鏡に映った俺と彼

アキナヌカ

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鏡に映った俺と彼(中編)

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「孝之も僕の精液を飲んでみない?」
「飲まない!!」

 俺は即答で正人の提案を否定した、正人はとりあえず諦めてくれた。それからお風呂に入って寝ることになったけど、もちろん正人がついてきた。お風呂の中ではしつこく手で体を洗われたし、髪も正人に綺麗に乾かしてもらって、そして一緒に寝ることになった。俺は正人の方を見ないようにベッドの左側で左向きに寝た、何故なら正人が俺と一緒に寝るとオナニーをするからだ。

「はぁ、孝之の良い匂いがする。石鹸とは違う良い匂いだ、あっ、ああっ!! いきそう!!」

 正人はオナニーをしていることを隠そうともしなかった、かと言ってここで俺が部屋を出ると逃げる気かと言って怒るのだ。俺は座敷牢にはいきたくなかった、なるべく早く眠って正人のことを気にしないようにした。しばらくすると正人はオナニーが終わったのか、俺に抱き着いてきて俺のうなじの辺りをくんくんと匂いを嗅いでいた。俺は万が一うなじを噛まれるんじゃないかって、心配で眠れなくなりそうだったから、左側を向くのを止めて正面を向いて寝た。正人がまだうなじに執着していたが気にしないで寝た、神里家に泊まった時にはこんなことを気にしていたら眠れないのだ。

「おはよう、孝之。良い朝だ、キスして」
「俺のキスってそんなに軽々しくするものじゃないんだ」

「婚約者におはようのキスもしてくれないのか!?」
「そもそも婚約者には、おはようのキスをする義務はない」

「そんな!? 孝之、キスしてくれ!! あっ、そうだ。孝之の精液を飲もう!!」
「いや俺はもう女の愛人はいらないから、そんなことはしなくていい」

「女の愛人は要らないのか!? それはとても嬉しい!! でも孝之の精液もっと飲みたかった」
「だから精液を飲む必要もないからな!!」

 正人が女の愛人は要らないと言ったら喜んでいた、でも俺の精液が飲めなくなるのは残念がっていた。そうして朝ご飯を二人でまた分け合って食べて、俺は今日は休日だったから家に帰ることにした。

「たっ、孝之。孝之さえ良ければどこかにデートに行かないか?」
「いや、俺は家に帰りたい」

 もう一刻も早く俺は帰りたかった、帰りの車の中でも帰ることしか考えてなかった。そしてようやく俺の家に帰りついて、自分の部屋のベッドに倒れ込んだらもう動けなかった。

「俺は一体どうしたら正人の婚約者を辞められるんだ」

 そもそもだ俺が正人の婚約者になったのはごく当たり前のことから始まった、俺と正人が小学生の頃、公園の入り口付近で正人がぼっーと立っていたら、車が走ってきて正人はひかれかけた。それを偶々見ていた俺が正人を庇って助けた、たったそれだけのことで俺は正人の婚約者にされたのだ。

「そんな大したことをしたわけじゃない、えっと正人だっけ? ちょっと君の体を庇っただけだ」
「僕の命の恩人だ、ぜひ僕の婚約者になってくれ!!」

 最初は俺も両親も冗談を言っているのかと思った、でも正人の両親がやってきて婚約の証にと、色々な高価な贈り物を持って来たのだ。それであちらが本気なのが分かって、贈り物は突っ返した。それで済むはずだったが今度は正人が毎日やってきて、俺の家の玄関の前で泣きながら婚約してくれと騒ぎ立てた。当然、近所の皆さまにはご迷惑になった。

「おい正人、口約束で良かったら婚約者にしてやる」
「ああ、孝之。口約束でも良い、今この瞬間から僕は孝之の婚約者だ」

 そうして俺は正人の婚約者になったが、なにせ俺と正人も小学生だったから、こんな口約束の婚約はすぐに無くなると思っていた。それが続いてなんと十二年も経っていた、俺は欠陥品のΩで良かったと思っていた。そうじゃなかったら俺はもう正人に美味しくいただかれていた、欠陥品でも良いことがあるんだと自分の欠陥を俺は喜んでいた。

「失礼致します、まぁ庶民の家は狭いこと。さぁ、早く孝之という方を早くお出しなさい」

 ハッと気がつくと俺は昨日睡眠不足だった分、自分のベッドで眠っていた。それから母さんが俺を呼んでいたから、俺は何の警戒もせずにリビングに出て行った。そうしたら日本人形みたいな着物をきた長い黒髪のとても可愛い女の子が、我が家のリビングのソファに座っていた。そして俺を見ると少し顔をしかめた、そして俺にこんなことを言いだした。

「私は神里正人様の元婚約者で増元琴美ますもとことみと申します、聞けば貴方は今までヒートも来ないΩだと聞きます。どうか正人様のことは諦めてください、私がまた正人様の婚約者になるのです」
「救世主だ!! 君は俺の救世主だ!! いや女神!? 天使!?」

「なっ、何を言っているのです!? 私は貴方に正人様の婚約者を辞めろと言っているのですよ」
「それが俺にとっては大歓迎だ!! ありがとう、本当にありがとう!! 頑張って正人を説得してくれ!!」

 俺は思わずその女の子、琴美さんを抱きしめそうになるほど喜んだ。正人に元婚約者がいたなんてことも俺は知らなかった、でもいるからには是非また正人の婚約者になって欲しかった。それから俺たちは本音で話し合った、いろんなことを情報交換した。

「私、正人様のことは好ましく思っていましたから、婚約破棄をされた時にはもう悲しくて」
「うんうん、正人のどんなところが好きなんだ? あっ、俺は正人から婚約破棄されても、ちっとも悲しくないから気にしないで」

「頑固で何かを欲しいと思ったら、必ず手に入れるところですわ」
「ああ、正人はそういうところがあるよな。いや本当に俺は嬉しいな、正人を好きな女の子がいたなんて」

「それでですわね、私はもうすぐヒートが起こりますの。その時に正人様とお話して、身も心もがっちり頂いてしまおうかと思ってますの」
「それじゃ、俺が正人を呼び出すよ。場所はどこがいいかな?」

 うちの高校は警備が厳しくて部外者は中に入れなかった、だから学校の外のホテルに正人を呼び出すことにした。琴美さんはとても嬉しそうに笑って、俺に向かって微笑みながらこう言った。

「貴方、とても良い方ですのね。私の恋に協力してくださるなんて」
「いやいや、俺にとっても有り難いんだ。本当に君は女神だ、いや天使かもしれない」

 そうして正人に何か気づかれるとまずいから、琴美さんはこの一回だけで俺の家には来なくなった。携帯で連絡をして当日の計画をねった、正人を呼び出すホテルには前日に俺が泊まることになった。

『どうして俺がホテルに泊まるの?』
『部屋中から孝之様の匂いがした方が、正人様はきっと油断なさいますわ』

 そう琴美さんから言われたので俺は前日にその高級そうなホテルに泊まった、高級ホテルだけど俺が選ぶようなダブルベッドの庶民的な部屋だった。明日、ここで正人と琴美さんがセックスするのかと思うと、何だか俺も落ち着かなかった。でもとりあえずホテルの部屋のあちこちに触って、俺の匂いをつけておいた。三日間洗濯してないパジャマまで持ってきて、俺はその部屋でぐっすりと眠った。そうして翌日に琴美さんからヒートが予定通り起きかけてると電話を貰った。そして、俺は正人になるべく自然に電話をした。

『ああ、正人。重要な話があるんだ。西山ホテルってあるだろ、そこの二百五号室に来てくれないか?』
『孝之から話があるんならすぐに行く、ホテルに呼び出されるなんてドキドキする!?』

 こうして俺は琴美さんとねった計画を実行した、これで正人の婚約者も辞めれるはずで俺もドキドキした。成功したなら正人と琴美さんはヒートが終わるまで、一瞬間は傍を離れられないはずだ。それから琴美さんからも、正人からも連絡は無かった。俺はドキドキしながら計画の成功を祈った、そうして俺が学校に行ったりしている間に一週間が経った。空が泣いているようなどしゃぶりの雨の日だった、俺は玄関のドアのインターホンを押されて誰だろうと思って出た。

『孝之、会いたい。ここを開けて、すぐ開けて』
『正人か!? えっとこの間は呼び出してごめんな。あれから俺は行けなくなっちゃって』

『孝之に会いたいんだ、そして謝りたいことがある。ここを開けて、お願い僕と会って』
『このままでもいいから言って、謝りたいことって何?』

 そう俺が言った瞬間、ドガッバキィと凄く大きな音がして、俺の家の玄関のドアが破壊された。そしてずぶ濡れの正人が中に入ってきた、顔色は真っ青で今にも泣きそうだった。それから正人は土下座して俺に謝りはじめた、そして泣きながら俺の足を掴んでキスをした。

「僕は浮気してしまった、けれど孝之。僕が好きなのは孝之だけだ、だから許して婚約破棄なんてしないで」
「いや、浮気をしたなら十分に婚約破棄の理由になる。悪いが正人お前との婚約は破棄する」

「僕ははめられたんだ!! あの女の策略にはめられたんだ!! 僕は孝之が騙されたことも知ってる!!」
「いや、事実だけを言うなら正人は浮気した、だから僕との婚約は破棄になる。そういうことだろ?」

「あの女は嘘つきなんだ!! 僕が好きだと嘘をついて孝之を騙したんだろ!! 全部あの女から聞いた、孝之は騙されているんだ、だからお願い僕を捨てないで」
「そう言われても、浮気をしたのは事実なんだろ」

 俺がそう言ったら正人は立ち上がってトイレに駆け込んだ、そしてそこで何度も何度も吐いていた。正人はガタガタと振るえて真っ青な顔で、今にもその場に倒れそうだった。そして気持ち悪い、気持ち悪いと言って自分の体をかきむしっていた。服が破れて血が出ていた、俺は傷口をなおも引っ掻き続ける正人を止めた。そして、そんなに気持ち悪いなら風呂に入れと、俺は風呂を掃除してお湯を沸かした。

「いっ、一緒に入って孝之」
「はぁ!? ここは神里家じゃないんだぞ!! 狭くて入れるもんか!!」

「それじゃ孝之が入ってから、そのお湯に僕を入らせて」
「よく分からんがとりあえずバスタオルで体を拭け、分かった俺が先に風呂に入る」

 そうして俺は正人にバスタオルをかけてリビングに追いやって、とりあえず風呂に入った。そしてすぐに風呂を出て、今度は正人を服を脱がせて風呂に放り込んだ。しばらく正人は風呂の中から出てこなかった、俺はその間に壊れたドアの修理を頼んだ。いくら安い借家とはいえ、破壊されているドアの様子に俺はゾッとした。やがて正人は俺の服を借りて風呂場から出てきた、そうして俺の近くをうろうろし始めた。

「とりあえずソファに座れ、正人。まだ寒いのか、ココアでも作る」
「孝之、孝之、そんなことよりも僕を捨てないでくれ、お願いだから見捨てないでくれ」

「いや、でも正人は浮気したんだろ。俺との婚約は破棄ということで」
「嫌だ、孝之、嫌だ、嫌だ。お願いだから捨てないで、僕を見捨てないで」

 正人は泣きながら起きたことの全てを話した、俺の言うとおりに俺の匂いがするホテルの部屋で待っていたら、ノックされて俺だと思って正人はドアを開けた。そうしたらヒート状態の元婚約者の増元琴美が飛び込んできた、そうして孝之様が協力してくれましたと言って、琴美が正人に襲いかかった。ヒートの状態のΩには逆らえないものがある、そしてヒートが続く間の一週間琴美は正人の傍から離れなかった。ヒートだからセックスして気持ち良いはずなのに、同時に物凄く気持ち悪くて正人は吐いた。琴美とのセックスも一週間も一緒にいたのに、抱いたのは最初の一回だけだと言った。

「孝之、捨てないで。何でもするから僕を捨てないで、もし子どもができててもあんな汚物とは結婚しないから!! だから僕を捨てないで!! 孝之、お願い、お願いだよ」
「いや、そう言われても子どもができてたら責任とらなきゃ、駄目だろ」

「絶対に子どもなんてできていない!! 抱いた時も途中で萎えて碌に射精もできなかった!!」
「とりあえず正人、その体を引っ掻くのを止めろ。引っ掻いた傷から血が出ているぞ、すぐに消毒する」

「孝之が消毒して、俺の体の傷があるところ全部、孝之がキスして消毒して!!」
「え!? そ、それはな」

 正人はぼろぼろと泣いていた、いじめられた子どものように泣いていた。実際に琴美さんの行為は正人にとっては拷問に近かったようだ。俺も琴美さんに協力していたので、こんな状態になった正人に申し訳ないと思った。可愛い女の元婚約者と正人が上手くいくかと思ったら、俺のそんな甘い考えと違って上手くいかなかった。俺は外から丸見えのリビングでは恥ずかしいので、正人を俺の部屋に連れていってそれから傷口にキスしてやった。

「孝之、ここも!! それとも僕は汚いから駄目?」
「いや正人は汚くはないが、これは傷が酷いな」
 
 正人は男性器も酷く搔きむしっていた、血がでているところもあった。俺も男性器にキスするのは抵抗があったが、正人を騙したお詫びだと思ってキスをした。それから神里家へ行くぞと言った、正人を医者に診て貰う必要があったからだ。そうして俺は買い物から帰ってきた母さんに家の惨状の説明をして、正人の家まで正人と一緒に行ってくると言った。そうして俺と正人は車で神里家へ行って、正人は医者に傷を診て貰った。幸いなことに少し傷を負っているが、男性器の機能には問題なかった。

「正人、そんなに琴美さんとの結婚は嫌なのか?」
「凄く嫌だ、もう同じ空間に居るのも嫌だ、あいつと結婚するくらいなら去勢する!!」

「きっ、去勢!? でっ、でももう既成事実ができてるからな」
「僕はあいつに強姦されたんだ!! うぅ、ひっく、うううぅぅぅ、ひっく」

「泣くなよ、正人」
「孝之も酷い、あの女に協力した!! 僕を裏切ってあの女に協力した!!」

「ああ、だからこんな酷い婚約者は、さっさと婚約破棄してくれ」
「絶対に嫌だ、僕は絶対に孝之と結婚する!! それができないのなら死ぬ!!」

 正人は神里家の自分の部屋に俺を連れ込んで、俺をベッドの中で必死に抱きしめていた、俺が少しでも動くと正人はビクッと体を震わせた。

「俺を捨てるな、孝之。凄く良い匂いだ、孝之。くらくらするくらい良い匂い」
「そうは言われても俺は婚約を破棄したくて…………うっ!?」

 唐突に俺は体が凄く熱くなった、そうしてセックスしたくて堪らなくなった。俺は初めてだったがこれがヒートだと思って、正人を突き飛ばして持ってきた荷物から抑制剤を飲んだ。

「俺は帰る!! 体の具合が悪い!!」

 そう言って正人の家の運転手を電話で呼ぼうとした、すると正人がすばやくその電話を切った。そうして正人が瞳を輝かせながらうっとりとした顔で、とろけてしまいそうな声で俺に言った。

「ああ、これが孝之のヒートの匂いか!? なんて甘くていやらしい良い匂いなんだ」
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