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1-19フェーダーに祈る
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「貴方がリタさんですよね、フェーダーさんが大変なんです!!」
「ええっと、ステラさん。だったよね、どうして僕のところに?」
僕の前に久しぶりにやってきた人物はステラだった、白い髪と赤い瞳をもつ神官服の少女は走ってきたので、しばらく荒い息をつきながらやがてこう言った。
「フェーダーさんが最期に貴方に謝りたいって!! 右腕の傷が悪化してもうどうしようもないのです!!」
「そんな大変なことに……、分かった。おそらく僕には何もできることはない、だけど一緒に行くよ」
僕の体調ははっきりいってよくなかった、起き上がるのも一苦労でステラに手伝って貰ったくらいだ。その間にステラから最近のフェーダーについて話を聞けた、盗みを何度も働いて右手を失ったフェーダーは教会の孤児院で保護された。だがそこにも馴染めずに一人で過ごしていた、右腕の傷が悪化したことも隠していて、今日見回りにきた神官に倒れているところを見つかったそうだ。
僕はソアンに『フェーダーに会いに神殿の孤児院に行ってくる』とだけ手紙を残し、そうしてから宿屋を出て僕とステラは神殿に向かった。僕はふらふらと歩いてステラについていった、病気の症状のせいで本当に体調が悪いのだ。それにこれから行く先に待っているものも怖かった、エルフであろうと人間であろうと、命というものが失われるのは悲しいことだからだ。
僕とステラは半刻かけてやっと神殿に辿り着いた、主には僕の調子が悪いせいだった、むしろ外に出てここまでこれたのが不思議なくらいだった。そうして行ってみた孤児院には暗い顔をした子どもたちがいた、それから以前に会ったことのある神官、確かフェーダーを連れていったユーニーという女性の神官がいた。
「ユーニー様、リタさんを連れてきました!! フェーダーさんは大丈夫ですか!!」
「ステラ、とても残念なことですが、隠せることでもないので言います。フェーダーは先ほど……、光溢れる神の国へ旅立ちました」
「………………そうですか」
「ううぅ、ユーニー様。間に合わなくてごめんなさい、フェーダーさんは最期になんて言いましたか」
「フェーダーはこう言いました、『これでやっと母ちゃんに会える』と、よほど亡くなった母親に、またもう一度会いたかったのでしょう」
「………………」
僕はユーニーという女性の神官の言葉に衝撃を受けた、ほんの半月ほど前まではフェーダーは右手を失ったとはいえ元気だった。ああ、命というものは手の中の砂のように簡単に零れ落ちてしまうものだ。僕は話を聞いているうちに胸が凄く苦しくなっていった、とても飲み込めない重い物を押しつけられたような気がした。
フェーダーとの出会いは良いものではなかった、でもその命を失うほどに悪いことをしたわけではない、そう思ったがもうどうしようもなかった。僕は胸だけでなく頭も痛くなってきて、その場に倒れこみそうになった。その時だった、いつもと変わらない僕の愛する養い子の声が聞こえた。
「リタ様!! 大丈夫ですか!? 体調が悪いのにお出かけになるなんて、私は凄く心配しました!!」
「…………ソアン、良かった。君が来てくれて、助かった」
「きゃあ、リタ様!!」
「もう大丈夫だよ、ソアン」
何か重い荷物を持たされたかのように、僕はその場に崩れ落ちて蹲ってしまった。そんな僕のことを走ってやってきたソアンが抱きしめてくれる、安心していいともう大丈夫だよと全身で伝えてくれていた。そうされてからフェーダーが死んだことが悲しい、希望がある未来をもった子供が亡くなったことが悲しい、そうやっと僕は今まで抑えられていた感情に気づいた。
だからほんの少しだけ泣いてしまった、フードで僕の顔は隠れていたから、ソアン以外には見えていなかっただろう。そんな僕の様子をみてソアンが、ユーニーという神官にこう言いだした。
「もうリタ様に用はないですよね、私たちは帰ってもよろしいでしょうか?」
「フェーダーにお会いになりませんか、光の国に旅立ったあの子にエルフからも祝福を」
「僕は、僕は会いたくありません」
「リタ様はこうおっしゃっています、私たちはフェーダーさんに会いません」
「まぁ、困りましたね。どうしましょうか、あの子の最期の願いなのに」
「フェーダーはもう話せないでしょう、僕は元気だった頃のあの子を覚えていたいんです」
「……リタ様、そうですね。さぁ、私たちはもう帰りましょう」
「あらまぁ、ではまたお会いしましょう」
「今度はこんな形ではなく、お会いしたいものです」
それから僕はソアンに支えられながら宿屋まで戻った、すぐにベッドの横たわって今度は涙がとめどなく溢れた。ソアンも悲しそうな顔をしていて、声を出さずに泣き続ける僕の手を握ってくれていた。しばらく泣いてしまうと気持ちが落ち着いてきた、同時に子どものように泣いた恥ずかしさも湧き上がってきて、ソアンからも手を放して毛布を頭から被って僕は姿を隠してしまった。
「フェーダーさん、お母さん想いの一生懸命な子でしたね」
「………………うん、そうだったね」
「私だってリタ様を助ける為なら盗みくらいします!!」
「それは駄目だよ、ソアン!!」
「ああ、やっとお顔を見せてくださいました」
「僕は今、凄くひどい顔をしているだろう」
「いいえ、でもあんまり目をこすらないで、目が赤くなってしまいますよ」
「そんなことを言われると、まるでソアンが僕の保護者みたいだ」
それから僕たちは少ないがフェーダーのことを話しあった、彼が母親の為に盗みを働いたのはいけないことだ、でもそれほど必死に母親のことを思いやっている子どもでもあった。右手を失ってしまっていたが、まだ将来という希望が残されていた少年だった。僕たちは少ないがフェーダーの知っているところを話して、そしてエルフの流儀でフェーダーとの別れを惜しんだ。
「世界の理に帰ったあの子が、つかの間でも母親と会えますように」
「はい、世界の理で浄化される前に、お母さんに甘えられますように」
その翌日、ステラが僕たちをまた呼びにきたのだが、フェーダーの葬儀が行われるというので行った。フェーダーはお棺の中に入れられていて顔を見ずにすんだ、それからユーニーという女性の神官が短く祈りを捧げて、そしてお棺が埋められてフェーダーの人生は終わりを告げた。でも僕とソアンは忘れないと思う、フェーダーという母親想いの人間の子がいたこと、間違った道を歩んだけれどがむしゃらに頑張って生きていた子供だった。
「また動けないなんて、僕はなんて駄目なエルフだろう」
「リタ様は無理をしただけです!! 駄目なエルフなんかじゃありません!!」
フェーダーの葬儀が終わると僕の病気がまたぶり返した、そもそもフェーダーが亡くなった時に既に悪かったものが、無理をしたせいで更に悪くなったようだった。それでもソアンはこうしろと何も言わなかった、いつものようにゆっくり休んでくださいとだけ言っていた。僕にとっては休んでくれという言葉が一番良く効いた、プルエールの森では誰も僕に言ってくれなかった言葉だったからだ。
そうやって休んでしばらく経つとまた僕は回復した、ソアンの言う通り僕の病気には波のように、良い時と悪い時があるようだった。それを繰り返して良い時を増やしていく、そうやって僕の病気は治っていくんじゃないかと思っていた。今すぐに治せる薬があればいいのだが、実はプルエールの森にいた時に試してみたのだが、エルフの最高の回復薬でも僕の病気は治らなかった。
僕はその時は自分の調子が悪いのは、僕の薬作りの腕が良くないからだと思っていた。この村には僕以上の薬を作れる者はいなかったのにだ、ソアンの言う通り僕はちょっとだけど、自分を過小評価し過ぎているようだ。僕は自信を取り戻したい、自分にも何かできるのだと証明したくなった。だから朝食の後にソアンと二人で冒険者ギルドに行って、掲示板に貼りだされている依頼を真剣に読んでいった。
「なかなか良い依頼がないね、ソアン」
「そうですね、リタ様」
「あれっ、これなんか依頼じゃなくて、試験があるみたいだけど。……どうかな」
「ああ、リタ様なら絶対にできそうです!!」
「そうかな、大丈夫かな?」
ちょっと自信が無い今の僕にはできるかどうか分からない依頼だった、でもソアンは自信たっぷりに頷いてこう言い放った。
「建国祭での歌い手なんて、リタ様にぴったりですよ!!」
「ええっと、ステラさん。だったよね、どうして僕のところに?」
僕の前に久しぶりにやってきた人物はステラだった、白い髪と赤い瞳をもつ神官服の少女は走ってきたので、しばらく荒い息をつきながらやがてこう言った。
「フェーダーさんが最期に貴方に謝りたいって!! 右腕の傷が悪化してもうどうしようもないのです!!」
「そんな大変なことに……、分かった。おそらく僕には何もできることはない、だけど一緒に行くよ」
僕の体調ははっきりいってよくなかった、起き上がるのも一苦労でステラに手伝って貰ったくらいだ。その間にステラから最近のフェーダーについて話を聞けた、盗みを何度も働いて右手を失ったフェーダーは教会の孤児院で保護された。だがそこにも馴染めずに一人で過ごしていた、右腕の傷が悪化したことも隠していて、今日見回りにきた神官に倒れているところを見つかったそうだ。
僕はソアンに『フェーダーに会いに神殿の孤児院に行ってくる』とだけ手紙を残し、そうしてから宿屋を出て僕とステラは神殿に向かった。僕はふらふらと歩いてステラについていった、病気の症状のせいで本当に体調が悪いのだ。それにこれから行く先に待っているものも怖かった、エルフであろうと人間であろうと、命というものが失われるのは悲しいことだからだ。
僕とステラは半刻かけてやっと神殿に辿り着いた、主には僕の調子が悪いせいだった、むしろ外に出てここまでこれたのが不思議なくらいだった。そうして行ってみた孤児院には暗い顔をした子どもたちがいた、それから以前に会ったことのある神官、確かフェーダーを連れていったユーニーという女性の神官がいた。
「ユーニー様、リタさんを連れてきました!! フェーダーさんは大丈夫ですか!!」
「ステラ、とても残念なことですが、隠せることでもないので言います。フェーダーは先ほど……、光溢れる神の国へ旅立ちました」
「………………そうですか」
「ううぅ、ユーニー様。間に合わなくてごめんなさい、フェーダーさんは最期になんて言いましたか」
「フェーダーはこう言いました、『これでやっと母ちゃんに会える』と、よほど亡くなった母親に、またもう一度会いたかったのでしょう」
「………………」
僕はユーニーという女性の神官の言葉に衝撃を受けた、ほんの半月ほど前まではフェーダーは右手を失ったとはいえ元気だった。ああ、命というものは手の中の砂のように簡単に零れ落ちてしまうものだ。僕は話を聞いているうちに胸が凄く苦しくなっていった、とても飲み込めない重い物を押しつけられたような気がした。
フェーダーとの出会いは良いものではなかった、でもその命を失うほどに悪いことをしたわけではない、そう思ったがもうどうしようもなかった。僕は胸だけでなく頭も痛くなってきて、その場に倒れこみそうになった。その時だった、いつもと変わらない僕の愛する養い子の声が聞こえた。
「リタ様!! 大丈夫ですか!? 体調が悪いのにお出かけになるなんて、私は凄く心配しました!!」
「…………ソアン、良かった。君が来てくれて、助かった」
「きゃあ、リタ様!!」
「もう大丈夫だよ、ソアン」
何か重い荷物を持たされたかのように、僕はその場に崩れ落ちて蹲ってしまった。そんな僕のことを走ってやってきたソアンが抱きしめてくれる、安心していいともう大丈夫だよと全身で伝えてくれていた。そうされてからフェーダーが死んだことが悲しい、希望がある未来をもった子供が亡くなったことが悲しい、そうやっと僕は今まで抑えられていた感情に気づいた。
だからほんの少しだけ泣いてしまった、フードで僕の顔は隠れていたから、ソアン以外には見えていなかっただろう。そんな僕の様子をみてソアンが、ユーニーという神官にこう言いだした。
「もうリタ様に用はないですよね、私たちは帰ってもよろしいでしょうか?」
「フェーダーにお会いになりませんか、光の国に旅立ったあの子にエルフからも祝福を」
「僕は、僕は会いたくありません」
「リタ様はこうおっしゃっています、私たちはフェーダーさんに会いません」
「まぁ、困りましたね。どうしましょうか、あの子の最期の願いなのに」
「フェーダーはもう話せないでしょう、僕は元気だった頃のあの子を覚えていたいんです」
「……リタ様、そうですね。さぁ、私たちはもう帰りましょう」
「あらまぁ、ではまたお会いしましょう」
「今度はこんな形ではなく、お会いしたいものです」
それから僕はソアンに支えられながら宿屋まで戻った、すぐにベッドの横たわって今度は涙がとめどなく溢れた。ソアンも悲しそうな顔をしていて、声を出さずに泣き続ける僕の手を握ってくれていた。しばらく泣いてしまうと気持ちが落ち着いてきた、同時に子どものように泣いた恥ずかしさも湧き上がってきて、ソアンからも手を放して毛布を頭から被って僕は姿を隠してしまった。
「フェーダーさん、お母さん想いの一生懸命な子でしたね」
「………………うん、そうだったね」
「私だってリタ様を助ける為なら盗みくらいします!!」
「それは駄目だよ、ソアン!!」
「ああ、やっとお顔を見せてくださいました」
「僕は今、凄くひどい顔をしているだろう」
「いいえ、でもあんまり目をこすらないで、目が赤くなってしまいますよ」
「そんなことを言われると、まるでソアンが僕の保護者みたいだ」
それから僕たちは少ないがフェーダーのことを話しあった、彼が母親の為に盗みを働いたのはいけないことだ、でもそれほど必死に母親のことを思いやっている子どもでもあった。右手を失ってしまっていたが、まだ将来という希望が残されていた少年だった。僕たちは少ないがフェーダーの知っているところを話して、そしてエルフの流儀でフェーダーとの別れを惜しんだ。
「世界の理に帰ったあの子が、つかの間でも母親と会えますように」
「はい、世界の理で浄化される前に、お母さんに甘えられますように」
その翌日、ステラが僕たちをまた呼びにきたのだが、フェーダーの葬儀が行われるというので行った。フェーダーはお棺の中に入れられていて顔を見ずにすんだ、それからユーニーという女性の神官が短く祈りを捧げて、そしてお棺が埋められてフェーダーの人生は終わりを告げた。でも僕とソアンは忘れないと思う、フェーダーという母親想いの人間の子がいたこと、間違った道を歩んだけれどがむしゃらに頑張って生きていた子供だった。
「また動けないなんて、僕はなんて駄目なエルフだろう」
「リタ様は無理をしただけです!! 駄目なエルフなんかじゃありません!!」
フェーダーの葬儀が終わると僕の病気がまたぶり返した、そもそもフェーダーが亡くなった時に既に悪かったものが、無理をしたせいで更に悪くなったようだった。それでもソアンはこうしろと何も言わなかった、いつものようにゆっくり休んでくださいとだけ言っていた。僕にとっては休んでくれという言葉が一番良く効いた、プルエールの森では誰も僕に言ってくれなかった言葉だったからだ。
そうやって休んでしばらく経つとまた僕は回復した、ソアンの言う通り僕の病気には波のように、良い時と悪い時があるようだった。それを繰り返して良い時を増やしていく、そうやって僕の病気は治っていくんじゃないかと思っていた。今すぐに治せる薬があればいいのだが、実はプルエールの森にいた時に試してみたのだが、エルフの最高の回復薬でも僕の病気は治らなかった。
僕はその時は自分の調子が悪いのは、僕の薬作りの腕が良くないからだと思っていた。この村には僕以上の薬を作れる者はいなかったのにだ、ソアンの言う通り僕はちょっとだけど、自分を過小評価し過ぎているようだ。僕は自信を取り戻したい、自分にも何かできるのだと証明したくなった。だから朝食の後にソアンと二人で冒険者ギルドに行って、掲示板に貼りだされている依頼を真剣に読んでいった。
「なかなか良い依頼がないね、ソアン」
「そうですね、リタ様」
「あれっ、これなんか依頼じゃなくて、試験があるみたいだけど。……どうかな」
「ああ、リタ様なら絶対にできそうです!!」
「そうかな、大丈夫かな?」
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