ」
「わ、なんだかかわいい」
オルカルマールは、自分の神力を練って作ったピンク色の球体を玲に渡す。
それはバレーボールくらいの大きさと重さで、ふにふにしてやわらかい。
「これがおしおきのアイテム?」
「下剤よ」
「……ふぇ?」
「下剤よ」
大事なことだから2回言いました、とでも言わんばかりに、オルカルマールはキメ顔だ。
「…えっと、オルさま、あの…せめて口から出すような…」
「下剤でいいのよ。こじらせ男は尻から排泄されちゃえばいいのよ」
その光景をちょっと想像しようとして、玲はたらりと冷や汗を流した。
でも、そもそもドラゴンの体の中で穢れを撒こう、などという男がいけないのだ。
玲は気を取り直して、ピンクの球体を収納した。
「浄化の力もバッチリこめてあるから、穢れから宿便までキレイに解消よ!」
宿便……玲はもう、そこには触れないことにして、作戦を思い直した。
今回もまた、オルカルマール本人は動けないのだ。突然膨れ上がった神力が制御しきれず、神の間を出ると世界に影響を与えすぎてしまう可能性がある。
「それにアタシは世界の住人に姿を見せたくないの。宗教は争いを生むし、神像とか作られちゃったら恥ずかしいし。創世のおとぎ話の中だけで十分だわ。…だからレイ、お願いね」
玲は強く頷いた。
まずは、寝床と呼ばれる巨岩の開放。
実はあの地下に、穢れに侵された人たちが何十人も閉じ込められているらしい。
そうやって時間をかけてドラゴンを侵食したのだ。ドラゴンが去った後もあの場に穢れが噴出しているのは、彼らがいるからだ。
「まあでも穢れ人間…魔獣に倣って『魔人』とでも言おうかしら。魔人になっていなければ、とっくに餓死したでしょうから、おかげで救える、とも言えるわ」
玲のぎゅっと握っていた拳に、オルカルマールが手を重ねる。
「大丈夫よ」と言われて、玲はほっと肩の力を抜いた。
とらわれた人々を解放した後は、オルカルマールが神の間からドラゴンを誘導してくれる。
そして男を排出してドラゴンを浄化。男の処遇は、エルに任せればいい。
「がんばります!」
「行ってらっしゃい。頼んだわよ!」
玲は神の間から、オカマちゃんの木のおうちへ跳んだ。

夜が明ける前に戻った玲は、目を覚ましていたエルとシャールに話をしたあと、ソファでこてっと眠ってしまった。
玲を着替えさせてベッドに運んだエルがリビングに戻ると、シャールがテーブルの上でナッツをかじりながらによによしている。
『博愛の天使とか…なんともレイらしい』
独り言のような呟きに、エルが答える。
「らしい、か。だが、残酷でもあるな」
博愛とは、『みんな好き』ということだ。それは『レイが好き』な者にとっては、苦しく報われないのではないかと。
『そんなの、レイを愛する側の気の持ちようでしょ』
胸にもやもやとしたものを感じていたエルに、シャールはこともなげに言った。
『独り占めしなけりゃ全員両想いなんだから』
「……そういう考え方も、あるか」
エルの父は国王であり、ハーレムには妃が13人、子供は50人近くいるが、それぞれ気にかけてくれていたな、と思い出す。
あれと同じか、と考えて、エルは苦笑する。自分がハーレムに入る側、と想像したのが可笑しかった。

『エル』

穢れに突き動かされていた時に、エルを呼んだ玲の声。
あれは、エルの暴挙を許す声だった。それが許せなかった。
何に対してなのかわからない程の怒りで、一瞬正気に戻れたのだ。

こと、と小さく音がして、エルが視線を向ける。
するとテーブルの上で大の字になったシャールが、完全に寝落ちしていた。
「しょうのない主従だな」
エルはシャールを摘まみ上げて、玲が眠るベッドに放り込む。
自分はリビングのソファで横になり、夜明けまではと目を閉じた。

翌朝、玲たちは朝食を済ませ身支度を整えると、巨岩の開放をするため外へ出た。
「まずは…ん、と。おふね!」
「………は?」
「ん?」
茫然とするエルの前に、巨大な帆船が浮かんでいる。
助け出した人たちを乗せるために、オルカルマールからもらったものだ。
「君の収納魔法は家だの船だの……まったく、驚かされる」
困ったように笑うエルが玲の背に手を回し、ぽん、と軽く触れた。
たったそれだけのことなのに、玲は朝あったエルとのやりとりのせいか、どきっとしてしまう。
エルは僕のことを心配してくれただけなのに、と、玲は涼しげな横顔を見てから、そっと頬を染めてうつむいた。

『レイ』

『あ、エル、おはようございま─』
洗面所の帰り、廊下で呼び止められて振り向くと、エルが玲の横の壁にトン、と手をついた。
壁とエルに囲われると、触れてもいないのに、エルの体温を感じる。
『…うん、顔色は悪くないな』
空いている手で顎を持ち上げられて、じっとのぞき込まれた。
琥珀色の瞳が朝の光に透けて、とてもきれいだった。
それがうれしくて、玲は『エルもすっきりした顔してる』と微笑んだ。
『レイのおかげだな』と笑う精悍な顔が近づいて、吐息が触れそうな距離になる。
エルの親指が玲の下唇のラインをなぞると、それだけで膝から力が抜けそうだ。
玲は目を閉じてしまいそうになり、思いとどまった。うかつに目を閉じれば、ノーランの時のように迷惑をかけてしまう、と学んだのだ。
なのに唇にエルのあたたかい息がかかった瞬間、玲は背筋に走った甘美な刺激に負けて、睫毛を伏せた。
『……ぅんっ』
けれどエルのキスは訪れず、ふいに心臓の上あたりに手を置かれて、玲の身体がビクンと跳ねた。
その手のぬくもりに肌が疼いてしまうのが、玲はたまらなく恥ずかしい。
『鼓動が早いな。緊張しているか?』
平静な声が余計に羞恥を煽って、玲はどきどきしすぎてめまいを起こしそうだった。
真っ赤な顔で甘い声を出してしまった口元を押さえて頷くと、優しくぽんぽんと頭を撫でられる。
『今日はよろしく頼む。不始末を押し付けるようですまないが…レイなら大丈夫だと信じている』
そう言って、エルはリビングに行ってしまった。
玲は両手で熱くなった顔を覆って、へたり込みそうになる足を叱咤しなければならなかった。

「うぅー、がんばろう~」

赤くなった頬を自分でぺしぺし叩いて、玲は巨岩の結界を見つめた。
エルが自分を信じてくれるのだから、それに応えたい。
「本当に天使のようだな、レイ。綺麗だ」
「…はぅぅ」
結界に近づくため宙に浮かんだ玲は、エルに褒められてまた赤くなる。
照れながらよろよろ飛ぶ玲に、シャールはポケットの中から呆れた視線を向けていた。

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