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第8話 媚薬チョコと精力剤 その2
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「あなた、お出かけですか?」
「ああ。少し店を任せていいか?」
雨が上がった外を窓から眺め、外套をまとっているとパタパタと足音を立ててユリスが近付いて、着替えを手伝ってくれた。
「はい、出来ましたよ」
全身を眺めて問題なしと頷くと、ユリスは何かを聞きたそうにもじもじと体を揺らす。
出掛けることが気になる様子だ。
「少し市場を覗いてくる」
ツギハギ屋では店の性格上生物の取り扱いを行っていない。
今回作成するアイテムは口に入るものだから素材がないのだ。
流石にガラクタは食えないからな。
「あら、買い物なら私が行きますよ?」
暗に外出を止められた。
アレクは余程の出不精だったのか、それともいつものユリスの過保護か。
身体を寄せたユリスは眉尻を下げて、とても心配そうな顔で見上げてきた。
記憶を探っても外出に対する忌避感はないが、気になるな。
「あなたはゆっくりしていてください」
駄目男製造機のようなことを言われる。
まったく……良妻過ぎて困ってしまう。
欠点らしい欠点は旦那選びの鑑定眼だけのいい女だ。
「素材の在庫も心許ないので冒険者ギルドにも立ち寄るつもりだ」
冒険者ギルドで依頼を出せば、欲しい素材を手にすることが出来る。お代はかかるがそれ以上のリターンが見込めている以上躊躇う必要はない。
ツギハギ屋では、下着を作れば作るだけ売れてしまう入れ喰い状態。
ユリスの制服を作ったことで遂に布系の素材が底をついた。
この先細々とした受け身の買い取りではとてもじゃないが製造に追いつかない。
アイテム作成用の素材採取依頼は、門外漢であるユリスには荷が重いだろう。
ユリスの表情は一層暗く沈む。
「……そうですか」
役に立てなかったことを気にしたのか、しゅんと落ち込んでしまった。
何故か心が痛む。
だが、ここで甘えてしまうのは違う気がする。
アレクに出来るのは力仕事くらいで、実際に店を切り盛りしているのは妻のユリスだ。
暇とはいえ朝から晩まで働き詰めで、小さな身体で俺の世話まで焼いてくる。
おまけに最近は調教まで追加された。
休む暇もなく身体の酷使で、さぞかし疲れが溜まっているだろう。
健気な人妻を労る気持ちで見つめる。
なにか気の利いた言葉をかけようとして口を開きかけて失敗した。
ユリスを2度見してしまったからだ。
前世の記憶を取り戻した時に比べると顔はつやつや髪はサラサラ。おまけに着ている服は新品。
身体の感度は上がって艶が出て、女に磨きがかかり気の所為か血行まで良くなっている。おっぱいのサイズまで上がったと錯覚してしまう輝きだ。
控えめに言って人生を謳歌している雰囲気だった。
目が合うと、にこにこ緩く笑いかけてくる。
「ユリスはいいお嫁さんになれるな」
「もうあっくんの奥さんだよ!?」
間違えた。
「ユリスはいい母親になれるな」
「あなた……」
ユリスは笑おうとして失敗して、苦笑気味に唇の端を持ち上げた。
気になる表情だ。
顔には出さず慌ててアレクの記憶を探る。
若い頃は子供を願ったユリスだが、痛みが激しい子作りに先に耐えきれなくなったのはアレクの方だ。
ユリスを苦しめてまで子供を作ることを是としなかった。
ユリスはもう諦めているのだ。
この世界ではそろそろ高齢出産扱いかもしれない。
不用意な発言だったな。
お前が言うなという内容だ。父親という立場から真っ先に逃げ出したアレクが気軽に口に出して良い話題ではない。
「もう! そんな顔しないでください!」
表情が陰ったのだろう、ユリスは元気づけるように細い腕を俺の体に回して抱きしめてくる。
いつものユリスの匂い。
柔らかい身体に癒やされると自然と頬が緩む。
長い付き合いだから、落ち込むアレクを元気づけるなんてお手の物なのだろう。
「それに、あなただけでも大変なのに、子供ができたら幸せすぎて死んじゃいます」
猫のように頭をグリグリと胸に擦り付けてくる。
「ユリス、今幸せか?」
「はいとっても。……変なあなた」
即答するユリスが愛おしくなり力強く抱きしめる。
よしよしと何を勘違いしたのかユリスはいつものように頭を撫でてきた。
強がりでもない、偽りなく幸せそうだ。
その幸せの根幹である旦那は精神的に別人で、気付く術もなく身体を調教されているというのにな。
ユリスさえ望めば子供などすぐに仕込んでやれる。アレクではなく俺の子供をだ。
寝取り完了までまであと何マイルか知らないが、そう遠くはない。
そんな言い訳を必要とするほどユリスに絆されている自分に驚く。
自分の半身であるアレクに嫉妬とはややこしいな……。
羽目を外す人生というもの、中々難しいものらしい。
*
「ツギハギ屋、珍しいな冒険者ギルドに顔を出すなんて」
冒険者ギルドの扉をくぐると、覚えているような覚えていないような、微妙な懐かしさのあるいかつい男が寄ってきた。
下卑た笑い。見下したような目。
ああ、確か若い頃にパーティを組んだ覚えがある男だ。
クソ真面目で融通がきかなかったアレクにとっては天敵のような、金勘定にも時間にも女にもだらしがない輩。
男は近づくと鼻を鳴らす。
名前は……思い出す必要はなさそうだな。
異世界に転生して、記憶以外の外の世界に憧れ触れる少年のような気持ちが台無しだ。
大方、昔馴染みのクソ野郎に嫌味の一つでも言いに来たのだろう。
冒険者ギルドは古い酒場を改築したような寂れた建物で、老若男女の関係者がたむろしていた。
鎧姿に帯剣。ファンタジーな風景。
俺にとっては初めての場所だが、アレクに取っては何年ぶりかの職場で昔を知る顔馴染みが集う場所。
揉めて上手くいかなかった鬼門。
ユリスの心配そうな顔を思い出す。原因はこれだったか。
アレクが嫌な思いをしないようにという気遣い。
「お前にゃ一言言いたかったんだ」
酒で喉が焼けた掠れた声。
「そうか、聞いてやろう」
鷹揚に腕を組んで男と対峙する。
喧嘩の腕に覚えはないが、まさか刃傷沙汰になるわけではあるまい。
ツギハギ屋の安寧とユリスの幸せな調教のためにも、冒険者ギルドは何度も顔を出すことになる場所だ。
ここで引いてしまえば未来は閉ざされる。
「お前の言う通りだったぜ?」
男はどこか遠い目をする。
「アレクが抜けてからは、俺は女に逃げられ、クエストも失敗続きで金はなくなり、今じゃ仲間も散り散りになっちまった」
ん?
「ガミガミ煩いと昔は腹も立てたが、アレクが正しかった。あの時は本当にすまなかったな」
頭を下げられる。
想像もしていなかった展開に脳の処理が滞った。
どういうことだ?
どうしてで俺の預かり知らない所で「ざまぁ」が展開して、しかも終了している?
いやいや、問題はそこではない。どうして同じ町に住んでいて、十年も経ってからの懺悔の流れなんだ?
「もっとはやく謝りたかったんだがよぉ、おっかねぇカミさんにゃ、門前払いだったからな」
だいたい理解はできた。
ユリス、お前の仕業か。
いや、ユリスなりにアレクを心配した結果だろう。
あの小さい身体でこの強面から俺を守っていたらしい。結果はともかく感謝に耐えない。
「そうか。昔の話だ、気にするな」
「お前はそういうやつだよな……」
「それより仕事を依頼できるのか?」
「……俺にか?」
「ああ。俺は店で新しいモノづくりを始めている」
「知ってるぜ! なにせ俺の女房はお前の店の常連だからな!」
なぜドヤ顔なのか理解できないが、心を入れ替えたらしく悪いやつではなさそうだ。
「噂は聞いているぜ、ツギハギ屋がエロアイテムを扱い始めたってな!」
甚だ不本意だが、状況証拠的に的を射ているから反論は出来ない。
「しかしなアレク、あれはやりすぎじゃねぇか?」
「なんのことだ?」
「あの――」
男は声を潜める。ニヤリと笑う。
「穴の空いた下着だよ」
一着しか作らなかった即日に完売したエロ下着の存在を知っているのか。
ああ、間違いなくお前の嫁は常連客だな。
*
必要な素材を説明すると男は肩をすくめた。
「なるほどな。その程度の素材なら任せておけよ。ギルドに依頼して手数料を取られちゃ割に合わねえ」
「いや、そうはいかない。営業妨害になるしお前の評判も気になる」
「まったく……クソ真面目は変わらねえな! じゃあこうしようぜ? 俺は集めた素材をツギハギ屋に売りに行く。それで文句はねぇだろ?」
真っ当な売買ならば誰に後ろ指を指されることはない。
「そうか。では世話になるとしよう」
「バカお前、俺はアイテムを換金するだけだっつうの、じゃあな!」
思わぬ所で素材の確保が出来て何よりだった。
「話は終わりましたか! アレクさん!」
次は何だ?
「あ……初めまして、私、冒険者ギルドで受付をしています」
流石受付嬢を名乗るだけある綺麗どころだ。歳は10代半ばという所か。
育ちきっていない体つきは女というより少女に近い。
「アレクさん! あの……新しいアレは入荷しましたか?」
少女は職務も忘れて間合いを詰めて、声を潜めて意気込んで聞いてくる。
ナニを言いたいのかと首を傾げる場面だが、若い女が公の場でおいそれと名前を出せない商品などツギハギ屋には1つしかない。
在庫は心許ないがなくはない。
しかし、だ。
ボーイッシュな短めの髪型がよく似合っている躍動感溢れる異世界娘を見て閃いたものがあった。
「これは内緒だが特別に教えよう。とっておきが明日入荷の予定だ」
少女はひゅうと喉を鳴らして打ち震える。
「エッチなやつですか!?」
「か、どうかは不明だが、男心をくすぐる保証はしてもいい代物だ」
「絶対行きます!」
すっかりエロアイテム屋として名を上げているらしい。
*
冒険者ギルドを後にして市場に向かう。
「店主、その箱の中身は商品ではないのか?」
「いらっ――なんだツギハギ屋か、それは処分する端切れだ」
「そうか、では買わせてもらおう」
「話を聞けよ、処分つってんだろ? 捨てる手間が省けるんだ、いるなら持ってけツギハギ屋」
「いや、対価を払わせてもらおう」
「相変わらずクソ真面目な奴め! おう、じゃあ銅貨2枚だ」
木箱いっぱいの端切れが約二千円か。
捨てる手間賃程度に考えているらしいな。
店主の手に銅貨を乗せる。
何も融通が利かなくて律儀に金を払ったわけではない。
この端切れが何十倍もの利益になるのだ。流石に胸が痛むからだ。
「次も全て買い取らせてもらおう。捨てずに置いておいてくれ」
「ああ? ツギハギにでも使う気か? わーったよ。好きにしな!」
ただで貰うと次が貰いづらくなるから予防措置だ。金銭のやりとりがあれば遠慮なく次もいただけるからな。
アイテム作成能力のおかげで端切れはどれだけあっても困ることはない。
ズタ袋にさっさと詰めて肩に担ぐ。
チート能力とはいえある程度の制約があるのか、既製品である布からアイテムを作成するのと、魔物の素材を使用するでは必要量が違う事が分かった。
既成品の方が倍近く材料として必要となる。
冒険者の男に頼んだ素材調達には時間がかかる可能性があるため、あくまでも端切れは予備扱いだが充分に利益を上げられるので問題はない。
その後も屑鉄や廃棄品を探し回る。
ツギハギ屋の本領発揮だ。
廃品回収の荷車でも造るか。
手で運ぶには効率が悪い。
目当てのものも手に入れられた。
後は実験――いや、ユリスの調教で効果を確かめるとしよう。
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