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ことばの謎
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今度は夢も見ずに熟睡した。
目を覚ましてカーテンを開けると、太陽が空のてっぺんにさしかかっている。
ぐっすり眠ったせいか頭も体もすっきりした。あちこち筋肉痛だけど。
だってすごい体位とか…いや、過ぎたことは思い出すまい。
そっと隣の執務室に続くドアを開けると、セスが書類から顔を上げ、「ソーヤ」と俺を呼んで微笑んだ。
つられて俺も笑顔を返す。
他に人はいないようなので、寝巻きにスリッパのまま室内に入った。
「おかげでよく休めました。ありがとうございます。レイモンさんにもよろしくお伝えください」
「ええ。顔色も良くなりましたね」
この部屋を見たとき、秘書席(仮)と感じた席がセスの机のようだ。
じゃあ社長席(仮)が団長の席だな。
書類の束をトン、と軽くそろえたセスが、「おいで」と俺を手招く。
傍に立つと腕を引かれ、横向きに膝の上に乗せられた。
「…セス、俺、邪魔では……」
「ソーヤは私の癒やしですから」
俺を抱っこしたまま、セスが次の書類を手に取る。俺はネコ扱いか。
ネコなら膝の上に収まるが、人間の俺は大いにはみ出している。
セスの身長は180を超えているだろうけど、子供と大人ほどには体格差はない。
なるべくセスの妨げにならないようにすると、首に腕を回してぴたっとくっつくことになる。
絶対これセスの癒やしになってない。
でもこうしていると、魔力が混じる、という感じがよみがえってくる。
俺から何かが、例えるなら風呂上がりの湯気みたいなのがふわっと出て、セスに吸い込まれていくみたいだった。
もしこれが魔力ってもので、それでセスが癒やせるってことだろうか。
そこにあるならなんか役立ってみせろ、俺の魔力ちゃん。
「…ふふ。相性がいいと、こんなに心地良いものなんですねえ」
書類を繰り、分類し、サインを書き込んでいたセスの横顔がふっと和らぐ。
相性って俺のこと?それともひとりごと?と思いながら黙って見つめていると、こちらに首を傾けたセスが俺の唇を軽くついばんだ。目を細めて微笑んでから、何事もなかったかのように作業に戻る。
て、照れる。
キス以上のことも散々したのに、この何気ないいちゃいちゃがくすぐったい。
セスの横顔を見ているのが恥ずかしくなって、机の上の書類に視線を向けた。
団員からの予算申請や稟議、他部署からの依頼など内容は多岐に渡っている。
それが見知らぬ字なのに当たり前に読めている事に、改めて疑問が湧いた。
「…どうして俺は、字が読めるんでしょう?」
「え?ソーヤの国は識字率100%……ああ、もしかして、言葉が違いますか?」
「文字も言語も、全然違います。でも、自然に読めて、話せるんです」
紙の切れ端に俺の世界の文字で何か書いてみるように言われ、漢字とひらがなで『私は蒼夜です』と書いた。もう1行、異なる国の言語だと前置きして『I'm Soya』と記す。英語とかの方がこの世界に近い気がしたからだ。
「…ソーヤの国の文字は複雑ですね。もうひとつの方は、解読可能、というか法則が近い感じがします。同じ世界でも、国が違うだけで随分と方向性が違って興味深いです」
「俺の国は単一民族から成る島国でしたから、独自の発展をしたようです」
鎖国を解いて海外の人や物が当たり前に流入するようになってから、200年も経っていない。
そう考えれば、俺の髪や目の色をとやかく言われるのも仕方がなかったと言えるだろうか。
学校という、鎖国に似た閉鎖的な枠の中だから、異端に見えたのだろうか。
『社会に出ればカンケーねえな。学校なんか辞めちまえば?』
なんて言ってたのはセンパイだったかな。あの人なんつうか、極端なんだよな。
「んっ、ぅん?」
つらつら考えていたら、いつのまにかセスとキスをしていた。
入ってます!舌、入ってますよ、セスさん!
「…ソーヤがこちらの言語を理解できる点については、ひとつ心当たりがあります」
「ぁっ…ふ…?」
セスが唇を触れ合わせたまま喋るので、まぬけな声が出てしまった。
「そこにある団長の机、右上の引き出しから、黒い箱を出してください」
俺はセスの膝から下り、言われたとおりに箱を出す。
そのままふたを開けて中を見るように言われて、古い紙束を慎重に手に取った。気を付けないと、風化して崩れてしまいそうだ。
「ソーヤ、何が書いてあるか読めますか?」
「……ええと、全体の意味はよく分かりませんが、単語のいくつかは分かるみたいです」
ところどころ分かった感じでは、魔法の術式みたいなものかな?程度だ。
セスは頷いてから、戻ってくるよう手招きしている。
俺は元通りに箱を片づけて、元通りにセスの膝に収まった。
「召喚した者と召喚された者の間に、何らかの感覚がつながる場合があります。相手が魔獣や精霊であれば、意思の疎通ができるようになる、同じ魔法が使えるようになる、互いの居場所がわかるようになる、とかですね。何一つつながらないこともありますが」
なるほど。お互いにチャンネルが合うとか、パスが繋がる、ってことだろうか。
じゃあ俺がこっちの世界の言葉を理解できるということは。
「さきほどソーヤに見ていただいたのは、団長が一人で解読中の古代魔術語の魔術式です。召喚された時、ソーヤは団長の言語知識とつながったのではないかと思います」
「そういう、ことですか…」
「アレは言語と魔術に関しては突出しています。いささか悔しい気もしますが、ソーヤと言葉が通じるのは私にとってもありがたいですね」
セスはそう言って、俺にさっきよりもうちょっと深いキスをした。
目を覚ましてカーテンを開けると、太陽が空のてっぺんにさしかかっている。
ぐっすり眠ったせいか頭も体もすっきりした。あちこち筋肉痛だけど。
だってすごい体位とか…いや、過ぎたことは思い出すまい。
そっと隣の執務室に続くドアを開けると、セスが書類から顔を上げ、「ソーヤ」と俺を呼んで微笑んだ。
つられて俺も笑顔を返す。
他に人はいないようなので、寝巻きにスリッパのまま室内に入った。
「おかげでよく休めました。ありがとうございます。レイモンさんにもよろしくお伝えください」
「ええ。顔色も良くなりましたね」
この部屋を見たとき、秘書席(仮)と感じた席がセスの机のようだ。
じゃあ社長席(仮)が団長の席だな。
書類の束をトン、と軽くそろえたセスが、「おいで」と俺を手招く。
傍に立つと腕を引かれ、横向きに膝の上に乗せられた。
「…セス、俺、邪魔では……」
「ソーヤは私の癒やしですから」
俺を抱っこしたまま、セスが次の書類を手に取る。俺はネコ扱いか。
ネコなら膝の上に収まるが、人間の俺は大いにはみ出している。
セスの身長は180を超えているだろうけど、子供と大人ほどには体格差はない。
なるべくセスの妨げにならないようにすると、首に腕を回してぴたっとくっつくことになる。
絶対これセスの癒やしになってない。
でもこうしていると、魔力が混じる、という感じがよみがえってくる。
俺から何かが、例えるなら風呂上がりの湯気みたいなのがふわっと出て、セスに吸い込まれていくみたいだった。
もしこれが魔力ってもので、それでセスが癒やせるってことだろうか。
そこにあるならなんか役立ってみせろ、俺の魔力ちゃん。
「…ふふ。相性がいいと、こんなに心地良いものなんですねえ」
書類を繰り、分類し、サインを書き込んでいたセスの横顔がふっと和らぐ。
相性って俺のこと?それともひとりごと?と思いながら黙って見つめていると、こちらに首を傾けたセスが俺の唇を軽くついばんだ。目を細めて微笑んでから、何事もなかったかのように作業に戻る。
て、照れる。
キス以上のことも散々したのに、この何気ないいちゃいちゃがくすぐったい。
セスの横顔を見ているのが恥ずかしくなって、机の上の書類に視線を向けた。
団員からの予算申請や稟議、他部署からの依頼など内容は多岐に渡っている。
それが見知らぬ字なのに当たり前に読めている事に、改めて疑問が湧いた。
「…どうして俺は、字が読めるんでしょう?」
「え?ソーヤの国は識字率100%……ああ、もしかして、言葉が違いますか?」
「文字も言語も、全然違います。でも、自然に読めて、話せるんです」
紙の切れ端に俺の世界の文字で何か書いてみるように言われ、漢字とひらがなで『私は蒼夜です』と書いた。もう1行、異なる国の言語だと前置きして『I'm Soya』と記す。英語とかの方がこの世界に近い気がしたからだ。
「…ソーヤの国の文字は複雑ですね。もうひとつの方は、解読可能、というか法則が近い感じがします。同じ世界でも、国が違うだけで随分と方向性が違って興味深いです」
「俺の国は単一民族から成る島国でしたから、独自の発展をしたようです」
鎖国を解いて海外の人や物が当たり前に流入するようになってから、200年も経っていない。
そう考えれば、俺の髪や目の色をとやかく言われるのも仕方がなかったと言えるだろうか。
学校という、鎖国に似た閉鎖的な枠の中だから、異端に見えたのだろうか。
『社会に出ればカンケーねえな。学校なんか辞めちまえば?』
なんて言ってたのはセンパイだったかな。あの人なんつうか、極端なんだよな。
「んっ、ぅん?」
つらつら考えていたら、いつのまにかセスとキスをしていた。
入ってます!舌、入ってますよ、セスさん!
「…ソーヤがこちらの言語を理解できる点については、ひとつ心当たりがあります」
「ぁっ…ふ…?」
セスが唇を触れ合わせたまま喋るので、まぬけな声が出てしまった。
「そこにある団長の机、右上の引き出しから、黒い箱を出してください」
俺はセスの膝から下り、言われたとおりに箱を出す。
そのままふたを開けて中を見るように言われて、古い紙束を慎重に手に取った。気を付けないと、風化して崩れてしまいそうだ。
「ソーヤ、何が書いてあるか読めますか?」
「……ええと、全体の意味はよく分かりませんが、単語のいくつかは分かるみたいです」
ところどころ分かった感じでは、魔法の術式みたいなものかな?程度だ。
セスは頷いてから、戻ってくるよう手招きしている。
俺は元通りに箱を片づけて、元通りにセスの膝に収まった。
「召喚した者と召喚された者の間に、何らかの感覚がつながる場合があります。相手が魔獣や精霊であれば、意思の疎通ができるようになる、同じ魔法が使えるようになる、互いの居場所がわかるようになる、とかですね。何一つつながらないこともありますが」
なるほど。お互いにチャンネルが合うとか、パスが繋がる、ってことだろうか。
じゃあ俺がこっちの世界の言葉を理解できるということは。
「さきほどソーヤに見ていただいたのは、団長が一人で解読中の古代魔術語の魔術式です。召喚された時、ソーヤは団長の言語知識とつながったのではないかと思います」
「そういう、ことですか…」
「アレは言語と魔術に関しては突出しています。いささか悔しい気もしますが、ソーヤと言葉が通じるのは私にとってもありがたいですね」
セスはそう言って、俺にさっきよりもうちょっと深いキスをした。
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