天才怪盗の社会奉仕(エリート怪盗だった俺が問題だらけの学園で事件を解決します)

ハルサメ

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プロローグ~ミネルヴァの梟、捕まる

第2話

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パトカーの喧騒から離れ、教会の裏口へと足を運ぶ。マスコミ対策として美術館にパトカーを集中させ、その裏で密かにグラウクスを搬送する計画だ。

 志織が裏口に到着した時、ちょうど両腕を左右から二人の警官に絡められ、手錠をつけられた人物が教会から姿を現す。闇夜でコートを頭から被っているため容姿は確認できないが、それなりに高い身長やがっちりとした体格から、男なのは間違いないだろう。

 もっとも、写真にも写ったことが無いため、顔を見てもどうせ分からないのだが。

「容疑者を確保しました」

「ご苦労様」

 報告をする部下を労いつつも、志織の意識は捉えられている人物に集中していた。

「……ん?」

 すると容疑者が反応を示した。そしてまるで、今までずっと寝ていたかのように体を伸ばす仕草をする。

「貴様! 許可なく動くな!」

「そうは言っても、流石に野郎二人に腕組みされる趣味はないんだよ。どっちかって言うと、そちらの美人さんに腕組んでもらいたいんだが?」

 緊張感を感じられない、小馬鹿にした声音。逮捕されたということに何も感じていないのか、それともただ開き直っているのか、嫌に堂々としている態度だった。
そんな男の声音に、志織は一瞬隠すことを忘れて驚いてしまった。志織が先代からグラウクス捜査の担当を譲り受けたのが二年程前だ。しかし目の前の人物の声音は、まだ成人していない青年のような若々しさを持っていた。

 だが何よりも志織が驚いたのはそこではなかった。グラウクスとはこうして顔を合わせることが初めてなら、声を聞くのも当然初めてである。それにもかかわらず、何故かこの声音を、志織は初めて聞いた気がしなかったのだ。

 いつどこでなどは分からない。だが声を聞いた瞬間、志織は確かに懐かしさを感じた。

「おいおい、そんな難しい顔で睨まないでくれよ」

『おいおいお前、いつもそんな難しい顔して疲れないのか?』

 不意に男の言葉に重なった幻聴を、無意識に頭を振って弾き飛ばそうとする。

「何を慌ててるんだ? 表情に出てるぞ?」

『お前は突発的なことに慌てすぎだ。直ぐに表情に出るから気をつけろよ?』

 だが再び男の声で、新たな幻聴がより鮮明に想起される。

 何故、どうして。そう自身に問いかける。

 何故今この場で、あの人の事を思い出すのか。

『どんなに信じられなくても、否定できなければ真実になりえる。お前は直感を頼りにしろ。例え信じられなくとも、お前の直感は恐ろしくも残酷で、より真実を見通している』

 かつて志織の個性を見いだし、自信を与えてくれた何よりも大切な言葉。針のように鋭かった志織の表情に、ヒビが入った。

――つまり、これはそういうことなの?

 その時突風が吹き、男の上半身を隠していたコートが飛ばされ、その容姿が露となる。

 長いとも短いとも言えない無頓着に伸びた髪。男らしいというよりはまだ少年のような幼さを持った中性的で端整な顔立ち。声質から予期した通り、まだ十代後半としか思えない好青年然とした男は、この状況を楽しんでいるかのように無邪気な笑みを浮かべていた。

 その不敵な笑み、そして先の言葉が手がかりとなり、志織は信じられない、しかし自身の直感が訴える現実へと目を向けることができた。

「流斗……なのね?」

「……なんだと?」

 男が浮かべていた笑みに確かな動揺が走る。

 それだけで、志織には十分だった。十分すぎた。

 この世に神がいるのなら、なんとも残酷なシナリオを書くものだ。

 皮肉なことに志織の信念の中枢にあった言葉は、志織と生まれたばかりの娘を捨て、姿を消した夫の手がかりになると同時に、その夫が連れ去っていった生き別れの息子との再会を演出する、最高のスパイスになった。
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