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3-3錬金術の道具を借りる

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「本当に連続殺人犯かもしれません、綺麗な方が狙われるならお二人とも気をつけてください」
「連続殺人って、続けて人を殺す者がいるってことかい。一体、何のためにそんなことを?」
「いやや、あたしが綺麗なんてソアンちゃん。もう、可愛い事を言うてくれるやん!!」

「犯人の動機は分かりません、でも殺人を連続で行う者がいると本で読んだことがあります」
「よく分からないがソアンが言うのなら気をつける、でも僕はそんな本は読んだことが無いなぁ」
「あたしも綺麗やなんて言われたら逆らえんね、でも家に帰る時はあたしは一人や」

「できるだけ誰かと一緒に行動するか、人目のある通りを使った方が良いと思います」
「僕が綺麗という枠に入るかは疑問だけど、ソアンの言うとおりに注意しておこう」
「うーん、人目がある通りを使うと遠回りやけど、殺されるのも嫌やから気をつけるわ」

 この時、僕とミーティアは連続殺人犯なんて信じていなかった。ただ二人ともソアンの言うことは信じることができた、だから言われたとおりに一人では行動せず、人目のない通りや場所を避けようと思っていた。ミーティアも話が終わったら自分の家に帰っていったが、いつもとは違う大通りを通って帰っていった。

 ミーティアを心配そうにソアンが見送っていた、彼女とソアンは女友達だから余計に心配なのだろう。本当にこの時の僕は連続殺人犯なんて信じてはいなかった、連続して殺人を行う者なんて聞いたことがなかった。本も沢山読んでいたが連続殺人犯、そんな恐ろしい記述を読んだ覚えはなかった。だからソアンは優しいから心配のし過ぎだが、いつもどおりに良い子だとのんきに思っていたのだ。

 実際には次の週にも事件が起こっていた、僕たちは後になってから知るのだが、最初は一週間に一人ずつ殺されていた。その周期が短くなっていき、やがては毎日のように犠牲者がでることになった。僕が真剣に連続殺人犯というものを信じるようになった、それはもっとずっと後になってのことだった、人を連続して殺してまわる者の動機なんて想像もできていなかったのだ。

「ふあぁ~、ソアン。そろそろ眠るとしよう」
「はい、リタ様。部屋へ行きましょう」

「そういえば眠り薬の残りが少ないな、明日は領主の館の錬金術に使う道具を借りに行くよ」
「明日、リタ様がお元気だったら私もお供します」

「改良したクレーネ草の薬も作っておかないとね、何がいつあるかは誰にも分からないから」
「むうぅ、そのお薬には注意してくださいね。連続して使ったら駄目ですよ、飲む量も少なめにしてください」

 デビルベアの王と戦ってジーニャスがその兄によって傷を負った時、僕はクレーネ草の薬を連続して使用して彼を助けた。ただしそのせいで激しい副作用に起こった、だから今度はそんなことがないようにした。ジーニャスが紹介してくれた医師の意見も聞いて、クレーネ草の薬を更に改良したのだ。そんなことがあったジーニャスは領主の次男として、報酬に領主の館の薬草と錬金術の部屋を使い放題にしてくれた。

 今でもその約束は生きていて僕は薬が必要な時は領主の館に行くようになった、もう慣れてしまっていることだからそんなに難しい作業でもなかった。それに領主の館に行けばシャールというジーニャスの妹も喜んで出迎えてくれた、完全に心臓が良くなったシャールは今は元気に楽しそうに生きていた。僕とソアンを見れば喜んでくれるし、しばらく会いにいかないとすねられるくらいに元気になった。

 翌日の僕は朝から調子が良かった、最近はこういう日が増えている気がしていた。ぐっすりと心配をせずに良く眠ると翌日の調子が良いのだ、逆を言えば眠れない時は調子が悪くなる合図でもあった。僕はソアンを起こしてそれぞれ朝の支度をした、そしてちょっと遅れたが朝から豪華なすてーきを食べて、鉄の冒険者になったお祝いをした。

「リタ様、おめでとうございます!!」
「ありがとう、ソアン。君こそおめでとう!!」

「うはぁ、朝からステーキなんてご馳走ですね」
「偶には贅沢をしてもいいだろう、僕たちも冒険者ギルドから認められたんだ」

「今日は領主の館に行くんですね」
「うん、薬を作りにとシャールの顔を見ておこう」

 僕たちにしては豪華な朝食を終えると領主の館に出かけていった、僕とソアンはいつもどおりにでも表通りだけを歩いて領主の館まで来た。もう僕たちは領主の館では顔が覚えられていて、門番はすぐに僕たちを中に入れてくれた。偶々、シャールが外に出ていて走って僕たちを出迎えてくれた。一時は命も危なかったシャールもこんなに元気になったのだ、そう思うと僕たちは自然と笑みをこぼした。

「リタさん、ソアンさん、ようこそでしゅ」
「シャール様、お久しぶりです」
「お散歩ですか、シャール様」

「はい、そうでしゅ。ジーニャス兄さまとお医者さまから許可が出たのでしゅ」
「それでは僕たちにも庭園を案内して貰えますか」
「私もリタ様やシャール様と、庭園を散歩したいです」

 はいっと元気良く返事をしてシャールは僕たちに領主の館の庭園を案内してくれた、そうやって元気そうに歩くシャールの姿にエリクサーを譲って良かったとしみじみ思った。まだ5歳ほどなのにシャールは驚くほどいろんなことを知っていた、僕とソアンが平民でも差別もしない良い貴族でもあった。しばらく僕たちは庭園を案内してもらった、そしてシャールが疲れてたら領主の館の中に入った。そうしたらシャールの部屋にはジーニャスがいた、シャールははしゃいで疲れたのかベッドに横になって眠ってしまった。

「おう、リタとソアンではないか」
「ジーニャス、お久しぶりです。錬金術の部屋を借りにきました、あと少し薬草を貰います」
「こんにちは、ジーニャスさんもお元気そうでなによりです」

「ふはははっ、俺は元気でいなくてはな。領主の跡取りが弱くては、民が怯えて不安になる」
「そうもそうですね、最近はよく分からない事件も起きていますし」
「昨日、殺された女性を見つけたんです。最近は治安が悪いのですか?」

「その話は聞いた、治安が極端に悪くなってはいないが、最近は殺人が定期的に起こっている」
「不思議な話ですね、恨みをもって殺すのなら殺人も一度ですむはずなのに」
「やっぱり連続殺人犯でしょうか、いわゆるシリアルキラーですね」

 ジーニャスも街の治安について詳しく知っていた、さすがはこの街の領主の跡取りなだけはある、僕たちが遺体を見つけたことも既に知っていた。ただソアンの言う連続殺人犯という言葉には首を傾げていた、僕と同じで聞いたことがない言葉だったのだ。ジーニャスはその言葉を笑いもせず、ソアンに詳しい話を聞いていた。

「私もテレビのとくしゅ……こほん、本の中でしか知らないことですが、一カ月以上にわたって異常な欲望から殺人を繰り返す者がいると読みました」
「ソアンよ、それは貴重な情報だな。確かにもう一か月以上にわたって、理由の分からない異常な殺人が起きている」
「連続殺人犯、しりあるきらーですか。僕は知りませんが、そんな者がいるんですね」

「ええと本で読んだことですが、その犯人なりの理由があって欲望を満たすために殺しているとか書いてありました。中には理由もなくただ訳の分からない理由で、それで殺していた者もいたそうです」
「今回の事件もよく分からない、ただある程度の美貌を持った者が殺されている。リタとソアン、そなたたちも気をつけるのだ」
「分かりました、ジーニャス。確かにソアンはとても可愛いですからね、僕よりソアンの方が連続殺人犯に狙われそうです」

 僕がそう言うとソアンとジーニャスが顔を見合わせてため息をついていた、その理由が僕には分からなかったが、ソアンはリタ様こそ気をつけてくださいと言っていた。僕は両親から受け継いだ普通の顔でしかないが、ソアンは優しくて気が利くとても可愛らしい僕の養い子だ。いくらでもその連続殺人犯から狙われる理由があった、そう言う僕にソアンとジーニャスはまたため息をついていた。

「ソアンよ、リタに気をつけろ。こいつは自分の容姿のことがよく分かっていない、つまり狙われる危険性にも無自覚だ」
「了解です、ジーニャスさん。本当に自分のことは後回しなんだから、リタ様は!!」

 僕はその時は自分が連続殺人犯に狙われるなんて思っていなかった、むしろ可愛らしい養い子のソアンの方が心配だったくらいだ。僕の容姿はそんなに良い方だとは思わない、ただ生んでくれた両親からの特徴を受け継いでいた。僕の両親は二人とも美人だった、エルフには美形が多いがその中でも特に綺麗な両親だと僕は思っていた。

 薬を作り終わってジーニャスとシャールに挨拶をしたら領主の館をあとにした、ジーニャスは最後まで心配そうに何故か僕を見ていた、そんなジーニャスにソアンが胸を叩いて何か合図をしていた。僕にはそれがさっぱり何のことなのか分からなかった、ただソアンとジーニャスも仲良くなったなぁと思っていたくらいだった。帰り道でソアンは僕に言った、真剣な表情で強くこう言われた。

「リタ様は稀に見る美人なんですから、十分に気をつけてください!!」
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