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よつば猫

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8月ー3

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「あっつーい!
けど相変わらずっ、私達のプライベートビーチは最っっ高だねっ!
早坂隊員、荷物ごくろーさまですっ」

 そう言って、めちゃくちゃ可愛い敬礼ポーズを見せるキミ。

 そこは去年デートで天文台を訪れた時に、楽しさ探検して見つけたビーチで。
今日は重大な目的で来ていた。

 もちろんプライベートビーチじゃないけど、そう言いたくなるのは当然で……
天文台の裏道をかなり進んだ所にある灯台から、目立たない脇道に入って。
その野生的な山道をだいぶ下った先に開けたビーチで、小さいけど完全に貸切状態だ。

 近くに民家もなく、ひっそりと隠れた灯台は滅多に誰かが訪れる事もなく。
けっこう歩くから、夏は逆にひと気がなくて最高の穴場だ。

「ねねっ、さっそく海入ろっ?」

「うん、今にも溺れそうだけど」

「え、道哉もカナヅチっ?」

「そうじゃなくて……」
キミの後頭部に手を回して、すぐにキスに溺れた。

 実際ここなら、その身体に溺れる事も出来るけど……
ちゃんと結歌を楽しませたいから、なんとか切り替えて。

 その後は海の中で戯れ合ったり、砂浜ではしゃぎ回ったり……
8月早々の眩しいビーチを堪能した。


「今度来た時の為に、なんか埋めよっか」

「タイムカプセル的なっ?
それいい!でもなに埋めよっかなぁ~」

「俺マジック持ってるからさ。
そこの貝殻に一言書いて、とかは?」

「あれぇ?用意周到ですね~」
バレバレな演出に、ニマニマ顔が向けられたけど。
演出はまだ続いてる。

 重大な目的に向けて前もって仕込んでたそれを、キミはまたキザだって笑うかな?

 まずは穴を掘ろう!と提案して、しばらく掘り進めると……

「んっ?
なにこれっ……
え、先約かなっ?
誰かのタイムカプセルっ?」

 キミは出て来たジュエルブランドの紙袋を手にして、中身を覗いた。
一連の隙に俺は、さっきの大きな貝殻にメッセージを刻んだ。

「うわ、リングケース!
ココ掘り出しちゃダメなトコだよっ」

「大丈夫だよ。
見つけた人のもんだから」
そう言って貝殻をキミに差し出した。

「ワケないじゃん!もおっ……」
手で突き返そうとしたキミが、その貝殻と刻まれたメッセージを映して……
固まる。

 "結婚して下さい"
そう伝える貝殻と、砂浜から出て来たリングケース。

 たぶん頭の中は状況判断で忙しいキミから、手元の紙袋を回収すると。

「一生、俺の隣に居てくれませんか?」
取り出したリングケースを開けて、キミの前に差し出した。

 ゆらゆらと、エンゲージリングから俺へと視線を移したキミは……
途端、両手で顔を覆って俯いた。

 その身体は微かに震えてて……
泣いてるんだと思った。

 なのに急に顔を上げて。
マジックと自分用の貝殻を手に取って、メッセージを刻んだそれを突き出して来た。

 "キザ!"
そう伝えて来た貝殻に……
思わず吹き出しそうになる。

「え、返事は?」
笑いを抑えて、気が気じゃない答えを訊くと。

 キミは視線を外して、戸惑い顔を覗かせた。
一気に不安が押し寄せた矢先。

「私で、いいのかなぁ……」
なぜか自信なさげに呟くキミ。

「むしろ、結歌じゃなきゃダメだよ。
結歌以外、ありえない」
想いを詰め込んで伝えると。

 バッと俺を映したあと、今にも泣きそうな笑顔で頷いて……
言葉に詰まった様子で、左手を差し出して来た。

「結歌っ!
俺、幸せにするよっ」
不安になった分、嬉しさが爆発して思わずキミを抱きしめた。

「っっ……
もぉ、結婚は共同作業だよっ?
2人で幸せを築こーねっ。
あと、薬指が指輪を欲しがってまぁす」

 そう言って耳元でクスクス笑うキミに、悶えながら……
すぐに指輪で、2人の未来を繋いだ。

「じゃあさっそく次の日曜、結婚挨拶に行こう!」

「っ、気が早いよっ……
それに、急には休み取れないって」

 それもそうだ。
だけど嬉しくて興奮してた俺は、早くキミと家族になりたくて気が逸る。

「そうだ!
盆明けの日曜、知り合いの結婚式で休み取ってたよな?
確か午前中で……
二次会は行かないって言ってたよなっ?
じゃあ俺が早退出来たら、その日に行こう!」
ハイテンションで提案するも。

 戸惑いがちに頷いたキミに……
再び不安が滲み出してた。



 だけど数日後。
今月の新刊の見返しを開いて、ホッとする。

 それどころか、そんなに幸せを感じてくれてたんだって……
俺の方が幸せで堪らなくなる。

 俺もキミの為ならどんな事でも頑張るし、どんな夫婦にでもなってみせるよ。
キミは十分、俺には勿体無いくらい素敵だし。
相変わらずキミのメッセージは可愛いくて……
心がぎゅっと掴まれる。


《幸せの証に、メッセージ本を贈ります。

プロポーズ、ありがとう。
そして、超~絶にステキな指輪をありがとう!

手の込んだ演出は、そのぶん道哉の気持ちが詰まってて……
もうキザ王子に、完っ全にヤラれてメロメロです!
自分が壊れちゃうんじゃないかと思うくらい、狂喜してましたっ。

私はなんて幸せものなんだろうって、苦しくなるほどで……
あまりに幸せすぎて、怖かったくらいです。
だから逆にぎこちない態度になっちゃって、ごめんね?

あとね、ちゃんと道哉を支えられるかな?って自信もなかったんだけど……
でも道哉のためなら、なんだって頑張れそうな気がします!

道哉はどんな夫婦になりたいですか?
この本みたいな夫婦も可愛いと思いませんかっ?
道哉にふさわしい、ステキな奥さんを目指します!
この先もずっとずうーっと、よろしくですっ》
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