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大切な日記

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お母様の恐ろしい笑顔から全力で逃げた私は、自室に1人でいます。

自室に着くまではアンナと居たのですが、アンナはこの後ウィルと2人でお母様の所に行かなきゃ行けませんからね……ご愁傷様です…

さて、しばらくは誰も来ないでしょうから久しぶりに『日記』でも読もうかしら。

本棚の下から2番目の赤い本に挟んである秘密の日記。表紙にはバレた時用に『ティアの日記』って書かれてます。

中には私にとって大切なこのゲームのシナリオと、覚えている知識たちが書いてあります。

私、前世の記憶があると言っても殆ど覚えて無いんです…
覚えてたのはこの世界がとある乙女ゲームにそっくりで、自分が悪役令嬢だった事と一部のシナリオと1部の攻略対象、それから色んなお菓子や美味しいご飯が食べたかった事、日本に住んでいた事のみなんです。

だから、自分が前世どんな人で何をしていたのかとか、家族や友人がいたのかとか全然覚えてないんです…それに、シナリオも完璧に憶えていなくて所々抜け落ちてるし、攻略対象達も4人いた筈なんですが2人しか覚えてないです……

覚えているシナリオも、グローツ王国のルーマ学園に入学したピンク髪の少女が攻略対象達と出会い引かれ合い、最後に1番好感度の高い婚約者と結婚する事。

私はどのルートでもヒロインをいじめヒロインがハッピーエンドを迎えたら断罪、攻略失敗すると第一王子との結婚前夜に暗殺者によって殺される事。

殿下の6歳の誕生日パーティーでお母様が毒殺され、最初はお父様そしてお兄様が精神的に壊れていき家は没落寸前、そんな私は孤立。寂しく愛に飢えた私は婚約者の殿下を盲信的に愛し、殿下に愛されてるヒロインに逆恨みをし、いじめ、更に殺害を企て断罪される。というルートの事。

最後に、この乙女ゲームは攻略対象が複数存在し更に各キャラごとにハッピーエンドが存在するくせに、第一王子と結ばれないとやがて戦争がおき国が滅ぶ……という事。

だから取り敢えず国が滅ぶのを防ぐ為には、ヒロインが第一王子と結ばれさえすればいい…だから私が唯一覚えてるルートが役に立つ筈なんだけど……

うーん、憶えとらん……これ以上は何も憶えてない…確か『イベント』って言われるものが存在していて、それをクリアしていきがら親愛度を上げていくゲームだったんだけど……
イベント何1つ覚えてないんだよね……

「はぁぁぁ」

なんてポンコツな記憶力なのでしょう……

でも、悲願する必要はないか。
だってこの記憶のお陰で、お母様は私が9歳になった今でも生きてるし、ヒロインに合わない様に事前に他の学園に入学する事が出来たわけだしね…
後は、殿下と私の婚約が破棄になる事と殿下とヒロインが結ばれる事。これが出来れば私も死ななくて良いし、沢山の人が戦争で死ぬ事もない。

だけど……はぁぁぁ、どうしてうまく行かないんだろう…

お母様の毒殺を防ぎヘルツォ家の没落の危機を回避し、ヒロインや攻略対象との鉢合わせを防ぐ為に隣国の学園に入学。ここまでは順調に行っていた……

ヒロインが殿下と結ばれるかは正直言って運だけど
『俺は美しく春を思い立たせる髪、希望や輝きを詰め合わせた様な瞳を持ち、学に優れ、優しく笑い寄り添ってくれる子がいいんだ』
って会う度にやたら具体的に言ってたから多分大丈夫だと思う。
だってヒロインはピンクの髪色で頭も良かったはずだし、ヒロインだもん笑顔が可愛いのは当たり前だからね……良くは覚えてないけど、殿下の好みにヒロインはドンピシャなはず。
後は殿下がヒロインにアプローチをかけるだけ。あのクソ殿下は私以外への接し方は王子様100%の猫被りだから大丈夫なはず。

問題は私と殿下の婚約破棄だけ…
私は殿下と結婚なんてしたくないし、殿下も私の事嫌いだから簡単に行くと思ってたんだけどなぁ……

『返り血を浴びたかの様なおぞましい髪に、美しいシェーン様や高貴なバーダー様に全く似ていない顔、この世の悪を煮詰めた様な無気味な瞳、優秀なシューの足元にも及ばない学の低さ。何故こんな奴が俺の婚約者なのか理解できないし、不愉快だ。』って婚約候補者になって初めて会った7歳の時から毎回毎回言われてたから、割と簡単に行くと思ったのになぁ…

お父様に殿下と結婚したくないって伝えて、その事をお父様が国王陛下に伝える所までは上手く行っていた。
貴族の娘として本当は許されない事なんだけど、お父様はあっさり許してくれた。まぁ、我が家は貴族と言うには権力はありすぎる方だしね…でも、それでも許してくれたお父様には感謝しかない。

そしてその後直ぐ、国王陛下に殿下との婚約破棄をお父様がお願いしに行ってくれた。
本当はこれ反逆罪で逮捕されてもしょうがない位、大きな罪になるんだけど、お父様は『そんな事気にしなくて良い。ティアを1番に思ってくれて、ティアが心に決めた人と結婚しなさい』って言ってくれました。本当にありがとう。

で、問題はここから。
婚約を結ぶ前だった事もあり、意外とすんなり私の願いは聞き入られたらしい。なんなら
『まぁ、公爵家と王家が結婚する事がただ多かっただけだし義務じゃないしね~正直ノマイよりも素敵な子なんて世界には沢山いるし、ティアちゃんが心に決めた人の方がいいよ』って国王陛下は言って下さったらしい。

だけど、そこに待ったをかけたのがクソ大臣ことグーケン大臣と殿下だ。
グーケン大臣は、公爵家以外が王家に嫁ぐ事での貴族の偏りを危惧して。
殿下は、『せっかく我が尊敬なるの国王陛下がお選びになられたのですから、何も問題などないでしょう。きっとただ不安なだけですよ』なんて言いやがったらしい……

グーケン大臣の言い分は分かる。だからまだ許そう。
殿下お前はダメだ。何言ってんだこのヤロって感じだよ君?
しかも好きだからとか、愛してるとかならまだ許せたけど、国王陛下が選んだんだからって……私の意見は全無視ですね、はい。

そんなこんなで、とりあえず私は殿下の『婚約者』でなく『婚約者候補』と言う形に収まった。候補者候補は私以外にも複数いるらしいが詳しい事は知らない。

なんであのクソ殿下は、私と婚約をしようとしてるんだろう…会う度に酷い言われ様だし、私以外にも候補者はいるはずなのに……

ああ、そうか。『尊敬なる我が国の国王陛下がお選びになられた』からでしたね。この野郎。

何で私こんな奴に振り回されてるんだろう……

礼儀知らずの猫被り…訪問しに来るくせに1日前に手紙を出すなんて、『お前の用事などどうでもいいから、用意しとけ』って事と変わりありませんからね。

まぁ、今更お母様があんなに怒った所で意味ないですけどね…
殿下のこの無礼は今に始まった事ではないですから。私はもう諦めて、早くヒロインと殿下が結ばれることを祈っておきます。


そんな事をウダウダ悩んで居たら、何だか廊下が騒がしい気がします。

「………………!…………………………………………………………………………………!」

「………………………、…………………………ー………」

多分これお母様とお父様の声ですね。
何か言い争ってますね……

「……………………………!……………………………………………………………、……………『……………………』……………………‼︎…………、…ー…ー………………………………!………………………………」

何言ってるか聞き取れなかったけど、お母様がめちゃくちゃ怒ってた事だけは伝わりました。

さて、そろそろアンナ帰ってくる頃かな?日記片付けておこう……



ーーーーーーーーーー

伏字塗れのあの部分は

「あったまきた!あのクソガキ私の愛するティアちゃんにあんな手紙送ってくるなんて!」

「それは俺も同意見だが、一旦落ち着けってシェーン……」

「落ち着ける訳ないでしょ!大体いつもあのクソガキはティアちゃんを傷つけて、それでいて『婚約はしたいです』って何考えてる訳‼︎それに私、バーダー貴方にも怒ってるのよ!どうしてあなたはいつ……」

って言ってます。
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