我儘で優しい天邪鬼

みやび

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俺の護衛対象であるお嬢は昔からすっごく我儘だ。

「ねぇ、サン。もう今日は帰っちゃいましょうよ」

また始まった。今日は週に一度の教会訪問の日だ。

「お嬢もう帰ろうって着いたばかりですけど?ほら早く中入って下さい」

「いやよ。だって気分じゃないんだもの。いいから帰るわよ」

気分じゃないって…もう子供じゃないんだから、もうちょっと良い言い訳を考えて欲しいものだ。

大体家族と一緒に行けばいいものを、お嬢様の我儘で毎回わざわざ自宅から遠い教会まで来ているのに馬車から降りて門をくぐった途端帰りたいなんてとんだ我儘令嬢だ…

「全くもう…はいはい帰ればいいんでしょ、コウにはお嬢から言って下さいね」

「うふふ。最初から素直に言うこと聞けばいいのよ」

お嬢はそう言うとすぐUターンして馬車に向かい始めた。ついでに言うとコウは俺とお嬢より3歳年上のお嬢専用の御者で、リサとお嬢トークでよく盛り上がってるヤバい奴2号だ。

「おやこれはフィーネ公爵令嬢。いかがなさいましたかな」

お嬢が馬車に向かい歩き始めた直後毎週一度は聞く声が後ろから聞こえてきた。

「あら司祭様ご機嫌麗しゅうございます。せっかくの素敵な安息日ですが気分が優れない為、お暇致しますわ」

お嬢は申し訳なさそうな顔をしながら自分の両腕を胸の前に持っていき、そう言った。

「あぁ、これは何と。それは呼び止めてしまって申し訳ない」

司祭はそう言ったがどうやらすぐ帰してくれはしなさそうだ。だって目が何か企んでいる奴のニヤつく様な値踏みする様な、そう言う不快な目をしている。

「しかしせっかく遠い所から来ていただいてますし、従者の方だけでも参加されてはいかがでしょうか?幸い我が教会には医者在住の休憩室がありますしなぁ」

ニタニタ、ニヤニヤ気持ちが悪い。
お嬢が帰ろうと言った理由にここでやっと気が付けた。

「せっかくの申し出感謝いたしますわ。しかし、ご迷惑をおかけする訳にも行きませんので」

「いやいや、迷惑などと思ってもおりませんよ。さぁさぁ立ち話も何ですから、どうぞ中にお入り下さい」

お嬢が断っているのに司祭はどうしても教会に入れたいみたいだ。
教会の扉は今日みたいな日は開いているはずなのに何故かしまっている。そういえばさっき見た馬車の待機場ではいつもより馬車の台数も少なかった様な気がする。こんな怪しい条件が揃っているのに気づかない何て俺は護衛失格だし、お嬢を我儘だと言う資格はないかもしれない。

「はぁあ、何度も申し上げるの面倒くさいので単刀直入に言いますけど」

お嬢はそう言いと俺の腕に自分の腕を絡め司祭にまるで見せつける様に

「私は#__貴方の・所為__#貴方の所為で体調が悪くなったから帰りますし、サンは私の護衛ですから片時も私から離れるのは許しませんわ。それでは失礼致します」

と言った。お嬢はこんな時まで我儘令嬢口調でなんだか沈んでた気持ちも戻ってきた。

門から出る為に司祭に背を向け歩き出してすぐ、司祭を確認したが顔も手も真っ赤になり今にも俺たちを追いかけてきそうだ。

「お嬢ちょっと失礼するよ」

「え、サン何…ちょっ急になりするのよ」

お嬢の腰と太ももに手を当てお嬢は抱っこする。ドレスがあるし走りやすい様にお姫様抱っこなのは許して欲しい。

「早く降ろしなさいってサン。ねぇ聞いてるのサン‼︎」

お嬢が大声で叫んでいるが気にしたら負けだ。

「走るんでちゃんと俺に捕まってろよお嬢」

お嬢を抱きかかえたまま俺は司祭から逃げる様に走った。お嬢はまだギャーギャー騒いでいるがやっぱり俺の予想通り追いかけてきた司祭から逃げるのが最優先だ。

門の方に走って行くとよく見慣れた馬車が扉を開けて門の真前まで来ていた。

「ほらサン早く早く。もう出れるから乗り込んで」

コウが御者席から叫ぶ様にそう言った。

「サンキュー、コウ。流石お嬢大好き2号の名は伊達じゃないな」

「いいから早く乗って、取り敢えず公爵家に戻るから」

お嬢と俺も馬車に乗り込み、扉を閉めるとほぼ同時に馬車が動き出した。
お嬢を椅子に座らせドレスを可能な限り整える。

「お嬢悪かったって。謝るから機嫌直してくれよ」

「ぜーーーったい、いやよ!」


急に抱きかかえられて怒ったお嬢に許してもらえるまで、いつもの倍上の我儘に付き合わされたのはまた別のお話だ。



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