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4-21心の傷には癒しがいる

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「リタ様、もうジーニャスさんが!?」
「あはははっ、馬鹿ね。もう貴方たちも向こうの世界には帰れない」

 大樹の下ではマーニャが大笑いしていた、フェイクドラゴンに二つの腕輪を拾ってこさせて、右手と左手にはめなおしていた。そうしてからにっこりと僕たちに笑いかけた、まるで優しい母親のように穏やかな笑顔だった。欲しい物を手に入れて満足をした子どものように、無邪気な笑顔にみえるところが逆に恐ろしかった。だから、両手が塞がっている僕はソアンに頼んだ。領主に頼んでいたことが役に立った、マーニャを一瞬だけでも騙せたからだ。

「ソアン、本物の腕輪を起動させてくれ」
「はい、リタ様」
「な、何よ!? これは偽物!! 畜生、くそエルフを殺しなさい!!」

 マーニャが一斉にフェイクドラゴンたちをけしかけたが遅かった、僕たちは左腕の腕輪を起動させて帰還する円状の輪を開いた。そこからジーニャス家へと僕たちは戻った、マーニャは追ってこなかったが、何十匹かのフェイクドラゴンがついてきた。元の世界に戻ると屋敷からはすぐにジェンドが出てきた、そして魔法をフェイクドラゴンに向けて使った。

「『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの火炎フレイム』」

 魔法で始末できなかった分はジェンドが自分の剣で斬り殺していった、エリーさんは屋敷に被害がでないように『完全なるパーフェクト聖なる守りホーリーグラウンド』で皆を守っていた。

「『完全なるパーフェクト癒しヒーリングの光シャイン』」

 僕は急いで地面に降りてジーニャスに回復の上級魔法を使った、右手を再生させてでもそれだけではまだ足りなかった。ジーニャスは大量の失血で死にかけていた、ジェンドがやってきて自分の腕を剣で浅く切った。そうして出た血をジーニャスに飲ませていた、ドラゴンの血は薬になることもあるのだ。ジーニャスの頬に赤みが戻ってきた、そしてやがて目を覚ましてこう言った。

「……俺はまだ負けてない、だからお前の物にもならない」
「ジーニャス、ここは貴方の屋敷です」
「戻ってきたんですよ、ジーニャスさん」

「うぅ、そうか。またあの女が来たのかと思った、――――あいつはどうなった!?」
「分かりません、貴方を助け出して逃げ出すだけ、それで精一杯でした」
「もう腕輪もないんですし、あの世界から出られないのでは?」

「ソアンよ、それは分からん。三つ目の腕輪の力がよく分からんのだ、リタ二つの腕輪を持っているな」
「ええ、右手と左手の腕輪を持っています」
「これはどうしたら、非常に貴重な品なんでしょうけど……」

 ドラゴンの血のおかげでジーニャスは起き上がれるまでに回復した、まず彼はジェンドに深く礼を言って、それからジーニャスは二つの腕輪についてこう言った。

「破壊するのが一番安全だ、それでもうあの女はこっちの世界に戻ってこれない」
「ジーニャス、遺跡の品は破壊するのも危険ですよ」
「あの遺跡の品を壊したら国一つ滅んだ、なんて怖い話を読んだ記憶があるんですけど」

「壊せないのなら厳重に封印して、二つに分けておくべきだ。人の手に渡らない場所に、火山か海の底に捨ててしまえ」
「それもすぐには難しい、とりあえずは二つに分けて僕と貴方で持ちましょう。ジーニャス」
「何かあった時にその方が対処できそうですね、リタ様」

「くそっ、忌々しいあの女。俺は大魔法使いだ、二度と負けたりしない」
「はい、分かりましたから、今は休んでください」
「ジーニャスさんに必要なのは、たっぷりのお休みと癒しです」

 こうしてゼーエンの街にとりあえずは平和が戻った、ジーニャスは戻ってきてマーニャは別世界に閉じ込められたはずだった。しばらくは何も起こらなかった、でもジーニャスの傷は深かった。体の傷は魔法で治った、でも心に受けた傷の方が深かった。大魔法使いが負けた、それもか弱い女性にだ。ジーニャスは口には出さなかったが、しばらくはシャールとジェンドが遊んでいるところによくいた。

「ジーニャスも遊ぶか、面白いぞ」
「そうでしゅ、ジーニャス兄さまも遊ぶのでしゅ」
「そうだな、よーし。俺も一緒に遊ぶか、何をする?」

 昼間はそうしてシャールやジェンドと遊んでいることが多かった、だが夜は眠れないことが多いと言っていて、僕はジーニャス用に弱い眠り薬を作って渡した。ジーニャスはそれでようやく眠っていた、そうしないと夜中に飛び起きてしまうのだった。僕たちもまだ領主の館の客室にいた、二つの腕輪の処分が決まるまではここを離れられなかった。

「とても貴重な品だがやはり処分しよう」

 やがて領主であるジーニャスの父親がそう決定した、有効に活用すれば沢山の人を救える腕輪だったが、悪用されてとんでもないことになったからだ。腕輪は分けられてまず鉄の箱に入れられた、鉄の箱の隙間には鉛が流しこまれた。そうして鉄の置物になった二つは信用できる商隊に分けて持ち出される、そうして国外の海の中の深いところへ捨てることになった。

「一つはここに残してはどうでしょう、もしくは僕が責任をもって預かります」

 僕は遺跡の品が一筋縄ではいかないものだと知っていた、だからそうジーニャスの父親に申し出て、置物になった一つを預かることになった。右手の腕輪だったの方を預かった、かの地へ行くための腕輪の方だった。ジーニャスもその処分の決定にどこかホッとしていた、ようやく夜も薬なしでなんとか眠れるようになってきたところだった。

「大変です、ご領主さま!!」

 ところがだその腕輪だった置物を預けた商隊から連絡がきた、置物から腕輪が出てきてしまったという連絡だった。腕輪を入れていた置物は壊れてしまった、となれば考えらえる可能性は一つしかなかった。マーニャがなんらかの手段で左手の腕輪を取り戻そうとしたのだ、三つ目の腕輪はおそらく残りの二つを管理する為の腕輪だった。僕のところにあった腕輪だった置物も、その置物自体が割れて中身が出てきていた。

「処分するなら三つ同時じゃないといけないんだ、僕もまだまだ遺跡の品を甘くみていた」
「リタ様、その腕輪を持っているとリタ様が危険です」

「でもジーニャスも恐怖に耐えて戻ってきた一つを持っている、エリーさんたちには迷惑をかけられない」
「それで結局、リタ様も危険なことをなさるのですね」

「誰か上級魔法を使える者が持っていなくてはならない、ソアンにも危険があるから僕から離れていてもいいから」
「あっ、いえっ、それは覚悟の上です。ただいつもリタ様が、頑張り過ぎなので心配なのです!!」

 僕は右手の腕輪が戻ったことで再び領主の館に滞在することになった、ジーニャスが戻ってきたもう一つの左手の腕輪を持っていることになった、そしてマーニャがいつこれを取り戻しにくるか分からなかった。マーニャは自分がこっちにこない代わりに、フェイクドラゴンをまた送りこんできた。この前、あっちの世界に行った時には何百匹もいたフェイクドラゴンだ。

 フェイクドラゴン全部を退治するのは難しかった、でもこっちの世界にはどうやら少しずつしか来れないようなのが救いではあった。その数匹のフェイクドラゴンはジェンドとエリーさんが美味しく食べてしまった、人間に見つかったフェイクドラゴンは退治されていった。また街に商隊が来れるようになり、安全が戻ってきたが油断はできなかった。

「三つ目の腕輪の役割は二つの腕輪を管理するだけなんだろうか、あっちとこっちをある程度は繋げるだけなのだろうか」
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