また新しい夢を見る

アキナヌカ

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また新しい夢を見る

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 俺は幼い頃から夢を見ていた、ずっと同じ夢を見ていた。その夢の中で俺は愛おしい恋人を見つけていた、いや俺が愛することができるそんな理想の女性を見つけていた。夢の中では俺はいつも幸せだった、でも起きてみたら夢は覚めて俺は彼女の姿さえ思い出せなかった。俺はいつ彼女に会えるのか分からなかった、いや会うことができるのかすらも分からない、それが厳しい現実という世界だった。

「ふむ、それじゃ。これで俺の勝ちでいいな」
「……ああ、げほっ!? 僕の負けだ、彼女は君のものだ」

 俺はドラゴンだった、誇り高きドラゴンだった。ドラゴンとして一人前になった俺は旅をしていた、一つは今よりもずっと強くなるために、もう一つは俺が愛することができる誰かを探すためだった。その旅の途中で俺はまた一頭の美しくて強いメスのドラゴンと出会い、その彼女を手に入れるために別のオスのドラゴンと決闘をしたところだった。

 戦った相手のドラゴンは血を吐いて地面に蹲っていた、俺が戦って交尾の誘いをかけれるようになった、そのメスのドラゴンは俺に期待を込めて俺の事を見つめていた。でも俺はそのメスのドラゴンをよく見たら、何故だか気持ちが急速に冷めていくのを感じた。あんなに敵であるオスのドラゴンと戦っている時、その時には彼女が魅力的に美しく見えていた。

 それなのにそれが今となっては俺は、彼女と交尾をしたいとは全く思わなかった。だから俺は彼女に対して誠実であろう、そう思って思ったままの俺の気持ちを伝えることにした。ドラゴンは嘘が大嫌いだ、だから俺は偽りの愛を囁くようなことはできなかった。そんなことをするつもりもなかった、俺は正直に思ったままのことをそのメスのドラゴンに伝えた。

「すまん、君が凄く魅力的に見えたんだ。でも俺の見間違いだったようだ、俺は君とは交尾しない」
「………………ふざけんな!? この脳筋ドラゴン!!」

 そうして俺はメスのドラゴンから手痛い爪の攻撃を受けた、でもこれは俺が一方的に悪かったから俺は甘んじて、そのメスのドラゴンが落ち着くまでただその激しい攻撃に耐えた。俺のやった行為はこのメスのドラゴンに恥をかかせたのだ、このくらいの軽い攻撃は受けて当たり前だった。俺はオスとして失格の行為をしたのだから、恥をかかされたメスであるドラゴンの方に正義があった。

「ふむ、やれやれ。なかなか俺の理想の相手には出会えないな」

 俺の名はレスレクシオンという、皆は俺のことをシオンと呼んだ、俺は真っ赤な体を持つドラゴンだった、用があって人間の姿になる時は俺は赤い髪に同じ赤い瞳の青年になれた。俺はつい最近だ一人前になって母親と別れて自立した、そうして俺は運命の理想の女性であるメスのドラゴンを探して旅に出た。俺には理想の女性というものがあった、ずっと夢を見てその女性を探していた。

 そうして俺は何百年も同じことを繰り返した、魅力的なメスのドラゴンと会っては同族のオスと戦い、そして戦い終わったらそのメスのドラゴンに幻滅して交尾はできなかった。俺にとって理想の女性とは誰なのだろう、俺はその問いを何百回も何千回も自分自身にした。でもさっぱり俺には分からなかった、だからそのメスのドラゴンと出会ってみないと分からない、そう思って俺は戦い続けて同時に女性に振られ続けた。

「あなたに会いたい、きっといつか会ってみたい」

 俺は夢の中に出てくる理想の女性にそう言った、そうしたら俺にその女性は微笑んで頷いてくれた。俺は短く眠っている夢の間は幸せだった、とても幸せでいっそ夢から覚めたくないとまで思った。でも俺は現実に戻ってこないわけにはいかなかった、そうやって夢ばかり見ていたらこの残酷な世界では俺は殺されていた、強者であるドラゴンはいろんな生き物に狙われていた。

 中でも人間は何故だかドラゴンを殺すことを望んでいた、それは強い者と戦いたいという純粋な思いかもしれない、でも中には誇り高きドラゴンをただの素材としてしか見ていない人間もいた。だから俺はあまり人間が好きではなかった、まぁはっきりと言えば蟻のようなものだと思っていた。ドラゴンという大きくて魅力的な砂糖があると知ったら、人間たちは蟻のようにそのドラゴンを狙ってやってきた。

「赤きドラゴンよ、太古からの強者よ。私と勝負して欲しい、そう正々堂々と戦って欲しい」
「ふむ、人間にしては珍しい。いいだろう、俺と正々堂々と戦おうじゃないか!!」

 ある日のことだった、俺に勝負を挑んできた人間がいた。その人間は攻撃の上級魔法まで使える、そんな少し珍しい人間だった。人間なのに卑怯な手は使わずに俺に正々堂々と勝負を挑んだ、だから俺もその言葉を信じて正々堂々とその人間と戦った。俺は同族のドラゴンと戦うよりも苦戦した、その人間は信じられないほどに強かったのだ。

 でも俺の方が僅かに強かった、だからその人間は俺に敗れた。そうして俺に向かって止めを刺せと言った、だが俺としてはもう勝負がついた者を殺すのはつまらなかった。それにドラゴンの俺に正々堂々と挑み、俺を苦戦に追い込んだその人間を気に入った。だから俺はまずその人間の名前を聞いた、そうその人間のことが俺はもっと知りたくなった。俺に名前を聞かれてその人間は、鎧の兜を脱いでから答えた。

「私はアドレットだ、誇り高きドラゴンよ」
「俺はレスレクシオンだ、シオンと呼べ」

「それではシオン、私に止めを刺すがいい」
「ふむ、いいやそれは止めておこう。アドレット」

 俺は正々堂々と戦った人間が女性だったことに驚いた、彼女は美しい短い金の髪に青い瞳を持っていた。そして俺がアドレットという女性に止めを刺さないことに驚いていた、俺は何故か彼女を殺したくないと思ってしまったのだ。アドレットという女性は美しいだけじゃなく強かった、それにドラゴンである俺に正々堂々と挑んできた戦士でもあった。

「俺の友になってくれ、アドレット」
「私はシオンを殺しにきたのに、その私と友になるのか」

「そうだ、俺はそうしてみたい」
「ああ、それならいいだろう。シオン、今日から君は私の友だ」

「これからの毎日が楽しくなりそうだ」
「そうか、私もなんだか楽しみに思えてきたよ」

 命を賭けて戦った俺とアドレットという女性は友となった、そうして俺はしばらくアドレットと一緒に過ごしてみることにした。千年を生きるドラゴンにしてみれば、ただの人間の一生などあっという間のはずだった。だがアドレットという女性と過ごす日々は俺とっては楽しかった、彼女は本当に正直で真っすぐな人間で俺に嘘をつかなかった。

「シオンは力で物事を解決し過ぎる、少しは人間らしくしてみたらどうだ」
「そうか、だがそれこそ俺だ。ドラゴンという生き物だ、強者である振る舞いだ」

「はぁ~、シオン。人間の世界では力だけでは解決しない問題もある」
「何だ、そんな時にはアドレットを連れて、この土地を離れればいいだけだ」

「勝手に私をシオンのもののように扱うな!!」
「アドレットはもう俺の親友だ、だが俺のものではないそれが残念だ」

 俺とアドレットはいつの間にか親友になっていた、一緒にいろんな敵と戦って勝って生き残った。時には酒場を潰すような勢いで楽しく酒を飲んだ、そうしているアドレットは楽しそうに笑っていた。俺はアドレットという親友ができて幸せだった、彼女がドラゴンでないことが残念だった。そうアドレットがドラゴンだったなら、俺は彼女を手に入れる為にあらゆる敵と戦ったはずだ。

「アドレット、君がドラゴンだったら良かった」
「そうだな、シオン。私もドラゴンになり、自由に空を飛んでみたいな」

「そうか、それじゃ今度俺が君を乗せて空を飛ぼう」
「ふふっ、私を落とさないでくれよ。シオン」

「大丈夫だ、俺は君を離さない」
「そうか、それなら楽しそうだ」

 そしてあっという間にアドレットとのお別れがきた、ある日俺がいない時にアドレットは強い魔物と戦った。いつもの彼女ならそんな魔物くらい倒すことができた、でもその魔物は狡猾で幼い子どもを人質にとった、強いうえに優しかったアドレットはその子どもを助ける代わりに死んだ。本当にあっという間の出来事だったらしい、俺はアドレットが助けた子どもから話を聞いて、ようやく彼女の死を知った。

「アドレット、強く優しい誇り高かった君よ。君の仇は俺が必ずとろう、あの魔物に思い知らせよう」

 そうして俺はアドレットを殺した魔物、その卑怯者を散々苦しめてから八つ裂きにして殺した。いつもの俺ならばこんなことはしなかった、魔物を嬲って殺すような面倒なことはしなかった。でもこの魔物は俺のかけがえのない親友を奪ったのだ、ただでさえ人間であるアドレット、その彼女と俺が一緒に過ごせる時は短かった。

 その魔物はその大切な短い時間さえ俺から奪った、俺は生まれて初めて本当に怒りで我を見失った。そうしてその魔物を八つ裂きにしたら、親友のアドレットのために俺は涙を流した。俺にとって泣くというのも幼い頃以来のことだった、悲しくて寂しくて涙が次々と溢れ出た。でもアドレットは死んでしまった、その魂は世界の大きな力へと返ったのだ、もう俺は彼女と会うことはできなくなってしまった。

「ふむ、そういえばもう随分と長くあの夢を見ないな」

 それは俺が幼い頃から見ていた夢だった、俺の理想の女性に出会う優しい夢だった。でも俺はその夢をもう見ることができなかった、どんなに見たいと思ってもその夢は見れなかった。俺はそれが不思議で仕方がなかった、それに俺はメスのドラゴンを探すのも面倒になってきた。俺は理想のメスのドラゴンを見つけたかったはずなのに、俺はもうそんなことはどうでもいいと思うようになった。

 そうして俺は強さにも興味を失くしていった、俺はアドレットがいた近くの魔の森に縄張りを持った。そんな俺が夢に見るのは生きていた頃のアドレットだった、彼女は夢の中では生き生きと笑っていた。元気に笑ってくれるアドレットの顔が見たくて、俺はだんだんと長く眠るようになった。それはドラゴンとしてはとても危険なことだったが、それでも俺は夢の中でアドレットに会いたかったのだ。

「何をしているんだ、シオン!! 君の理想の女性を探すのを止めてはいけない!!」
「……アドレット、俺は、俺は上手く言えないが、ずっと君の夢を見ていたいんだ」

「シオン、夢はただの幻だよ。もう私は君の傍にいられない、だから新しい夢を見るんだ!!」
「……アドレット、新しい夢とは何だ?」

「新しくて楽しい幸せな夢だよ、君の次の理想の女性を見つける夢だ。そう君はまた夢を見れる、誰かをきっとまた愛せるんだ」
「アドレット、俺は君を愛していた? そうか、俺は君を愛していたのか!?」

 夢の中のアドレットに会って俺はようやく大切なことに気がついた、アドレットはそんな俺のことを愛おしそうに見て笑ってくれていた。そんなアドレットの笑顔は生き生きとしていた、そう本当に楽しそうに嬉しそうに俺を見て笑ってくれていた。俺はその笑顔を見て今度は彼女に笑い返しながら泣いた、アドレットとの完全な別れが本当に悲しかったが、それは俺にはとても大切で必要なことだった。

 それから俺はまた愛する誰かを探して旅立った、いつか会える誰かをまた夢に見るようになった。その姿は俺と同じドラゴンだった、そして今度のメスのドラゴンも美しく強かった。アドレットに少し似ているような気がした、そんな生き生きとしたメスのドラゴンは行動的だった。夢の中で彼女も俺のことを探していた、俺は今度こそそのメスのドラゴンに会ってみせると思っていた。

「あなたに会いたい、きっと今度こそ会いたい」

 俺はそう思って今日も空を力強く飛んでいた、たとえとても大切な夢を失ってしまっても、また新しい夢を見ることはできるのだ。俺は今度こそ夢のドラゴンに会うつもりだった、俺が失ってしまったアドレットの愛おしい笑顔を思い出しながら、次こそは新しい夢の彼女を失ったりしないと思っていた。そうして俺は優しい風を感じながら自由に空を飛んだ、俺の愛したアドレットの力強い笑顔を胸に抱きながら、次の新しい夢の女性に会えるまで空を思いっきり飛び続けた。
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