異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

ことり

文字の大きさ
12 / 60

甘さ加減

しおりを挟む
ていうかドア開いてます、セス!開いてますよ!

「はちみつを溶かしたお茶をご用意しましたが、そちらにお持ちしてよろしいですか?」

声の方を見れば、開いてるドアの向こうの眩しい空間で、白髪交じりの初老の男性が頭を下げたまま立っている。
男性の前にはワゴンがあり、湯気の立つカップや、何かの料理なのかクロッシュをかぶせた皿が乗っていた。

「私が……いえ、給仕を頼みます。ソーヤ、こちらは私の家の執事で、レイモンです」

「レイモンと申します。セス坊ちゃまを困惑させられるお方に初めてお会いでき、光栄でございます」

「…レイモン」

おお、これが本物の執事か、と内心で驚いていると、セスが照れたような表情でレイモンを窘める。
その様子から、さっきの言葉に嫌味や含みのないことがわかり、俺の喉に安堵と笑いと咳が同時にこみ上げた。

だって俺から見たセスはすごく大人に見えるのに。
坊ちゃまと呼ばれてからかわれているなんて、なんだかかわいいじゃないか。

俺がにやついたまま乾いた咳を繰り返していると、レイモンが「どうぞ」とはちみつの香りが立つお茶をセスに渡した。
セスに両手でカップを持たされ、背中を支えられながら口をつける。
介護されているおじいちゃんになった気分だ。

お茶は、すごく、甘い。
しかもどんだけはちみつ入れたのか、とろっとしていて飲み込みにくい。

「…ン、ん…っ…」

一口を何回かに分けて懸命に飲み込む俺を、セスが慈愛に満ちた眼差しで見つめている。
そんな幼い子供を見守るような顔はやめてほしい。恥ずかしいから。喉が痛くて飲みにくいだけだから。

けれど確かにこのはちみつ茶は、俺の喉を滑らかにした。

「…ふぅ。レイモンさん、ありがとうございます。おかげで楽になりました。申し遅れましたが、俺はソーヤ、です」

ぺこりと頭を下げると、「ソーヤ様ですね。よろしくお願いいたします」と、また微笑ましそうな目を向けられる。
まあこの人から見たら、俺はまだまだ子供か。そういえばセスはいくつなんだろう。

思いつくまま尋ねると、「26です」と返された。
おお、10歳上か。やっぱり大人だ。

「ソーヤが興味を持ってくれるのはうれしいですね。なんでも聞いてください」

うぅう、甘い。セスの雰囲気がはちみつ茶より甘いよ。

そんな甘々ムードは軽くスルーしながら、レイモンがヨーグルトに木の実やドライフルーツを入れたものを用意してくれた。
こんなにいろいろしてもらってセスの分がなくならないか心配すると、まだまだあるそうなので安心してありがたくいただく。

そういえばクロッシュはまだ開けられていないな。
お茶にヨーグルトに食事まで持参とか、執事って万能。

「食べ終わったらもう少し眠ってください。元気にならないと、ソーヤの服が届いても出かけられませんよ?」

「う?!」

外まで行けなくても、せめて建物の中くらい見てみたい。

セスとレイモンに見守られながらヨーグルトを食べ終えた俺は大人しく寝かしつけられて、ベッドから2人を見送った。

あれ?

でも俺が寝不足でダルいのって、セスのせい…っていうかセスはなんであんな清々しい顔してんの?
団長が働かないせいで社畜だから、寝なくて平気なの?
坊ちゃまが泊まり込むのはいつものこと、って言ってたもんな。

社畜すげえな。

俺も体力つけよう、と密かに決意して、瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

処理中です...