無限の精霊コンダクター

アキナヌカ

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002復讐

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 俺は闇の中から実家であるウィスタム家を見ていた、そしてこっそりとまず自分の部屋に入っていった。そうして元々出て行くために用意していたお金や、ショートソードにナイフなどの荷物を持ち出した。これは元々が俺の持ち物だった、だから犯罪でもないセーフだ。でも次からすることは犯罪になるだろうなと思った、俺は俺を殺そうとした家族に復讐したかった。何故なら精霊達の助けが何もなかったら、今頃の俺は二度目の人生が終わっていた。

「悪いことをしたら、罰があるのは当然だよね」

 俺は自分の復讐をそう言い訳して正当なものにしようとしていた、自分は正義の側にいたかっただけの陳腐な言い訳だった。そうしている間にも三日が過ぎた、俺がいなくなったことで屋敷は俺付きのメイドなどが戸惑っていたが、それ以外は何事もなく過ぎていった。俺のことも勝手に家から逃げ出した四男だと長男のレッジェが皆に言っていた、次男のリヒターがすぐに死ぬでしょうと笑っていた、三男のタックスは次男と一緒になって笑っていた。使用人にも俺は特別に親しい人がいなかった、俺にとって特別だったのは亡くなった母さんだけだった。

「ごめんよ、母さん。これが正しいことなのか分からないけど、こうしないと俺が前に進めないから…………、俺はやるよ」

 俺は屋敷の外にある母さんの墓前に森などで採った綺麗な花束を置いた、もう二度とここに戻ってくるつもりがなかったから最後の母との別れだった。母さんは優しい人だった、俺が四男でも分け隔てなく面倒をみてくれた、可愛がってくれた、そして愛してくれた。優しい人だったが体が弱かったので、ある日風邪が悪化して肺炎になって死んだ。

「さようなら、母さん。俺のたった一人の家族」

 俺は墓前で母さんの安らかな眠りが続くことを祈ると、闇の精霊を使って屋敷内の影から影に移動した。闇の精霊は一度行ったことがあるところならば、闇から闇を渡ってこうやって移動できるのだと初めて知った。元々だが闇の精霊との契約者は少なかった、どうしても闇というのが悪いイメージに繋がるからだろう、でも俺にとってはとても頼りになる良い精霊だった。

「父さんの部屋をまた見に行こう」

 俺は何度も父の部屋を見に行っていた、そこに三人の兄が出入りすることもあった。でもそう都合よく俺のことが話題になったりしなかったし、だから本当に父が俺の殺害を三人の兄に頼んだのか分からなかった。それで俺は賭けに出てみた、自分の今まで身に着けていた金属でできている身分証を、父と兄達が揃っている時に空中から落としてみたのだ。ちゃりんと音を立てたそれを拾いあげたのは次男リヒターだった、そうしてやっと俺のことが皆の話題になった。

「リードの身分証が出てきました、兄上が取り上げておいたのですか?」
「いや、俺は知らない。それはあの山の穴の中にあるはずだ」
「まさかリードが生きてるってことは無いよなぁ」

「それは無いでしょう、でもここに何故リードの身分証があるのでしょう」
「俺じゃなくお前らが取り上げておいたんじゃないか!?」
「いや、俺は知らない。身分証のことまでは頭が回らなかった」

「まさか、リードが生きている? あははっ、まさかそんな」
「あり得なくはないぞ、俺たちは遺体を確認していない」
「くそっ、しぶてぇ奴だな。大人しく死んでればいいのによ!!」

 そうやって三人の兄が騒ぎ立てると父親が手でそれを制した、三人はすぐに従って黙り込んだので父親がこう話し出した。

「もし、リードが生きていたらウィスタム家の恥である。すぐに遺体の確認をするように、お前たち三人に命ずる。リードが生きていたら必ず殺せ、事故死に見せかけて始末するのだ」

 俺は父親へ抱いていた一片の希望が打ち砕かれたのを感じた、父も長男のレッジェが言っていたように俺の死を望んでいるようだった。殺される前に殺せ、俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。そして、俺はそれを実行した。

「土よ、頼む。この部屋を深く深く埋めてくれ、もう誰もここから出られないようにしてくれ」

 俺が土の精霊に願った途端に父の部屋がある本邸は、地面が大きく割れてその中に崩れ落ちていった、父や兄の悲鳴が聞こえたがもうそれは俺の心を動かしはしなかった。

「火よ、頼む。醜い者たちも全て何も残さずに、この部屋を焼き尽くしておくれ」

 俺は瓦礫となった本邸が火に包まれていくのをぼんやりと闇の中から見ていた。その被害にあったのは本邸の書斎にいた父や三人の兄達だけだった、他の使用人たちは突然に陥没した屋敷に驚いていたが皆が無事だった、その後に燃え広がった火を一生懸命に消そうと水をかけるなどしていた。

「これで俺も犯罪者かな? いや殺される前に殺したんだから正当防衛かな?」

 俺としてはこれは正当防衛だと大声で叫びたかった、でも何となく気が引けて闇から出て空へと舞い上がるとウィスタム家から、いやこのフォーリッド国から俺は去ることにしたんだ。そうやってしばらく空を飛んでいたら夕暮れになりやがて夜になった、それでも俺は頬を撫でる風が気持ちが良くてまだ空を飛んでいた。そうしたら小さな泣き声が夜の闇に溶けているのに俺は気がついた。

「ひっく、嫌だよぅ、ひっく、あんな人は嫌い、ひっく、誰か助けて、ひっく、ひっく」

 その声に魅かれて俺は声の主を探した、とても小さな女の子が泣き声の主だった。高い塔のバルコニーでその子は白に近い綺麗な銀色の髪を風に流し、綺麗な緑色の目から涙を零して静かに助けを呼びながら泣き続けていた。俺はその子のことをとても可愛いと思った、俺より背が小さくて百五十センチほどしかなかった。俺もあまり背が高い方ではなくて、ギリギリで百七十センチくらいだった。俺はその女の子に出来るだけ優しく、決して驚かさないように声をかけた。

「こんばんは、泣き虫さん。君はどうして泣いているの?」
「貴方、だぁれ? 私はフィール・サフラワー・ザイデルバストよ」

「俺? 俺はもう貴族の名は捨てたからリード、ただのリードだ」
「リード、私のお願いを聞いてくれる?」

「いいよ、どんなお願い?」
「私が自由に生きれる場所に連れていって」

 俺はどうせこのフォーリッド国からおさらばするつもりだった、ザイデルバスト家はこの国の中ではデカい公爵家だが知ったことじゃなかった。だから俺はどうしても持って行きたい物を持っておいでとフィールに言った、その間にフィールの置かれた状況も説明して貰った。十五歳になったフィールは望まない結婚を押しつけられていた、妾から産まれた四女だから年が三十も離れた伯爵に嫁げという父親からの命令だった。フィールはその伯爵がとても怖い人だと知っていた、会う時にはいつも血の匂いがしていて、フィールは体の震えが止まらなかったそうだ。

「それじゃ、フィール。準備はいいかい」
「うん、お母さまに貰った物。全部、鞄の中に入れた」

「分かった、フィール。それじゃ、俺と一緒に行こう」
「リードはどこに行くの?」

「ここから二つか、三つ離れた国かな」
「うわぁ、遠いね。今夜中に着くかなぁ」

 別に今夜中に着く必要はないが、誘拐をするのだからできるだけ遠ざかっておく必要があった。おかしいな、どうしてこうなった。俺は誘拐などするつもりはなかったのに、俺の腕の中には命綱でくくられしっかりと俺にしがみついているフィールがいた。俺は誘拐という犯罪者になったことを後悔しないと思った、それはフィールがとても小さくて可愛くて、俺はとても彼女が欲しくなった。

「フィール、俺と結婚しない?」
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