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俺の護衛対象であるお嬢は昔からすっごく我儘だ。
「ねぇ、サン。私そっちのサンドイッチ食べたいわ」
また始まった。今日は朝食からお嬢の我儘発動だ。
「お嬢のはそっちにあるでしょ?これは俺の。早く食べて下さいよ」
「いやよ。だってそっちの方がハム多いじゃない。だから交換しなさいってば、ほら」
そんな訳は無いし、なんならお嬢の方がハムが多い筈だ。
『1人で食べるのがやだ』というお嬢の我儘でただの使用人の俺が毎食一緒に食べて上げているんだから、もうこれ以上の我儘は言わないで欲しい。
他の使用人達の視線が突き刺さって食べた気がしないんだよ…全く。
「あぁもう分かりましたよ…ほらどうぞ」
「うふふ。最初からそうしとけばいいのよ」
お嬢は殆ど俺から引ったくる様にしてサンドイッチを交換して食べ始めた。
俺から引ったくったサンドイッチをお嬢が無事完食した。紅茶を一杯飲んだらお嬢は家庭教師と勉強しに図書部屋に行き、俺は剣術の練習に行く予定だ。
……だけど俺は剣術の練習に向かった振りをしてお嬢の部屋にこっそり向かった。
「ねぇリサ。今日の朝食の担当は?」
お嬢の部屋の扉の隙間から中の様子を確認しつつ、扉に耳を当て会話を盗み聞きする。
「今日は確か料理長が不在ですので、副料理長が主だと思いますが一応確認しておきます」
お嬢の専属メイドのリサがそう言った。
リサは俺達よりもずっと年上のはずなのだが、初めて会った日から全く老けて行かないので実年齢が不明。
そして凄く頭が切れて、お嬢LOVEのやばい奴だ。
「それよりお嬢様何処か痺れたりしてきていませんか?」
「えぇ、あのくらいの毒何て事ないわよ。そんな事貴方が1番知っているでしょ?」
お嬢は笑いながらそう言った。
「確かにそうかもしれませんが、無理は絶対なさらないで下さいね!私との約束ですよ」
リサはいつも真剣な声を出してそう言うが、お嬢は決してその約束にうんとは言わない。
「それは約束できないわ、リサ。余命幾ばくも無い使えない令嬢の唯一の生きる意味。だから約束は出来ないわ。でも安心して、私は毒では絶対死なないから」
お嬢は小さい頃、原因不明の高熱を1週間ずっと出し続けそこから何ヶ月も意識が戻らなかった。
そのあと奇跡的に意識は戻ってきたものの、後遺症が出てしまった。
1つは体の成長速度低下。幸い脳には異常が無かったが、それ以外の臓器や骨、細胞などほぼ全てが何かしらのダメージを受け通常の人より体の成長速度が遅く、体力も少なくなってしまった。
後継ぎを産むことを重視されている貴族社会でお嬢は大きなハンデを背負ってしまった。
2つ目は薬や毒が全く効かなくなった事だ。原因は全くの不明で症例も何も無い為、これから先どうなるのか全く分からない。毒が効かないだけなら、毒殺も多い貴族社会では毒の耐性を小さな頃から付けておく家も多いので問題ない。しかし毒も量さえ間違わなければ、薬になる事が多い。その逆で薬も量を間違えたら毒になる。その為お嬢は薬が効かず病気をしても薬で治すことは不可能。
自分の事を『使えない令嬢』とお嬢は俺を引き取った8歳の時からずっと言っている。最初はこの意味がよく分からなかったし、お嬢の後遺症を知った後もうまく理解出来なかった。
何故ならお嬢は確かに貴族の令嬢としての役目を全う出来ないかもしれないが、公爵家の可愛い可愛い1人娘。俺の元いた家や他の貴族の子供に冷たい親達とは違い、お嬢は自分の両親にきちんと愛されているはずだからだ。
いや。だったからの方が今となっては正しいし、あんな小さい頃からお嬢は自分の親の本質に気が付いていただけなのだろう……
だけど俺には分からないのだ。お嬢の両親が何故俺の前でだけはお嬢を愛している振りをし続けるのか。
「ねぇ、サン。私そっちのサンドイッチ食べたいわ」
また始まった。今日は朝食からお嬢の我儘発動だ。
「お嬢のはそっちにあるでしょ?これは俺の。早く食べて下さいよ」
「いやよ。だってそっちの方がハム多いじゃない。だから交換しなさいってば、ほら」
そんな訳は無いし、なんならお嬢の方がハムが多い筈だ。
『1人で食べるのがやだ』というお嬢の我儘でただの使用人の俺が毎食一緒に食べて上げているんだから、もうこれ以上の我儘は言わないで欲しい。
他の使用人達の視線が突き刺さって食べた気がしないんだよ…全く。
「あぁもう分かりましたよ…ほらどうぞ」
「うふふ。最初からそうしとけばいいのよ」
お嬢は殆ど俺から引ったくる様にしてサンドイッチを交換して食べ始めた。
俺から引ったくったサンドイッチをお嬢が無事完食した。紅茶を一杯飲んだらお嬢は家庭教師と勉強しに図書部屋に行き、俺は剣術の練習に行く予定だ。
……だけど俺は剣術の練習に向かった振りをしてお嬢の部屋にこっそり向かった。
「ねぇリサ。今日の朝食の担当は?」
お嬢の部屋の扉の隙間から中の様子を確認しつつ、扉に耳を当て会話を盗み聞きする。
「今日は確か料理長が不在ですので、副料理長が主だと思いますが一応確認しておきます」
お嬢の専属メイドのリサがそう言った。
リサは俺達よりもずっと年上のはずなのだが、初めて会った日から全く老けて行かないので実年齢が不明。
そして凄く頭が切れて、お嬢LOVEのやばい奴だ。
「それよりお嬢様何処か痺れたりしてきていませんか?」
「えぇ、あのくらいの毒何て事ないわよ。そんな事貴方が1番知っているでしょ?」
お嬢は笑いながらそう言った。
「確かにそうかもしれませんが、無理は絶対なさらないで下さいね!私との約束ですよ」
リサはいつも真剣な声を出してそう言うが、お嬢は決してその約束にうんとは言わない。
「それは約束できないわ、リサ。余命幾ばくも無い使えない令嬢の唯一の生きる意味。だから約束は出来ないわ。でも安心して、私は毒では絶対死なないから」
お嬢は小さい頃、原因不明の高熱を1週間ずっと出し続けそこから何ヶ月も意識が戻らなかった。
そのあと奇跡的に意識は戻ってきたものの、後遺症が出てしまった。
1つは体の成長速度低下。幸い脳には異常が無かったが、それ以外の臓器や骨、細胞などほぼ全てが何かしらのダメージを受け通常の人より体の成長速度が遅く、体力も少なくなってしまった。
後継ぎを産むことを重視されている貴族社会でお嬢は大きなハンデを背負ってしまった。
2つ目は薬や毒が全く効かなくなった事だ。原因は全くの不明で症例も何も無い為、これから先どうなるのか全く分からない。毒が効かないだけなら、毒殺も多い貴族社会では毒の耐性を小さな頃から付けておく家も多いので問題ない。しかし毒も量さえ間違わなければ、薬になる事が多い。その逆で薬も量を間違えたら毒になる。その為お嬢は薬が効かず病気をしても薬で治すことは不可能。
自分の事を『使えない令嬢』とお嬢は俺を引き取った8歳の時からずっと言っている。最初はこの意味がよく分からなかったし、お嬢の後遺症を知った後もうまく理解出来なかった。
何故ならお嬢は確かに貴族の令嬢としての役目を全う出来ないかもしれないが、公爵家の可愛い可愛い1人娘。俺の元いた家や他の貴族の子供に冷たい親達とは違い、お嬢は自分の両親にきちんと愛されているはずだからだ。
いや。だったからの方が今となっては正しいし、あんな小さい頃からお嬢は自分の親の本質に気が付いていただけなのだろう……
だけど俺には分からないのだ。お嬢の両親が何故俺の前でだけはお嬢を愛している振りをし続けるのか。
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