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後悔するが良いわ

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日記を片付け、本を読みながら待つ事数分。

コンコンコンっと扉を叩く音が聞こえた。アンナかしら?

「お嬢様、失礼します。ウィルです。扉を開けてもよろしいでしょうか?」

「…‼︎えぇ、どうぞ」

予想が外れて一瞬びっくりした。ウィルはキャスターが付いている台車を、ゴロゴロ音を鳴らしながら部屋に入ってきた。

「…えっと、ウィルそれは何?」

台車には何か乗っているみたいだが、布がかかっており良く見えない。

「先程の朝食でお嬢様が、食べずに残していった物たちです」

ウィルはそう言うと、台車の上の布を取った。
そこには、お母様の笑顔に耐えきれず逃げた所為で食べれなかったスープとケーキが置いてあった。

「ウィル、持って来てくれたの?ありがとう、食べなかった事凄く後悔していたのよ」

本当に後悔していたから、嬉しい。

「まぁ、あの雰囲気ではいくら奥様の笑顔に免疫のあるお嬢様でも食べれないでしょうね……」

「そうでしょ、そうでしょ。分かって貰えて嬉しいわ。早速、食べても良いかしら?」

「はい、すぐ準備いたします」

ウィルは机の上にテーブルクロスを引き、さっき食べ損ねたスープとケーキを並べてくれた。

「いただきます」

ウィルの準備が完了したので早速食べ始めます。

「あら、スープ温め直してくれたの⁉︎」

「はい、このぐらいの暖かいスープが好きでしたよね?」

ウィルのこういう所尊敬する。良く人を見てるよね、まぁ冷めたスープが好きな人が少ないだけかもしれないけど…

「えぇ、あったかい方が好きよ。でも、猫舌だから熱いのは飲めないのよね…」

だからこの我がままな舌を持つ、私の好きな温度まで記憶してるの本当に尊敬する。ここまで、出来るのはきっとウィルだけでしょうね。

「そういえばねウィル」

「はい、何でしょうお嬢様?」

スープを食べながらウィルに話しかける。ジャガイモはスプーンで簡単に崩れる位柔らかいのに、どうして形崩れしないんだろう……
そうじゃなかった

「ウィル、昼食の後時間空いてる?」

「はい、空いてますよ」

やっぱり空いてたかぁ…おやつは前日に準備するし、15時から夕食準備開始って昔言ってたもんね……
はぁぁぁ、あのクソ殿下さえ来なければ一緒に街に行けたのに…全くもう…

「そうよね…はぁ。本当はね私、授業も用事も今日は無かったからウィルと街に行きたかったの……」

こんな事言ってもウィルを困らせる事は分かってるけど、ちょっと愚痴らせてね。

「殿下も困った方よね…今に始まった訳じゃないけど最近前にも増して酷い気がするのよ」

そうそう、前よりも酷くなった気がするのよね……アイツ猫被りだから1度、私以外の手に渡るもの、例えば手紙やプレゼントは普通だったのよ。
でもウィルがワの国に行ってしばらくした位から、そういう物でさえ嫌がらせとまではいかないけど…ちょっとどうなのって感じになって来たのよね……

「…………あのクソ餓鬼が……いえ何でも無いですお嬢様。具体的にはどの様に酷くなったのでしょうか?詳細まで詳しく教えてください。」

相変わらずウィルは殿下嫌いよね。でも、お願いだから他の人の前では『クソ餓鬼』は控えてね。その気持ち分かるけど、ウィルが捕まっちゃうのは嫌よ。

「うーん、そうね…」

さて、何から話そうかしら?殿下の愚痴なんて普段は誰にもできないからね。
ふふ、私を置いてった事を後悔させる位長い時間愚痴ってやるんだから

「殿下の誕生日パーティー前にドレスを送ってきたと思ったら『絶対に着てこい』って言われたのよ」

殿下の誕生日は4月だから今から大分前の事を何だけどね……
確か、1週間前に来たもんだから準備してたドレスが台無しになったのよねぇ…しかもそのドレス、流行遅れのフリフリボリューミーなドレスだったし本当趣味悪い……

「そんな事言われなくたって、着ていくのにねぇ。しかもね、同じデザインのドレスを婚約者候補全員に送ったらしいの」

「………………」

「それでね、怒ったお父様が『行く必要なんてない』って言ってくれたから、私は行かなかったんだけど……そのパーティーで『あの無気味な女は、折角ドレスを送ってやったのに来ないなんて何様だ』って殿下が暴れたみたいでね。」

「…………」

「行かなかった私も確かに悪かったけど、何も暴れなくたって良いのにね」

まぁ、確か他にもいつもの『返り血を浴びたかの様なおぞましい髪に、美しいシェーン様や高貴なバーダー様に全く似ていない顔、この世の悪を煮詰めた様な無気味な瞳、優秀なシューの足元にも及ばない学の低さ。何故こんな奴が俺の婚約者候補なのか理解できないし、不愉快だ。』って決め台詞を言って回ってたらしいんだけど……それは置いて置くわ…

「…………お嬢様は何も悪くないですし、旦那様の言う通り、殿下の誕生日パーティーなんてもう2度と行く必要なんてないですよ」

「ふふ、ありがとうウィル。まぁ来年からは学園があるから、行かなくて済むわね」

ウィル…お父様も流石に『2度と行く必要なんてない』とは言って無かったわよ…

「他にもまだありますよね、お嬢様」

「うん、まだあるの。聞いてくれる?もちろんお母様には内緒よ?」

「もちろん」

ふふ、ウィルならそう言ってくれると思ったわ。アンナにも前に一度言った事あるんだけど、途中でお母様に伝えに行こうとしたから全力で止めたのよね……『淑女が婚約候補者の愚痴を言うなんて』って怒られるのは嫌よ私……

そこからしばらく私の愚痴タイムは終わらなかった。
ウィルには隣に椅子を持ってきて座って貰い、お茶しながらやってたんだけど…ウィルったら何回か紅茶を溢してたの。意外とおっちょこちょいなのかしら?

しばらく喋っていたらスープが食べ終わった。もうそろそろ辞めとこうかしら?

「ウィル聞いてくれてありがとう。誰にも言えなかったから、ウィルに話せてスッキリしたわ。本当にありがとう」

ウィルはずっと相槌を打って聞いてくれてた。つまらない話ばかりなのに優しいなぁ、ウィルは。

「いえ、お嬢様。お礼を言われる事ではありません。でも、まだありますよね?」

「え、でももう飽きたでしょ?」

「いえ全然。むしろもっと詳しく教えて貰いたい位です」

ウィルったら変わってるのね…男の人って愚痴とか嫌いなんだと思ってだけど、違うのかしら

「そうなの?」

「はい」

なんかウィルの食い付きが凄いんだけど、気のせいよね

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