勇者が育つのが早過ぎる

アキナヌカ

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勇者が育つのが早過ぎる

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この私、魔王クラウス・コルレアトゥスは思っていた。堅固な要塞のような魔王城の中にある謁見の間で、魔王が座るべく作られた豪奢な椅子に座ってこう思っていた。

「最近は勇者が育つのが早過ぎる」
「………………は?」

あっ、やばい。本音が思わずポロっと出た、だが出てしまったものは仕方がない。治安面を任せている王国騎士団の隊長が思わずポカーンとした顔をしてるけど仕方がない、だって本当に最近は勇者が育つのが早過ぎると私は思うんだ。今年だけでこの魔王城まできた勇者が何人いただろう、そう私の片手の指では足りないはずだ、でもだからといって両手の指では余ってしまうな。

「陛下、恐れながら今申し上げましたように、リンデル国の自称勇者には私の下の下のそのまた下の部下を向かわせました。名も申し上げるほどではないただの部隊長ですが、何か問題でもございましたでしょうか」
「いや、何だ。こう思わないか、なんでそんな優秀なお前の下の下のそのまた下の部下をリンデル国の自称勇者の様子を見に向かわせる。もっとお前の直属の部下とかいないのか、それでさくっと自称勇者をどうにかしてくればいいではないのか」

勇者は育つのである、まるでベランダに置いて放っておいたサボテンのように、いつの間にかすくすくと大きく育ってしまうのである。これがサボテンだったならばいい、その僅かだが確実なしっかりとした成長だって気にすることもない。だが本物の魔王を打ちのめすような勇者だったならいけない、だったらそんな勇者が育つ前に倒してしまえばいい、そう思うのだがこれがなかなか上手くいかないのだ。

「陛下、恐れながら申し上げますと集めた情報によれば、それもごく僅かな強いかなっという評判だけの自称勇者です。私の直属の部下を向かわせるほどではございません、そんなことを言えばポカーンとした顔をするでしょう、直属の部下たちはみな通常の業務に励んでおります」
「その相手をなめたような姿勢がいけないのではないか、最近は勇者が育つのが早過ぎる。サボテンならいずれ花が咲いてほっこりとするものだが、あいつらはいきなりこの魔王城に来て私を出せと騒ぎたてる。だから、お前の直属の部下がいってさくっとどうにかしてきてくれないか」

私は最近思っていることを王国騎士団の隊長に不満をぶちまけた、実際にサボテンが育って花が咲いた時にはほっこりとした気持ちになったものだ、こんな魔王城の寂れたベランダに放置していても生命は逞しく生きていくのだと、そう優しい気持ちが芽生えたものだった。だが、最近の勇者たちは違う、あいつらはいわば害虫だ。あの害虫は一匹見たら三十匹はいるという、それも忘れた頃にやってくるのだから煩わしい。そう勇者たちのことを思って言ってみたが、私の素晴らしい提案に王国騎士団の隊長は首を横に振った。

「陛下、恐れながら申し上げますが、適材適所という言葉がございます。例えば私の部下にリンデル国の勇者の様子をみてこいなんて言ったら、そいつはきっとポカーンとした顔をします。実力が違い過ぎるからです、それに勇者が本物なら相手国で騒ぎを起こすのですから、部隊長くらいの者のほうが国交の面からでも安心なのです」
「そうなんだよなぁ、あの自称勇者たちせっせと自国でレベル上げをして、それで自分の国だけで満足していればいいのに、他国でもレベル上げをし始めて勇者だと名乗りをあげる。様子を見にいかせた私たちの部下とも何故か戦いながらレベルアップして、ついにはこの魔王城へやってくるんだ。最近は勇者が育つのが早過ぎる、本当に何故なんだろうか、私は何か神に悪いことでもしたのか」

勇者が育つのが早過ぎる、そしてその勇者たちのほとんどは自称勇者という扱いになる。生前は隣国が勇者と認めていてもその勇者が死んでしまえば、正式な外交の場では死んだ自国の者は自称勇者という者でしたと言いやがる。全く魔王様には迷惑をおかけして申し訳ない、なにせ勝手に勇者と名乗っているので我が国としても取り締まりはうんぬんかんぬんときた。実際に国王から認められている勇者は少数派だ、だってそんな怪しい本物の勇者候補は私の影の部隊がプチっと潰してしまうからだ。はぁ~、害虫を殺すよりも面倒くさい、殺虫剤でシューっとですまないのが勇者という生き物だ。

「陛下、恐れながら申し上げます。神は人間たちのそれぞれの国にそれはもう多種多様に存在していて、いちいち陛下がそのご機嫌をとってなどしてはいられません。あいつらは勝手に聖女を選んで予言なんかさせて、それで自称勇者を生産するのを仕事と称しております。陛下は何も神などに悪いことはされていません、ただ単にその存在を無視しているだけでございます」
「ああ、そうなんだよなぁ。私は普通に自国の政治をしているだけなのに、何故なにゆえに魔族だけが神に目のかたきにされるのだろうな。その敵である魔族の親玉が魔王である私というわけだ、うちの国でも神を信仰してみようかって無理だな、多すぎてどの神を信仰したらいいのか分からない。それに国民にいきなり信仰を強いるのは反発を招く、でもやっぱり最近は勇者が育つのが早過ぎる」

神とやらは国ごとによって何百、下手をすると何千もいるという。それが全部本当の神なわけがない、いくらかは偽物の神もいるだろう。だが、実際には本物の神も僅かにはいて、そして本物の勇者がすくすくとしっかり育ってしまうのだ。だからといって早めにその芽をつむのはできない、しかしながら部下に様子を見に行かせないわけにもいかない、自称勇者だからといって何もせずに放置しておくと、いつの間にかちゃっかりと三十匹に増えているのが勇者なのである。

「そろそろ本腰をいれて勇者への対策を検討すべきではないか、年に何回かとはいえ確実に本物の勇者が現れて魔王城に辿り着く、いずれは私をも倒すそんな強者が来るかもしれない。あっ、ちょっと怖くなってきたぞ、本気で勇者たちを潰してしまいたくなってきた。こんな謁見の間にいる場合じゃない、私は少し外の国を散歩でもしてきたい気分だ」
「陛下、恐れながら申し上げます。そんなことを言っても陛下の抱える執務は減ることはありません、増えることはありますな。残念ながら自称勇者の問題もありますゆえ仕方ありません、だからといって陛下自身が自称勇者を潰して回るなどもってのほか、外交問題に発展してそのいきつく果ては戦争です。そうなったら自国の民を悲しませることになり、また陛下の執務は山のように増えるでしょう」

ああ、なんだかなぁ。もう頭が痛くなってきた、それもこれも最近は勇者が育つのが早過ぎるせいだ。私がこうして謁見の間で長い部下たちの報告を聞いて労いの言葉をかけるのも、もう三か月近く執務ばかりで休みがなくて妻にもろくに会えなくて浮気を疑われているのも、子どもたちに至っては反抗期に突入して全く目も合わせてくれずに話してなんてくれないのも、その全部が最近は勇者が育つのが早過ぎるせいだった。はぁ~、何かないだろうか、私の癒しはサボテンのサボちゃんだけなのか。

その時だった、謁見の間に王国騎士団の隊長の直属の部下が走りこんできた。普段ならば無礼極まりない行為であるがこの慌てようには覚えがある、これはそうだ!!とうとうその時がやってきたのだ!!

「へ、陛下!!勇者が、勇者が魔王城の城門に現れました!!」
「うむ、分かった。さっそくだが私が向かおう!!」

堅固な魔王城に現れたのは久しぶりに本物の勇者だった、神の守護を受けている気配がぷんぷんしていた。私は魔王城の城門の上の空間に転移してその勇者を見下ろした、勇者は口を開いて何かを喋ろうとしていた、聖女はすぐに神に祈りを捧げていた。剣士は勇者の前に出てきて油断なくいきなり現れた私を牽制した、賢者らしき者は魔法を使おうと呪文を唱え始めていた。私はゆっくりとその口を開いた、これは魔族を代表する魔王として当然の行為であり、私だけに与えられた特権でもあった。

「うむ、それではな。『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの火炎フレイム』」

それはあっという間の出来事だった、どこの国から来たのかまだ聞いていないが、本物の勇者たちはポカーンとした顔をして煉獄の炎に包まれた。彼らは悲鳴をあげる暇すらなかった、私が上級魔法を最速で詠唱して倒してしまったからだった。勇者たち一行は魔王城の城門の前で灰となって消えた、どこの勇者だったかは後で応対した部下からゆっくりと聞けばいい、それよりも私の執務を邪魔する害虫はさっさと駆除してしまうに限る。

四天王?なんだそれは王国騎士団の隊長の直属の部下たちか、彼らには通常の業務があるのだからこんな小さなことで手間をとらせてはいけない。だから我が国では魔王城まで勇者という者が辿り着いたら私が、この魔王であるクラウス・コルレアトゥスが直々に相手をしてやらねばならないのだ。それが神に選ばれたという者への礼儀でもあろう、なにせ神が選んだのだからいずれ私と戦うのだ。だったら四天王やその下の下のそのまた下の部下、そんな者たちに事の始末を任せてはいられないのだ。

「陛下!!ご無事でございますか、お体を大事にしてください。貴方様はかけがえない方なのですから……、後は私が部下から詳細を聞いてまとめてご報告いたします」
「うむ、そうだな。どこの国の勇者だったか聞いておけ、外交官から正式に一応は抗議させよう。またどうせ自称勇者だっただとか言うに違いないが、もしかしたら正式な勇者だったかもしれないからな」

私は久しぶりに全力を出して勇者とかいう一行を倒した、本当に最速で倒して相手がポカーンとした顔をしているうちに済んだ。勇者というのは育つのは早過ぎるがその力はまだ未熟だな、時々は喋るのが早くて四天王を出せなんて言う者もいるが、最強である魔王たる私がいるのに、何故いちいち私の部下たちから戦いたがるのか分からない。

まぁ、今日は私は勇者を倒した。だから念のために執務を中止して、城の主治医による健康診断を受けなければならない。そんな時は妻もゆっくりと私の傍にいてくれるし話もできる、普段はそっぽ向いている子どもたちも目を輝かせて私のやったことを褒めてくれるのだ。年に数回の話だが仕方がない、勇者に魔王城まで攻め込まれるような非常事態は避けたいものだ、城下の民には勇者一行がきたら避難するように訓練しているがそれでも彼らが心配だ。それにしても最近はそうだなぁ、まるで彼らはサボテンのサボちゃんのようなのだ。だから、思わず私はこう愚痴ってしまう。

「勇者が育つのが早過ぎる」
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