元カノがめんどくさい

よつば猫

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 そして、その日がやって来た。


「わざわざすみませんっ」

「いやいやっ、俺が誘ったんだし!
それに、どのみち家まで案内しないとなっ」

 待ち合わせした場所まで迎えに来てくれた遥さんと、挨拶を交わす。

「あ、彼女の奈々です」

「初めましてっ、清松奈々です。
今日は誘って下さって、ありがとうございますっ」

「こちらこそっ、来てくれてありがとう!
俺は須藤遥、気軽に遥って~」とまた、お互いの名前呼びが提案される。


 車中の会話では……
遥さんが大手一流企業の主任をしてると知って、さっそく敗北感とゆう痛手をくらう。
そりゃあ僕の会社もそこそこだけど、立場はしがない営業マン。

 この先起こるであろう、さらなる痛手に不安を抱えつつ……
鍋パ会場こと、立派なマンションの1人暮らしには広そうな遥さんの家へ到着。

 はい、第2の痛手。
どーせ僕は大学時代から住んでるしがないアパートだもんねっ!
なんてヤケクソ……


「ただいま~!戻ったよ~」

「おかえり~!」

 遥さんの声掛けに対して、奥から聞こえた元カノの声に……
けっこーな痛手をくらう。
いや、ここでその4文字は聞きたくなかった。

 僕がそのダメージにやられてる隙に。
「いらっしゃ~い!」と出て来たその人に、奈々が率先して挨拶をすると。

「初めましてっ、本庄司沙ですっ!
ぜんぜん気とか使わなくっていーから、仲良く司沙って呼んでっ?」から始まって。
遥さん同様、お互いの名前呼びが提案される。

 キミら似たものカップルなの?


 リビングに入ると。

「これ、司沙さんがひとりでっ?」

 完璧なまでに準備された具材やテーブルセッティングを映して、奈々が申し訳なさそうに尋ねる。

「まぁ途中まで遥も手伝ってくれたし?
それにこの人鍋好きだからさぁ!
最近じゃいつもの事ってゆーか?」

 ふーん。
鍋とはいえ、遥さんには手料理作ってあげてるんだ?
ふーん……
や、別に全然いんだけどさ!


「え~、それじゃあ!
親睦を図って、愛すべき鍋を楽しもうっ。
乾杯~!」
会の始めに、そう音頭をとった遥さん。

 もうひとつの目的だったはずの、看病のお礼については触れられず。
奈々に今回のいきさつを話してなかった僕としては、ありがたかった。

 きっとそれは遥さんなりの配慮で……
鉢合わせしたあの時、もしかしたら今も不安だから。
同じ立ち位置の奈々もそうならないように、気遣ってくれたんじゃないかと思った。

 だとしたら、なんていい人なんだろう。
しかも、「しっかりフォローする」の宣言通り……

「奈々ちゃん、ホタテ食えるっ?」

「はいっ、大好きですっ」

「よっしゃ!たーんと食いなっ?
あとほらっ、塩バター鍋と言ったらポテト!
あっ、椎茸も旨いぞ~」

「ああっ、入れすぎですっ。
でも、ありがとうございますっ!」
山盛り状態を前に、笑い出す奈々。

 どって事ない気遣いだとしても。
遥さん特有の気さくな雰囲気と、そのフレンドリーさが功を奏して……
奈々は楽しそうだ。

 やっぱりこの鍋パは、山口さんの胸を痛めつけるパーティーだ。
いっそ嫌な人だったらよかったのに……


「それにしてもイケメンだな~!
いや改めてっ」
そう僕に視線を向ける遥さん。

 いきなりな誉め殺しに、鍋から取ってるアスパラを思わず落としそうになる。

「奈々ちゃんもめっちゃくちゃ可愛いし!
ほんと、お似合いのカップルだよなぁ~。
それに引きかえ……
司沙ぁ、俺なんかで良かったのか~?」

「な~に言ってんのっ、遥も十分男前だって。
それに蓮斗の場合は……残念なイケメン?
もぉっ、奈々ちゃんみたいなステキなコ、蓮斗にはもったいないって!」

 言ってくれるね本庄さん!
てゆうか失笑してるその人は論外として、奈々までそこ笑っちゃう!?

 思わず不満のオーラが込み上げると。
ふと目が合ったその人は、とたん言いすぎたと言わんばかりに、しゅんとした顔を覗かせる。

 ああもう、なんてめんどくさい!

「でもそんな所もっ」
そこで奈々が、笑いを収めて話し出す。

「ダメな所も嫌な所も。
好きな人の事は、全部含めて受け止めたいです」

 それは、僕の胸を射抜くには十分すぎる言葉で……

 そっか。
奈々が笑ったのはきっと、本庄さんへの配慮で。
そんな事も含めて、なんていいコなんだろう……
改めて、このコを大事にしたいと思った。

「わかるっ!」
すると今度は遥さんが、溜め込んで放つように口開いた。

「俺もそう!俺なんかのめり込んじゃう方だから尚更っ。
なにがあったって愛し抜くしっ。
もう浮気する奴とかの気がしれないよ!」

 すいません、それは僕です……
最後のセリフに、なによりも痛手をくらう。

 そもそもそれは、敗北感以前の問題で……
僕が致命的に論外な所。
もう情けなくて、申し訳なくて……
元カノのキミを視界に入れるのも怖くなる。

 いや飲もう!
とりあえず今は、飲んで忘れてせっかくだから楽しもう!
そうなんとか無理やり切り替える。

 いいタイミングで話題も他へ切り替わって。
しばらく鍋を堪能しながら、飲み進めてると……
ビールが進まなくなった奈々に気づく。
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