異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

ことり

文字の大きさ
42 / 60

新婚か

しおりを挟む
セオドアと話した後はセスの部屋に戻り、レイモンとキャスに貴族家の種類や数を教えてもらった。

爵位の順は上から公・候・伯・子・男、他に辺境伯、騎士爵があり、辺境伯は侯爵と、騎士爵は男爵と同等くらい。貴族名鑑、という分厚い本を見せてもらったが、貴族多すぎ。

「王都に住まう上級貴族は覚えた方がよろしいでしょう。 あとはフロイラス家と縁深い家ですね」

「ソーヤ様と年齢の近い子女がいる貴族家も押さえておいた方が良いと思いますわ」

レイモンとキャスがどんどんリストアップしていくのを、俺が貴族名鑑で調べていく。そもそも外国風の名前が覚えにくい。佐藤とか鈴木ならなんとかなるのに。

「では私は一旦下がらせていただきます」

「レイモン、忙しいのにありがとう」

夕食の指示の為にレイモンが出て行った後、キャスには下級貴族について教わった。
もう頭がパンクしそうだ。

「ソーヤ様、他に何か、お知りになりたい事はございますか?」

キャスが改めてそう聞いてくれたので、俺は身を乗り出すようにして「セスを脱がしたい」と相談した。「あらあらまあまあ、うふふ」と笑われてから、言葉が足りなかった事に気付く。

「えと、帰宅時にメイドの方が上着を脱がしたりするでしょう?ああいうのです」

もちろんそれ以上も脱がしたいし、キャスが俺の服を脱がしにかかった時の技も気になる。
だがしかし、俺がやりたいのはそんな高度なものではなく、ただ仕事から帰るセスを労いたいのだ。

「わかりましたわ。女性をエスコートする際の練習にもなりますわね」

そうしてキャスの指導による上着を着せたり脱がしたりする練習なんかもしていたら、あっという間に日が暮れてセスが帰宅した。

「セス、おかえりなさい」

「…ふふ、ただいま、ソーヤ」

広い玄関先で、使用人に囲まれながらのハグとキス。もうそこらへんは気にしたら負けだ。
すかさずセスの背後に回って上着を取ろうと思ったけど、セス、キスの回数多い。そして長い。

「ん、んっ…セス、上着…」

俺の意図を察したのか、セスはクスッと笑ってから腰に回していた手を離してくれた。俺はセスの肩からローブを外して袖を抜いた後、そばに控えていたキャスへと渡す。

するとセスの腕がすぐに俺の背へと回され、「ありがとう、ソーヤ」という囁きを乗せた唇がこめかみに降りてきた。なんか新婚さんみたいで照れるな。

「夕食はソーヤと2人でとります」

「かしこまりました。後ほどお呼びします」

セスの部屋に向かいながら横顔を見上げると、すいと細めた瞳が微笑んだ。

「今日は食事のマナーに違いがあるのか確認しましょう。明日は我が家の晩餐に参加していただきますからね?」

「ふぁい…」

ごはんも勉強か。まあそうだよね。
俺は頷いて返し、夕飯に向けて気合を入れた。



結論として、ナイフとフォークの使い方にはさほど違いはなかった。
あとは姿勢とか、指先まで神経をめぐらせて優雅さを意識するとか、セスの細やかすぎる指導が入る。意識せずに出来るようになるには時間がかかりそうだ。箸の持ち方には自信があるんだけどな。

「ソーヤは元の所作がきれいですからね。少し意識すれば、すぐに身に付きますよ」

「だとしたら、母のおかげです」

幼いころ、俺にテーブルマナーを教えてくれたのは母、カヤだ。
特に気にしたことはなかったけど、9歳までに覚えたことが未だに出来ている、ということは、カヤの教えがよかったからだろう。

デザートを食べながらカヤを思い出して頰を緩めていると、広いテーブルの向こうでセスが優しい眼差しを向けていた。
「早くソーヤを抱きしめたいです」って、まだ食事中だからね?初めての時みたいに、ごはんの途中でベッドに連れ込むのやめてね?

あの時といい今といい、セスのスイッチがどこにあるのかイマイチわからない。
まあ、これからずっとそばに居られるんだから、ゆっくり知っていけばいいかな。

食後はセスに清潔魔法をかけてもらって、お部屋でまったりタイム。
魔法があるからお風呂は完全に趣味の範囲で、徹夜が続いた時や、休日に入るんだそう。
俺が今日やってもらったメイドさんのマッサージ付きは、パーティとか登城とかのおめかしして出かける時のみらしい。

「毎日使ってもいいんですからね?」

「んー、たまに湯船に浸かれればいいです。それより、セスの使う清潔の魔法、覚えたい」

元の世界のシャンプーや石鹸より、セスの魔法の方が髪も肌もさらさらになるんだよね。髪質も少し変わった気がする。こんなに指通り良くなかったし、つやつやしてなかった、はず。
お風呂は好きだけどシャワーで済ませることも多かったし、体を洗うという点で比較するなら、魔法の方が優秀だと思う。

「ソーヤは魔力量が多いですから、念のため、もう少し魔力操作の精度を上げてからの方がいいですね。明日からは一緒に出勤しましょうか」

「ん…セス、ありがとう…」

俺たちはパジャマに着替えてベッドに横になっている。
仰向けに寝転ぶセスの肩に、頭を乗せて甘えているような格好だ。えっちな事をしないでいちゃいちゃするのは初めてかもしれない。

「セスとこうしてゆっくりするの、落ち着きます」

「ふふ…私もですよ」

時々軽いキスを交わしながら、お互い今日の出来事を静かに語った。
俺からはセオドアと話したことや、貴族名鑑が分厚くてひどいってこと。セスからは、ジュードが相変わらずファスナーに夢中で、通常業務をほったらかして鍛冶屋回りをしていて困る、なんて話を聞いた。思わず笑ってしまう。

「ソーヤ、戦争の話を聞いたのですね…」

心地よいセスの腕の中にいるとゆっくりと眠気がやってきた。
いつのまにかうとうとと微睡んでいたら、セスの独り言のような呟きが聞こえて重い瞼を持ち上げる。

「戦争は……いや。怖い」

「ええ、そうですね…」

セスの指が髪を撫でて、その優しい感触にまた瞼が落ちてくる。「んにゅ…」と変な声が出てしまった。

「セスもジュードも強いけど、や、です。行かせたくない、から…」

ぎゅ、とセスに抱き寄せられて、その広い胸に乗っかる体勢になる。
あったかくて気持ちいい。伝わる体温と魔力が、俺を慈しんで、包んでくれる。

「そばにいられるよう、強く、なる…」

もしまた二人が戦いに出ることになっても、離れたくないから。
並び立てなくても、後ろにくらいは立てるようになるから。

だから待ってて。

最後まで言えたかどうかわからないけど、ふっと微笑むような吐息を頬に感じて、俺はこの上ない幸福感に満たされながら意識を手放した。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

処理中です...