欲情プール

よつば猫

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流れる欲情1

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「それ、次のプロジェクトですか?
私の業務は終わったので、手伝いますよ?」

 さっきから難しい顔でPCや資料と睨み合いをしてる慧剛に、声掛ける。

「いや、これは……
株主達を納得させる条件を模索してるんだ」

「……やっぱり、会社は捨てないんですね」

「ん。
そんな事したら彼女はきっと、責任を感じて罪悪感を背負い込むだろうから」

 自分の気持ちを押し殺してまで、そんなにその人の事を……

 寄りを戻さないのは、嬉しい筈なのに。
切なさで息が詰まって……
それを誤魔化すように、話を他に向けた。

「でもこれ以上まだ、納得させる条件が必要なんですか?
それとも何か、企んでます?」

 この前のプロジェクトは成功を収めて、順調に業績を伸ばしてるし。
あのコとの結婚で業務提携が上手くいけば、それで充分じゃないの?

 慧剛は、そんな私を意味深に見つめて……
「さぁな」と笑った。

「なんですかそれ!
相棒の私に、また秘密にする気ですかっ?」
そう怒ると。
ハハッて、やんちゃな笑顔が零れた。

 最近の慧剛は、思い詰めた雰囲気だったから……
その大好きな笑顔は、かなり久しぶりに感じて。
胸がどうしょうもなく握り締められる 。




 だけど、ベッドでの私達は……
相変わらず欲情に飲まれてて。
それどころか、どんどん狂的さを剥き出していた。

 狂おしい感情は、手に負えなくなってて……

 愛してるっ……
違う!愛じゃないっ。
そんな葛藤でおかしくなるほど。

「いやっ!離れないでっ……」
度重なる絶頂の後、不意に身体を起こそうとした慧剛にしがみ付くと。

「っっ!
離れないっ……
だから俺を、もっと求めてくれ!
身体だけじゃなく、っっ……」
そう強く強く、抱き締められる。

 それはどう言う意味なのっ?
だけどすぐにまた。
その体温ナシじゃ、息も出来ないかのように。
息継ぎをするかのように。
我武者羅に、一心不乱に求め合う。

 身体を、ぐしゃぐしゃに結んで……
絡めて、絡めて……
このまま私達が絶対離れないように、解けなくなればいいのに!

 そんな私達は、終わりを予感していたのかもしれない。





 8月が終わり。
その日も、欲情に飲まれてた私達は……
情事を終えて、専務室を後にした。

「ねぇ、もし私達が夫婦だったら、」
不倫モードを引きずったまま、ふと思い付いた事を口にすると。

 途端、目を大きくして驚く慧剛。

 そんなに焦らないでよっ。
それを求めて口にした訳じゃない。

「っ、こんなに抱き合ってばかりじゃ、すぐに飽きちゃうかもしれないね」
慌ててそう続けた私から。

 不機嫌そうに顔を背ける慧剛。

 夫婦だなんて、例えでも口にされたくなかったの?
胸が切なく締め付けられると。

「もし俺達が夫婦でも。
毎日抱き合っても、どれだけ抱き合っても。
茉歩に飽きる事なんて、一生ない」
目に映る横顔は、凛とそう断言した。

 私は嬉しくて……
ありえないほど嬉し過ぎてっ……
あまりの嬉しさに。
クールに取り繕うどころか、気持ちを隠すのも忘れて。
泣きそうになりながら、その横顔に囚われた。

 当然、慧剛は……
何も返さない私の反応を、確かめるべく向き戻って。
涙ぐむ私に、再び驚く。

 そしてそれは慧剛を煽って……
抑えきれなくなった私達は、マンションの通路にも関わらず。
お互いの唇を求めずにはいられなかった。

 甘すぎる吐息を溶かし合って。
唇を押し付けるように這わせ合って。
口内をめちゃくちゃに交ぜ合って。
その艶音と漏れる艶声は、その場に響いて。

 ダメだっ、このままじゃ……
そう思っても、止められない。

 ねぇ、今までどうしてたっ?
キスの止め方が、もう解らないっ……

 溜まり過ぎた欲情は、とうとう溢れて……
TPOも侵すほどに流れ出す。


「ほーらねっ。
私の言った通りじゃない」
突然、響き渡った声に。

 私達はビクッ!と唇を離して、その声の方に視線を向けた。

 そこには……
慧剛の婚約者、ロミと。
愕然とする聡の姿が!

 取り繕う事も出来ない状況に、言葉を失くして。
思考は混乱して何も考えられず、ただただ狼狽えると。

「ケーゴが寝てる間に。
わざわざ知り合いにまで頼んで、せっかく作ってもらったってゆーのに……
イミないじゃんっ」
専務室の合鍵らしきものを、掲げた片手にチラつかせて。
使うまでもなかった状況を嘲笑う。

「ねっ?聡。
奥サンが仕返ししてるって言ったでしょ?
かわいそーに。
私を選ばないからこんな目に合うのよ。
それで?ケーゴも仕返しのつもり?
どーゆー事なのか説明して!」

 私達の計画で、このコがヤキモチを妬けば……
当然、慧剛の浮気相手が誰なのか気になるだろう。
慧剛の目論み通り、噂にもなってる秘書の私がまず疑われて。
その苗字を知ったら……
こうなるに決まってた。

 その時フッと、隣から冷笑が零れて。
視線を向けると、不敵に笑う慧剛が映った。

「ああ、仕返しだ。
ただし……
矛先はこいつらだ」
一度伏せられたその目が……
冷ややかな目に変化して、私と聡を順になぞった。

 その瞬間、ドクリ!と。
心臓が衝撃を鳴らして、息を飲む。

「俺の女(露美)に手を出して、挙句裏切った男(聡)に報復して。
お前を苦しめた女(茉歩)を弄んだ」

 科白に合わせて、私と聡に向けられた視線は……
恐ろしく冷酷で、その声と口調は嘲っていて。
今まで目にした事のない、耳にした事のないそれは……
それが本性なのかと思わせる。

「露美、全部お前の為の仕返しだ。
お前の愛が欲しかった」
前述の時と反して。
その眼差しと声音は、切なげで優しくて……

 演技なのか真実なのかは問題じゃないほど。
寧ろそれを図る余裕すらないほど。
慧剛の口から目の前で浴びせられたそれらは、あまりにも強烈なショックで……
痛烈に打ちのめされた私は、茫然自失になる。

 心はまるで、硫酸でもかけられたみたいに痛くて。
もはや痛いなんてレベルじゃなくて……
灼け溶ける。

「っ、ウソっ!
だったらなんでまだ関係を続けてるのっ!?
私の愛ならあげてるじゃないっ。
そんな言葉じゃゴマかされないからっ!」

「落ち着け、露美。
取り敢えず。
仕事はデキる女だから、使えるだけ使ってただけだ。
元より。
近付く為と、最終的には辞めさせるダメージも与えるつもりで雇った訳だが。
今の労基法じゃ、簡単に解雇出来ない。
だからそのうち。
お前との仲を見せつけて、用済みだって現実を突きつけて。
自ら去るように仕向けようと、タイミングを計ってた所だったんだ。
嘘じゃない」

「っっ……」
真偽を判断してるのか、僅かな沈黙が流れて。

 再び慧剛が口を開く。

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