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第45話 縄下着と鏡プレイ その3
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扉の向こう立っていた粗忽者は4人だった。
いつもの元気娘と、腰に剣を下げた物々しい男が2人。
そして、3人を家臣のように従えて真ん中に立つ、目が覚めるような真紅のドレス姿の女性に目を奪われる。
美しい顔立ちと金髪の派手な縦ロール。
歳は二十歳前後。
いやらしいほど白い肌。鋭い目つき。結んだ赤い唇。女として美しく開花した輝きだ。
すらりとした体型なのにやたら豊満なふくらみの下で腕を組む、とびきり尊大な態度が良く似合う。
それは、まんま悪役令嬢だった。
「来訪ご苦労だが、見ての通り今日は定休日だ、買い取りも買い上げも明日にしてくれ」
扉に引っ掛けた閉店の札を、立てた親指で差し示す。
「ご主人! お休みの日に申し訳ないです! この方は領主のご令嬢であらせられる、エトワール様でございます!」
元気娘の空気を読まない紹介に、ツンと澄ました表情のエトワールが、無機質なブラウンの瞳を向けてきた。虫を見るときでももう少し感情をのせるだろうに。
「さ、エトワール様、お伝えしたようにツギハギ屋はお休みでございます、御用は明日伺うとのことですので!」
これで満足しましたか? 元気娘は目で訴える。
その扱いで、悪役令嬢の我儘な性格が垣間見えた。
「わたくしは、この町を預かるガトール男爵家の長女ですわ、いいから、はやくお開けなさいな?」
すっと目を細めると、エトワール嬢は面倒そうに命令を下した。
貴人らしく、話を聞かないタイプらしい。俺が勝手に持っている偏見だがな。
エトワールか。たしかフランス語で星の意味を持っていたな。
エトワール嬢は、一歩もひくつもりはないという不動の姿勢。
親の地位を口にして特権上等と、押し通すつもりらしい。
間に入る元気娘が、たははと項垂れる。
なんの因果で元気娘が巻き飲まれているのか不明だが、後で嫌がらせでもされたら寝覚めが悪い。
黙って縦ロールを睨みつけながら扉を開ける。
「よろしくてよ。お前たちはここで待機なさい。ああ、出口を固めておくこと」
「へいへい」
やる気半分な護衛を外で待たせると、エトワール嬢は中にズカズカと入って行った。
逃走するとでも思っているのか?
まるで御用改な雰囲気だな。
空いた少しの時間でアレクの記憶を探る。中世モデルの異世界だから、いずれ貴族と遭遇すると想像していた。
予想の中でも最悪の出会いとシチュエーションだがな。
該当するメモリーは無し。
庶民に貴族との繋がりなど皆無だ。
前世で国会議員に生で出会ったことがないのと同じだな。
項垂れたままの元気娘の頭を撫でておく。お前は頑張った。悪いのはあの女だから、そう落ち込むな。
「……ご配慮痛み入ります」
気が進まないが店に入る。
「噂通りですわ!」
店内をぐるりと見回して、目を吊り上げるとエトワール嬢は両手を広げて声を上げる。
近所迷惑な高い声だ。
芝居がかった動きで店内の棚を1つ1つ物色していく。さすがスターダンサーに与えられる称号を名前にする女だ。
「聞きしに勝るおぞましさですわね。汚らわしい物しか置いてませんの?」
なるほど、客ではないらしい。
厄介事が大きすぎてため息が漏れる。
珍しく元気娘が項垂れていた意味がよく理解できた。
「あの、あなた、お客様ですか?」
そっと居住区からユリスが顔を出す。
「奥方様かしら? ごきげんよう」
「あ、はい……ご丁寧に、ありがとうございます。いらっしゃいませ、どうぞゆっくり見ていってくださいね」
「あら、ありがとう。でも、すぐにすみますわ!」
ユリスは営業スマイルのまま目を丸くした。店員の鏡だった。
あなた、どういうこと!?
俺のほうが聞きたいくらいだから、説明を求めるような目で見ないでほしい。
少しだけ耳元の髪が濡れている。
精液まみれの顔をさっと洗い、慌てて制服を着たのだろう。
首に赤い縄が巻いたままだ。
つまり、ツギハギ屋がはじまって以来のビッグゲストを前にして、制服の下にエロい縄下着を隠して着用している。
さすが、エロアイテム屋の看板人妻だ。
「子供ができたら、武勇伝を聞かせるとしよう」
「なんのことがわからないけど、絶対嫌です!?」
「むむむ、ユリスさん!」
物色を続けるエトワール嬢を泳がせて、元気娘はユリスを捉える。
「素敵且つ奇抜なファッションでございますね!」
「ええ……まあ」
「これは、匂いますよ!」
「え!? え!?」
元気娘、それは禁句だ。
ユリスは途端にあたふた始める。
つい数分前まで精液まみれのエロ人妻だったからな。
そんなことはいいから、あれは誰なんですか!? 片目を瞬かせて口パクで元気娘に必死に合図を送っているのが、喜劇のようで面白いな。
もちろん、首のものに首ったけの元気娘は気づかない。
「どのような聖遺物なのですか!?」
「いえ、そんな大層なものでは……」
ユリスは微妙に首元を気にしている。
首に巻かれた赤い縄は、ネックレス……いや、チョーカーと言うべきか。
ユリスの尊厳を守るために、首輪とは呼ばないでおこう。
ツギハギ屋のトレードマークになりつつある、清楚だがおっぱいが強調された制服によくマッチしている。
驚くほどに違和感がない。
赤縄下着の着用義務を定めて、ユリスを弄るのも一興だ。
「この棚にある赤い縄が、非常に気になるのですが、いかなる道具なのでしょう?」
さすがにお目が高い。
入浴待ちの時間で作成した、ユリス用とは別の縄下着を発見したか。
ユリスの首に巻いたものと同じ色、同じ質感から探り当てたらしい。鼻の効く奴め。
「色付きロープと思いましたけど……輪っかがいくつもありますね、むむむ」
「出来れば、あまり詮索はしないでください」
ユリスは作り笑いをしようとして失敗して、舌を噛んだみたいに顔をしかめる。
「……また妙なものをこしらえやがって」
ダンガがのしのしと入ってくる。
どういうことだ!?
「おい! 護衛は何をしていたんだ! こんなにあっさりと賊を侵入させて!」
入口を固めていた護衛たちを怒鳴りつける。
仕事を何だと思っているんだ?
「……おい、ありゃ、ギルドの仲間だぜ」
「つまり、お前とグルということなのか……」
ここまで用意周到に罠を張り巡らせていたとは、迂闊だったな。
「……ダンガ、信じていたのに」
「ばっ、お前ぇ違ぇよ、何のことだかさっぱりだが、顔見知りだから中に入れてもらったって、言ってんだよ!?」
冗談だから、そんなことで泣くな。男のくせにみっともない。
「ったくよお! で、定休日だってのになんで店を開けてんだ?」
「あの、ダンガさん、今日はお忙しいのでは?」
顔見知りが増えたユリスはソワソワとダンガに暗に帰れと言った。
いつ服の下に卑猥な縄を着けていることがバレるのかと、中々スリリングな心境なのだろう。
そういえば、今日は隣の家にダンガが越してくる日だったな。
「引っ越し作業は終わったのか?」
「……追い出された」
「新居に越して、1日目でですか! 浮気ですか?」
元気娘はやれやれと首を振る。
「違ぇよ! 細かな作業とか掃除とかするから、表で時間つぶしてこいって追い出されたんだよ!」
木偶の坊扱いか。粗大ゴミ扱いじゃない分、優しいかみさんなのだろう。
「大体、どうしてお前ぇまでいるんだ?」
「ダンガさんには関係ありませんから!」
ダンガは元気娘といがみ合う。
挨拶みたいなものだから俺もユリスも慣れたものだが、護衛の男と店内を物色していたエトワールは目を丸くしている。
「もういいですから! 私が求める探求の邪魔をしないでください!」
ユリスは珍しく、ダンガにもっとやってくださいと、手でゼスチャーをしている。
もっとも、鈍いダンガは露ほども気付かない。
喜劇の役者が揃いはじめたな。
「ご主人! お休みの日に大変申し訳無いですが、これを売ってください!」
元気娘は縄を掲げる。
家に持って帰って存分に探求とやらをするのだろう。
「あの! それは……お嬢さんには早いといいますか……」
「装備レベルがたりないと!?」
足らないのはデリカシーだ。
恥じらいを持たない女が、おっぴろげても男はただ冷めるだけだからな。
「ではでは! これは、何なのでしょう? せめて名前だけでも教えて下さい!」
ユリスは窮地に立たされた。
休みの日まで元気娘に迷惑をかけられるとは、苦労性な星を背負った人妻だ。
「それは、あれ、です……下着……です」
「はい? 縄ですよ?」
私だって縄って言いたいです!
ユリスは唸る。それから俯く。
「……下着です」
「はあ……あの、もしかして、着けてます?」
元気娘にしては珍しく声を潜めたおかげで、ユリスは一命をとりとめた。
店内で耳を済ましている貴族のお嬢を気にしたからだ。ここまで見事な怪我の功名を見ることが出来たのは僥倖だな。
「……やはり、このような女性を貶めるいかがわしいものを売る店を、これ以上見逃すわけにはまいりませんわね!」
エトワール嬢は高らかに宣言する。
「あなた、あの方は、どなたなのですか?」
「町の領主のご令嬢ですよ、ユリスさん」
俺の代わりに元気娘が紹介をする。
「えっと、あの、どうしてそんなに近づいているのかな?」
ユリスは後退る。
「是非、服の下を拝見できないかと思いまして」
元気娘は、ユリスにピタリと張り付き、縄下着の真相を究明しようとしていた。
おっぱいの周りに巻かれた縄が薄っすらと透ける瞬間がある。
あの清楚なスカートの下は、ハイレグも真っ青のVの字が隠されている。
「……、……え? 待って待って、領主のお嬢様って言いました?」
「いかにも、ささ、少しスカートを」
ユリスは伸びた手を無意識に払っている。
混乱が上書きされて茫然自失だ。
確認を取るように虚ろな目を向けてきたので、とりあえず頷いておいた。
ユリスは口元を出て隠して驚愕していた。ビッグゲストの正体に戦いていた。
「あん? ああ、あいつが噂の孫娘かよ。なんでこんな湿気た店にいるんだ」
湿気たは余計だ。
「さすが、お祖父様の反対を押し切って、破廉恥な服装を強要させる売国奴のお店ですわね」
エトワール嬢が睨んでくる。
「誰の孫だ?」
ダンガは肩をすくめる。
「冒険者ギルドマスターだ」
ギルドマスターの孫らしい。
なるほど、色々なものが繋がってくる。
つまり、エトワール嬢が口にしたのは、ビキニアーマー関係だということか。
反対を押し切ったのは女冒険者とそこの粗忽物で、うちは強要などしていないぞ?
冤罪も良いところだ。
ギルドマスターの逆恨みで、孫をけしかけてきた?
いや、十中八九孫娘の勇み足という暴走だな。
「即刻閉店ですわ! こんな汚らしい店は!」
高揚してきたのか、エトワール嬢は声を張り上げる。
「え!? へ、閉店!? あっくん、どういうことですか!?」
だから、俺に聞いても無駄だ。
「ま、当然ですわね、このようなものを取り扱うなど言語道断ですわ!」
エトワール嬢は、ピンク色のバイブを指差し、汚物を見るように目を細める。
つまり公序良俗に反しているという理由でこの店を潰すのが、来店の目的らしい。
店内は嫌な静まり方をした。
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