お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

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4-1初級魔法に成功する

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「…………『永き灯ロングライト』」
「ああ、リタ様!?」

「ソアン、やった!! やったよ!!」
「おめでとうございます!! リタ様!!」

「ありがとう、ソアン!!」
「初級魔法に成功!! きっとこれから中級や上級も!!」

 ある日のことだった、僕はいつものように宿屋の部屋で魔法の練習をしていた。そうしていたら突然何もせずに、初級魔法が使えるようになっていた。クレーネ草の薬は飲んでいない、僕の実力だけで初級魔法が使えるようになっていたのだ。思わず傍にいたソアンを抱きしめて喜んだ、ソアンも僕の腕の中で目に涙を浮かべて喜んでくれた。

 僕はクアリタ・グランフォレ、通称リタと呼ばれるエルフだ。魔法が使えなくなって養い子のソアンから誘われ故郷を家出した、それが人間の街ゼーエンに来てもう2年と少しで、やっと初級魔法が使えるようになったのだ。これは喜ばずにはいられなかった、今までの僕はクレーネ草の薬なしでは、全く魔法が使えなかったからだ。

「ソアン、君にも沢山の苦労をかけたけど、本当にプルエールの森に戻れるかもしれない!!」
「はい、リタ様。いろんなことがありましたけど、この街に来たのは間違いではありませんでした!!」

「魔法を使うという感覚を少し思い出したよ、中級はまだ無理だが初級魔法は問題なさそうだ」
「やっぱり心配事がなく、いっぱい眠って、いっぱい休んだのが良かったですね!!」

「ああ、ソアンの言う通りだ」
「本当に嬉しいです、リタ様!!」

 僕たちは抱きしめ合って喜び合った、そうしてからソアンはちょっと頬を赤くして僕から離れた。そうだった、最近のソアンは僕と接触すると照れるようになったのだ。僕たちは一緒の宿屋の部屋で同じベッドで眠っていたが、それでも時々ソアンは照れて恥ずかしがるようになった。それは僕がソアンに好きだと告白したからだった、でも僕はそれを後悔はしていなかった。

 ソアンは50歳の頃から大切に育てた養い子だったが、女性として最近はソアンを僕は愛していた。だからといって僕の態度は変わらなかった、今まで通りにソアンを可愛い養い子として扱っていた。育ての親から性的な愛情をいきなり向けられたら怖いだろう、でもソアンは怖がってはいなくてただ戸惑っているようだった。

「リタ様、まだ昼も遠いです。近くの森にさっそく魔法を試しに行きましょう!!」
「それは良いね、初級魔法が使えるだけでも、随分と違うから試しておこう」

 そうして僕たちはゼーエンの街を囲む近くの森へと出かけていった、目的は薬草採取やワイルドボアなどの狩りだった。そしてとても運が良いことに、僕たちは出かけた先でワイルドボアを一頭見つけた。ソアンが先回りしてワイルドボアの進路を塞いでくれた、僕は集中してさっきまでの魔法を使う感覚を思い出した、そして自分自身に僕は魔法をかけた。

「『駿足ファストペース』それに『怪力ストレングス』」

 僕は魔法の力によって普段よりかなり速さでワイルドボアに近づいた、ワイルドボアも僕の接近に気づいたが逃げ出す暇もなかった。僕はワイルドボアを捕まえて、更に唱え終わっていた魔法を使った。

「『電撃ライトニング!!』」

 近距離からの電撃を与えて少し力を加えればワイルドボアはひっくり返った、そして僕は短剣をワイルドボアの心臓辺りを狙って突き刺した。ワイルドボアは悲鳴をあげたが逃げることもできなかった、もうその心臓には僕の短剣が深々と刺さっていたからだ。じたばたとワイルドボアはいくらか動いたが、やがてその動きは弱くなり完全に動かなくなった。

「凄いです!! リタ様!!」
「ああ、ソアン!! 初級魔法は大丈夫そうだ!!」

「リタ様の病気が少し治られて嬉しいです!!」
「僕も久しぶりに薬に頼らず、魔法が使えて嬉しいよ!!」

「さぁ、このワイルドボア。解体してしまいましょう、そしてお祝いのステーキにするんです!!」
「良い考えだ、ソアン。解体して一番美味しいところだけ、僕たち用に売らずに持って帰ろう!!」

 こうして一頭のワイルドボアは解体されて肉と魔石、それに冒険者ギルドに渡して換金する牙だけになった。肉は肉屋に売り払って、魔石と牙は冒険者ギルドでお金に変えた。最近はずっとこんな生活をしていた、規則正しく朝から訓練して、昼はこうやって働き、夜はミーティアに音楽指導をしてぐっすりと眠っていた。

 時々、僕の心の病気の症状が出ることもあった。朝から体が鉛のように重く動けなくなるのだ、でもそれは休みが必要な時なのだと思えるようになっていた。だからそんな症状が出た時には大人しくベッドで横になって、魔法の練習をしたり新しい魔法を考えていたりした。ソアンがいる時にはいい話し相手になってくれた、相変わらずソアンは僕の心の病気に対して早く治るようにとか言わなかった。

 ただ傍にいてくれて見守ってくれている、ソアンはそんな優しい僕の大切な養い子だった。今は大切な女性でもあったが、それはソアンが僕を受け入れてくれるまで言わないようにしていた。僕たちの関係は保護者と養い子から変わることはなく、でも少しずつ何か変化が起きているようでもあった。そんな日々に起きた嬉しい出来事だった、僕は初級だが魔法が使えるようになったのだ。

「ソアン、今夜のステーキが楽しみだね」
「はい、リタ様。とっても美味しそうなお肉です、宿屋の方が上手く料理してくれるでしょう」

「僕は病気が少しでも治っている、それが分かって本当に嬉しい」
「私もとても嬉しいです、リタ様と同じですね」

「ありがとう、ソアン」
「どういたしまして、リタ様」

 そうしてその夜は僕たちは宿屋に肉を持ち込んで料理を頼んだ、とても大きなステーキがやがて運ばれてきた。僕たちは酒は飲まないので水で乾杯して、それぞれステーキを食べて楽しんだ。肉汁が溢れてとても美味しいステーキだった、牛には敵わないがワイルドボアもなかなか良い肉だった。僕たちがそうやって食事を楽しんで終えると、いつものように宿屋の酒場で歌っていたミーティアが唐突に歌を止めた。

 どうして歌うのを止めたのだろうと僕たちや常連客が不思議に思っていると、ミーティアはすっくと立ちあがってよく通る声でこう言いだしたのだった。

「皆、聞いてや!! あ、あたしな。け、けけ、結婚すんねん!!」
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