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本当は優しい方なんです……
しおりを挟むチュンチュン
外から雀の声がする。そういえば、雀って日本以外にも居るもんなのかなぁ…
「お嬢様、おはようございます。」
アンナの声が聞こえた気がする。
「う……朝?」
「はい、もう朝です。」
う……もう朝かぁ…
昨日は確か私の誕生日だったのよね…お父様にお母様、お兄様に使用人達からプレゼントを貰って…それで大好きなケーキを食べて、それで……
「アンナ‼︎ ウィル、ウィルは帰って来たんだよね?夢じゃないよね?」
帰ってきた筈…夢や幻覚じゃないよね?
「はい、うちのバカ息子はちゃんと帰ってきましたよ。多分今なら厨房に居ると思います。」
アンナは笑いながらそう言った。
「良かった……夢じゃないのね」
本当に良かった……夢だったら泣いてた。
「ねぇ、アンナ……その……」
今すぐ会いに行きたい……けど、今厨房は朝食の準備で大忙しだろう…でも…
「お嬢様、厨房に行きましょうか」
心の中で葛藤していたら、アンナがそう言ってくれた。
「良いの?でも、邪魔にならないかしら……」
「今更そんな事誰も気にしないですよ。それに、ワの国にウィルが行く前は毎日行ってらしたでしょう」
そういえば、そうだった。起きたらウィルの居る厨房に行って、それから食堂に行って朝ご飯を食べる。毎朝やってたわ。
「それもそうね。じゃあ、準備をお願いしてもいいかしら?」
「はい、かしこまりました。」
アンナに着替えを手伝って貰い、早速厨房に向かった。
途中、『これからは毎朝ちゃんと起きて下さいね』ってアンナに言われちゃったけど、今は気にしません。
「みんな、おはよう。ウィルいるかしら?」
厨房の扉を開け近くに居た料理人達に声をかけた。
「お嬢様、おはようございます。ウィルなら奥に居ますよ」
「ありがとう」
お礼を言いながら、厨房奥の部屋に向かった。
此処には『お嬢様何だから厨房に入っちゃダメです』何て言う人は1人もいないし、お父様もそんな事言いません。
もちろん、忙しい中お邪魔しちゃってる事は自覚しているので最大限の配慮はしています。
厨房の1番奥にある『鍋部屋』を目指して歩いて行きます。
この『鍋部屋』は厨房の1番奥にあり、途中の扉などに鍵が掛かっています。鍋を使う料理は何日も煮込む事が多く、毒を入れられる可能性が高いらしいので厳重に管理されてます。まぁ実際私も6歳の時、毒入りのスープを食べて死にかけたので多分本当なんだと思います……
鍵は全部で3カ所掛けており、お父様、私、料理長のゴンザベア、ウィルの計4人しか鍵を持っていません。ウィルがいない間はアンナが鍵を持ち、料理長と共に鍋料理を作ってくれてたみたいです。
「お嬢様、おはようございます。ウィルなら鍋の前に居ますよ」
「おはよう、ゴンザベア」
2個目の鍵を開けたドアの先に居たゴンザベアがそう教えてくれた。
という事は、この先の扉の中にいるのだろう。早速扉の前に行き、最後の鍵を開けた。
「ウィル、おはよう!」
鍋の前で作業をしていたウィルに声を掛けた。
「ティアお嬢様、おはようございます。少々お待ち頂いても構いませんか?」
「……?ええ構わないわ?」
何だろう?何かあったのかな…ちょっと不安になりながら待っていた。
1分もしない内にウィルは、大きな木べらで鍋の中をかき混ぜ、着ていたエプロンを脱ぎ、手を洗ってタオルで手を拭拭いた。そして鍋から少し離れた所に行き、両手を広げ……
「お嬢様、どうぞ」
そうか…ウィルは覚えててくれたんだ。両手を広げてくれたウィルに抱きついた。
「今日もちゃんと起きたよ?今日の朝ご飯はなぁに?」
そう私が言うとウィルは私の頭を優しく撫でながら、
「今日はお嬢様が好きな、トマトとじゃがいものスープと昨日食べ切れなかったケーキです」
と言った。ウィル、本当に帰って来てくれたんだ…すっごく嬉しいなぁ……
「ふふ、今から食べるのが楽しみだわ。ウィルいつものやって?」
「はい、お嬢様」
ウィルが私のおでこに軽くキスをする。それから頭を最後に2回撫でてから離れる。これが私達の毎日の日課。
「ウィル、楽しみにしてるね!」
「はい、ありがとうございます」
ウィルはそう言うともう一度エプロンを身に付け作業に戻って行った。
私も食堂にむかう。
食堂の扉を開けるとお母様がいた。
「あら、ティアちゃん、アンナ、おはよう」
お母様がびっくりしながら挨拶してくれた。
「おはようございます、お母様」
「おはようございます、奥様」
私とアンナもお母様に挨拶をした。
お母様は何に驚いているんだろう?
「ティアちゃん今日は、随分早起きね。」
あぁ、それでびっくりしていたか…
確かに私、いつも食堂に来るの1番最後だもんね。
「お嬢様がベットの上でウダウダしていなければ、毎日この時間に食堂に来れる筈なんですけどね……」
アンナがため息を吐きながらそう言った。お母様にウダウダしてた事がバレてしまった……
「あら、そうだったのね。でも、ウィル君が帰って来たからもう大丈夫ね」
お母様はニコニコしながらそう言った。何でウィルが居ると大丈夫なのかは分からないけど、これからは頑張って起きます。
「そういえばお母様」
「ん?何かしらティアちゃん」
自分の席に着きお母様に、昨日から思ってた事を問いかけた。
「ウィルって、いつから帰って来てたの?昨日では無いわよね…いくら私を驚かそうとしてたって流石に、ひど…」
「ウィル君は、昨日帰って来たのよね?」
私はやってしまったかも知れない…お母様の笑顔がちょっと怖いです…
「そうですわよね。私の勘違いでしたわ…」
慌てて言い直したけど、駄目みたいです。さっきより笑顔が怖くなってきました……
「そうよね。ティアちゃんの勘違いよね。…………アンナ、ウィル君後で私の部屋に来なさい」
「「……はい」」
私の隣にいたアンナと丁度スープを運んできたウィルが返事をしました。
2人共ごめんね…後で謝りに行かなきゃ…
「ティアちゃん、他にも何かあるかしら?」
「いいえ、ないです。もうありませんわ」
無いです。仮にあったとしても今は言いません。
「そう…なら良いけど、何かあったらすぐ言うのよ」
「はい、お母様」
お母様の怒りが大分収まったみたいです。良かった…あれ?
「お母様、お父様とお兄様は朝ご飯もう食べましたの?」
「いいえ、2人共仕事があるみたいで今日は来れないみたい…」
そっかぁ、2人共忙しいのに昨日私の為に時間を空けてくれたんだもんね…
後で、お礼に行こう。
そんな事を考えていたら料理の準備が出来たみたいだ。お母様はスープにサラダ、パン、ヨーグルトのthe洋風の朝食で私はスープとサラダと昨日のケーキです。
「「いただきます」」
サラダに入っている野菜は苦手ですが我が家には、サラダを食べ切るまで他の物を食べてはいけないというルールがあるので頑張って食べます。
サラダを何とか食べ終えスープを食べようとスプーンに手を伸ばした時、コンコンという音が聞こえました。
「奥様、お嬢様、お食事中失礼致します。オンルです。緊急の為扉を開けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
扉を開け、オンルが入って来ました。オンルはお父様の侍従で、いつもピシッとしてます。
でも、今は何だか慌てた様子です。
「殿下からお嬢様に向けて手紙が届いております。」
そう言ってオンルが私に手紙を差し出した。でも、何故か封が切られている。
「あの、どうして封が切ってあるのでしょうか?」
「ティアちゃんそれはね、危険物がないかチェックする為よ」
お母様が答えてくれましたが、それは知ってます。お茶会の手紙などはアンナがチェックした後に私が読んでますから…
でも、そうじゃなくて…
「王家からの手紙でもそうなの?」
「そうよ、偽造かも知れないからね」
そうなんだ…知らなかった…この世界にも偽造とかあるんだね……じゃあ、今オンルが持っているのは正真正銘殿下からってことよね。
オンルから手紙を受け取り、早速読んでみました。
「…………はぁ、」
分かってた事だけど、コイツの事だけはいくら婚約者候補でも好きになれそうにないです。
「ティアちゃん、どうしたの?」
お母様が不安げな顔をしています。そりゃあ、手紙を読んで娘が急にため息ついたら心配にもなるか…
「いえ、ただ余りにも急だった為びっくりしただけですわ。殿下が今日の13時に直接私に贈り物を届けてくれるみたいです…とても光栄な事ですわ…おほほ……」
今日は折角のお休みデーだったのに、コンニャロ……
午前中にお兄様から頂いた本読んで、貰ったヘアアクセを付けてお昼からウィルと街に行って、それからおニューの裁縫箱を使ってぬいぐるみの洋服作ろうと思ったのに……全て台無しだよ…
「そう…ねぇ、ティアちゃんお手紙にはいつの日付けが書いてあるのかしら?」
「…………昨日ですわ……」
そう答えた後、部屋の温度が急に下がりました。ええ、なんかもう震えが止まりません……
「へー、昨日の日付なのね……」
多分、昨日王宮に行ってたお父様に殿下が直接渡したのでしょうね……
それで私が殿下のこと苦手なのを知ってるお父様が、気を使って誕生日が終わった今日渡してくれたって事なんでしょう……
「今の王宮は、礼儀作法の授業を子供には受けさせないのかしら?アディー兄様に聞いてみなきゃね?そう思うでしょ、オンル?」
お母様やめてあげて下さい、いつもピシッとしているオンルが縮こまってます…それに私もさっきから震えが止まりません…
アディー兄様はお母様の兄であり、現在のグローツ王国の国王陛下です。そして第一王子ノマイ殿下のお父様でございます……お母様は元々王族で公爵家に嫁いだ方です。
「ねぇ、オンル聞いてるの?」
「…はい…聞いております…」
普段優しい人が怒ると怖いって嘘じゃ無いです……お母様はとても美人で、お茶目な一面がありますが普段はとっても優しく全く怒らない方です。
お母様が怒るのは、隠し事や嘘を言われた時と私やお兄様、お父様に対して相手が失礼な態度をした時だけです。
「そう、なら良かったわ……ねぇ、オンル今すぐ此処にバーダー・アートォ・ヘルツォ公爵様を呼んできてくれないかしら?勿論、命令よ?」
「はい、ただいま。」
オンルが逃げる様にお父様を呼びに行きました……私も限界です……
「…私も準備がありますので、先に失礼致します……」
お母様に一礼し、許される限界の速度で退散しました。
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