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9歳の誕生日です…

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「お嬢様、おはようございます。そして、9歳のお誕生日おめでとうございます。」

ついに来てしまった…

「ありがとう、アンナ。でも、ウィルのケーキが食べれない誕生日何て嬉しく無いわ」

「ふふふ、お嬢様は本当にウィルのケーキが好きですね。でも、ゴンザベア達が朝から張り切って作ってたんで、それで許してやってください。」

ゴンザベアはアンナの旦那さんで我がヘルツォ家の料理長。
つまりウィルのお父さんだ。

「それは、楽しみね。去年のフルーツタルト美味しかったわ。」

「今年は去年と違う物を準備してるみたいですよ。さぁ、朝ご飯を食べましょう」

私の誕生日パーティーは、家族と使用人達だけで行うこじんまりとした物だ。
前世の記憶と比べると全然こじんまりなんかしてないけど、他の貴族を沢山呼ぶお父様やお母様、お兄様のと比べればだいぶ小規模なパーティーだ。

パーティーは夜からだが、準備に時間がかかる為ゆっくりしてられない。
私の誕生日の日は、いつもご飯を食べている食堂的な部屋がパーティー会場になるので朝ご飯は自分の部屋で食べる。
午前中はいつも通り歴史や礼儀作法の授業を受け、軽い昼食をとってからパーティーの準備をする。
いつもより念入りにお風呂に入り、髪を整えてお化粧をして豪華なドレスを着る。準備だけで3、4時間目かかってしまうから貴族のパーティーって大変よね…
自宅で身内だけなんだから別にいつもと同じでいいじゃない…まったく………

「お嬢様、また1段と綺麗になりましたね」

ドレスの着付けに髪とメイク全て終わった私に向かってアンナがそう言った。

「ふふふ、違うわよ。ドレスが素敵なのと、アンナがお化粧やヘアアレンジの腕をまた上げただけよ。」

今日のドレスは、私の髪色に合わせたワインレッド色のレースがたっぷり付いており、裾が広がっているよくあるタイプのドレスだ。アクセサリーは、胸元とイヤリング に私の目の色にそっくりな紫寄りの藍色の小さな宝石をつけている。いつも下ろしている髪は綺麗にアップされ、首元がスースーしてちょっと変な感じがする。

「本当にお綺麗ですよお嬢様。今日のお嬢様を見れないバカ息子がちょっと可愛そうなくらい綺麗です。」

「それは、ふふふ。確かに可哀想ね」

準備が終わったので、アンナとゆっくり会話を楽しんでいたらドアからコンコンと音が聞こえた。会場の方も準備が終わったのだろう。

「お嬢様パーティー会場の準備が出来たみたいです。さぁ行きましょう」

「ええ」

アンナと共にパーティー会場に向かう。食堂に向かってるだけなのに、なんだかちょっと変な気分だ。
食堂の扉の前に着いたので、深呼吸をする。毎年扉を開けると、ウエディングケーキの様に大きくて綺麗なケーキが目に入るのだが、去年はウィルがいない為それがなかった。居ないことは元から分かってた筈なんだけど、なんだか悲しくてそのまま泣いてしまったのだ。
だから、今年は泣かない様にしなければ。

深呼吸をし、落ち着いた私を見てからアンナが扉を開けた。お父様にお母様、お兄様にいつも仲良くしてくれる使用人達みんなが拍手で迎えてくれた。

「ティアお誕生日おめでとう。」

「ティアちゃんお誕生日おめでとう。素敵な1年にしてね」

「ティアお誕生日おめでとう。もう9歳かぁ」

「「ティアお嬢様お誕生日おめでとうございます」」

私が席に着くとみんなそれぞれお祝いしてくれた。さっきまではちょっと寂しかったけど、みんながお祝いしてくれて寂しさ何て吹き飛んだ。

「ティア、プレゼントがあるんだ」

そう言ってお兄様がピンク色の包みを渡してくれた。

「開けてもいい?」

「どうぞ」

さっそく包紙を剥がし、箱を開けた。

「これは…冒険シリーズの新しい本ですね!お兄様ありがとうございます」

私はお兄様に抱きついた。

「本当は女の子には宝石やお洋服の方がいいんだろうけど、ティアはこっちの方が嬉しいだろう」

「はい、お兄様。すっごく嬉しいです。」

流石お兄様。私の好みをよく知ってます。
その後はお父様からぬいぐるみ、お母様からは薔薇が描かれた裁縫箱、使用人達からはお花の付いた可愛いヘアアクセを貰った。どれもすっごく嬉しいです。

「お嬢様、私達からのプレゼントを受け取って頂けますか?」

アンナとゴンザベアが私にそう言ってきた。

「ええ、もちろん。凄く嬉しいわ」

うーん、改まってなんだろう。使用人達からはヘアアクセを貰ったんだけど、それとは違うって事よね…何かしら。

「お嬢様目元を隠してもいいですか?」

「どうぞ?」

アンナが私の目を手で覆った。わざわざ覆うって事は準備が必要なものかしら?それとも、ビックリさせる系のものかしら?
しばらくガサゴソ音がしていたが、やがて音が止んだ。

「アンナもう見てもいいかしら」

「はい、どうぞお嬢様」

アンナの手をどけてガサゴソ音が鳴っていた辺りを見た。そこには、そこには毎年あったのに去年だけなかった物があった。

「こ…これって…」

「はい、去年お嬢様に泣かれてしまったので今年は頑張ってみました。」

ゴンザベアが笑いながらそう言った。

「ウィルには負けますが、いい出来だと思います。」

アンナも笑いながら、誇らしそうにそう言った。

「お嬢様、ぜひ食べてみて下さい」

ただえさえ今日はいつもより大変だったはずなのに、料理人達も笑顔でそう言ってくれた。

全部で三段になっている大きめのケーキ。白いホイップクリームの上に苺やリンゴがまるで薔薇の花の様に綺麗に飾られている。紅茶を引き立たせる為に食べる、いつものケーキとは全く違う甘くて美味しくて豪華で綺麗で、私の大好きが詰まったケーキ。

「今日1番嬉しいわ。」

今年は嬉しい過ぎて泣きそうだ。食べれないと思ってたから本当に嬉しい。

「負けた……、やっぱりケーキには勝てなかった…」

お父様がショックを受けてます。そんなお父様をお母様が慰めてますが気にしません。私は早くこのケーキが食べたいです。

「ねぇ、食べてもいい?食べてもいいよね?」

アンナとゴンザベア、料理人達に訴えます。一刻も早く私はこのケーキを食べたいです。

「お嬢様、そんな必死にならなくてもケーキは逃げませんよ」

アンナが笑いながらお皿を用意してくれてます。

「そんなに喜んで貰えて光栄です。どこの部分が食べたいですか?」

ゴンザベアが切り分けてくれようとしてます。

「ぜ、全部食べたいけど、まず何処からにしよう……」

そう言ったらお父様、お母様、お兄様に使用人達、アンナにゴンザベア、料理人達みんなが笑い出しました。

「お嬢様たっら……」
「本当にケーキ好きなんだねぇ」

アンナとお兄様が何か言っている気がしますが気にしません。

「この端っこの薔薇が載っている部分でお願いします。」

ゴンザベアにそう伝え、切り分けて貰った。

「この薔薇は本物の薔薇なんですが、砂糖漬けにされているんで食べれるんですよ」

ゴンザベアがそう言いながら、ケーキの乗ったお皿を渡してくれた。

「わぁ、とっても綺麗ね。早速頂きます」

ゴンザベアが言ってた薔薇の砂糖漬けを口に放り込んだ。凄く甘くて噛むたびに薔薇のいい匂いがして凄く楽しい。スポンジの部分のホイップは、甘さが控えめで薔薇の砂糖漬けと合わせて食べると丁度良いし、スポンジはフワフワしてるしリンゴや苺の果物も最高。

「あー、これですわ。これ。美味しいです。」

美味しくて止まらない。切り分けてくれた分はすぐになくなってしまった。

「ゴンザベアお代わりをお願いしますわ。」

「はい、畏まりました。」

お皿を渡し、切り分けて貰うのを待つ。

「ティア今日だけだぞ」

「はーい」

お父様にそう言われてしまいました。だけどそれって、今日はいくらでも食べていいって事ですよね。

「お嬢様こちらもどうぞ」

後ろから牛乳が入ったコップを渡された。

「そうコレですわ。甘いケーキに紅茶もいいけど、牛乳も最高に美味しいのよね」

「ティアちゃん、冷たい牛乳はお腹壊すから一杯までね」

「う…はい」

お母様から釘を刺されてしまいました…
前世の時は、ある程度牛乳を飲んでもお腹を壊す事はなかったのですが、生まれ変わってからは2杯以上飲むとお腹を壊してしまいます。体の構造が若干違うのでしょうか?

「お嬢様もし良ければ、2個目のケーキを召し上がる前にこちらも如何ですか?」

「これは‼︎」

後ろから渡された不思議な形の容器。
コーヒーゼリーの上に生クリームが乗っており、更にその上にアイスやあんこに白玉そして抹茶の粉がかかっているコレは……

「『まっちゃぱふぇ』でございます。抹茶が少し苦いですので是非牛乳と一緒にお食べ下さい」

早速食べてみた。抹茶は確かに単体で食べると苦いし粉っぽいけど、アイスや生クリームと合わせて食べると美味しいし、白玉とあんこも美味しい。コーヒーゼリーも少し苦目だったけど溶けてきた、アイスと生クリームが合わさって最高だ。

「ああ、美味しい。ずっと食べたかった味だわ。本当に美味しい…」

「喜んで頂けて光栄です。」

後ろからそう聞こえた。

「これ貴方が作ったの?」

「はい」

「ねぇ、貴方。私のお菓子をこれから作ってくれない?ウィルと同じ位いや、1年前のウィルより美味しいお菓子を作れる人は初めてよ。ウィルがワの国に修行に行っちゃってもう我慢できなかったの。だからお願いで……」

言い終わらないうちにこの『まっちゃぱふぇ』を作ったと言う後ろに居る人を見た。えっと……

「ただいま戻りました、お嬢様。貴方のお菓子係ウィルです」

「……ウィル?」

そこには私の記憶に残っている1年前より背が随分伸び、いつも来ていた動きやすい服ではなく執事が着ている燕尾服を着たウィルに凄く似ている人が居た。

「本当にウィル?」

「はい、ウィルでございます。」

「他人の空似や私の幻覚じゃなくて本物?」

「はい、影武者などは雇っていませんから本物です。」

「本当に?」

「はい、ティアお嬢様」

私は立ち上がり、ウィルに抱きついた。

「……………ウィル……お帰りなさい…ずっと待ってたんだよ……ウィル」

ウィルの肩の辺りに顔を埋め泣きながらそう言った。1年経ったら、ウィルは随分背が伸びたみたいだ。

「ただいま…です。ティアお嬢様…」

最初は固まっていたみたいだけど、ウィルはそう言いながら頭を撫でてくれた。
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