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甘さ加減
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ていうかドア開いてます、セス!開いてますよ!
「はちみつを溶かしたお茶をご用意しましたが、そちらにお持ちしてよろしいですか?」
声の方を見れば、開いてるドアの向こうの眩しい空間で、白髪交じりの初老の男性が頭を下げたまま立っている。
男性の前にはワゴンがあり、湯気の立つカップや、何かの料理なのかクロッシュをかぶせた皿が乗っていた。
「私が……いえ、給仕を頼みます。ソーヤ、こちらは私の家の執事で、レイモンです」
「レイモンと申します。セス坊ちゃまを困惑させられるお方に初めてお会いでき、光栄でございます」
「…レイモン」
おお、これが本物の執事か、と内心で驚いていると、セスが照れたような表情でレイモンを窘める。
その様子から、さっきの言葉に嫌味や含みのないことがわかり、俺の喉に安堵と笑いと咳が同時にこみ上げた。
だって俺から見たセスはすごく大人に見えるのに。
坊ちゃまと呼ばれてからかわれているなんて、なんだかかわいいじゃないか。
俺がにやついたまま乾いた咳を繰り返していると、レイモンが「どうぞ」とはちみつの香りが立つお茶をセスに渡した。
セスに両手でカップを持たされ、背中を支えられながら口をつける。
介護されているおじいちゃんになった気分だ。
お茶は、すごく、甘い。
しかもどんだけはちみつ入れたのか、とろっとしていて飲み込みにくい。
「…ン、ん…っ…」
一口を何回かに分けて懸命に飲み込む俺を、セスが慈愛に満ちた眼差しで見つめている。
そんな幼い子供を見守るような顔はやめてほしい。恥ずかしいから。喉が痛くて飲みにくいだけだから。
けれど確かにこのはちみつ茶は、俺の喉を滑らかにした。
「…ふぅ。レイモンさん、ありがとうございます。おかげで楽になりました。申し遅れましたが、俺はソーヤ、です」
ぺこりと頭を下げると、「ソーヤ様ですね。よろしくお願いいたします」と、また微笑ましそうな目を向けられる。
まあこの人から見たら、俺はまだまだ子供か。そういえばセスはいくつなんだろう。
思いつくまま尋ねると、「26です」と返された。
おお、10歳上か。やっぱり大人だ。
「ソーヤが興味を持ってくれるのはうれしいですね。なんでも聞いてください」
うぅう、甘い。セスの雰囲気がはちみつ茶より甘いよ。
そんな甘々ムードは軽くスルーしながら、レイモンがヨーグルトに木の実やドライフルーツを入れたものを用意してくれた。
こんなにいろいろしてもらってセスの分がなくならないか心配すると、まだまだあるそうなので安心してありがたくいただく。
そういえばクロッシュはまだ開けられていないな。
お茶にヨーグルトに食事まで持参とか、執事って万能。
「食べ終わったらもう少し眠ってください。元気にならないと、ソーヤの服が届いても出かけられませんよ?」
「う?!」
外まで行けなくても、せめて建物の中くらい見てみたい。
セスとレイモンに見守られながらヨーグルトを食べ終えた俺は大人しく寝かしつけられて、ベッドから2人を見送った。
あれ?
でも俺が寝不足でダルいのって、セスのせい…っていうかセスはなんであんな清々しい顔してんの?
団長が働かないせいで社畜だから、寝なくて平気なの?
坊ちゃまが泊まり込むのはいつものこと、って言ってたもんな。
社畜すげえな。
俺も体力つけよう、と密かに決意して、瞼を閉じた。
「はちみつを溶かしたお茶をご用意しましたが、そちらにお持ちしてよろしいですか?」
声の方を見れば、開いてるドアの向こうの眩しい空間で、白髪交じりの初老の男性が頭を下げたまま立っている。
男性の前にはワゴンがあり、湯気の立つカップや、何かの料理なのかクロッシュをかぶせた皿が乗っていた。
「私が……いえ、給仕を頼みます。ソーヤ、こちらは私の家の執事で、レイモンです」
「レイモンと申します。セス坊ちゃまを困惑させられるお方に初めてお会いでき、光栄でございます」
「…レイモン」
おお、これが本物の執事か、と内心で驚いていると、セスが照れたような表情でレイモンを窘める。
その様子から、さっきの言葉に嫌味や含みのないことがわかり、俺の喉に安堵と笑いと咳が同時にこみ上げた。
だって俺から見たセスはすごく大人に見えるのに。
坊ちゃまと呼ばれてからかわれているなんて、なんだかかわいいじゃないか。
俺がにやついたまま乾いた咳を繰り返していると、レイモンが「どうぞ」とはちみつの香りが立つお茶をセスに渡した。
セスに両手でカップを持たされ、背中を支えられながら口をつける。
介護されているおじいちゃんになった気分だ。
お茶は、すごく、甘い。
しかもどんだけはちみつ入れたのか、とろっとしていて飲み込みにくい。
「…ン、ん…っ…」
一口を何回かに分けて懸命に飲み込む俺を、セスが慈愛に満ちた眼差しで見つめている。
そんな幼い子供を見守るような顔はやめてほしい。恥ずかしいから。喉が痛くて飲みにくいだけだから。
けれど確かにこのはちみつ茶は、俺の喉を滑らかにした。
「…ふぅ。レイモンさん、ありがとうございます。おかげで楽になりました。申し遅れましたが、俺はソーヤ、です」
ぺこりと頭を下げると、「ソーヤ様ですね。よろしくお願いいたします」と、また微笑ましそうな目を向けられる。
まあこの人から見たら、俺はまだまだ子供か。そういえばセスはいくつなんだろう。
思いつくまま尋ねると、「26です」と返された。
おお、10歳上か。やっぱり大人だ。
「ソーヤが興味を持ってくれるのはうれしいですね。なんでも聞いてください」
うぅう、甘い。セスの雰囲気がはちみつ茶より甘いよ。
そんな甘々ムードは軽くスルーしながら、レイモンがヨーグルトに木の実やドライフルーツを入れたものを用意してくれた。
こんなにいろいろしてもらってセスの分がなくならないか心配すると、まだまだあるそうなので安心してありがたくいただく。
そういえばクロッシュはまだ開けられていないな。
お茶にヨーグルトに食事まで持参とか、執事って万能。
「食べ終わったらもう少し眠ってください。元気にならないと、ソーヤの服が届いても出かけられませんよ?」
「う?!」
外まで行けなくても、せめて建物の中くらい見てみたい。
セスとレイモンに見守られながらヨーグルトを食べ終えた俺は大人しく寝かしつけられて、ベッドから2人を見送った。
あれ?
でも俺が寝不足でダルいのって、セスのせい…っていうかセスはなんであんな清々しい顔してんの?
団長が働かないせいで社畜だから、寝なくて平気なの?
坊ちゃまが泊まり込むのはいつものこと、って言ってたもんな。
社畜すげえな。
俺も体力つけよう、と密かに決意して、瞼を閉じた。
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