3 / 115
ミネルヴァの梟、探る
第3話
しおりを挟む
無言の圧力、とはよく言ったものだ。
怒鳴り散らされれば人間は萎縮するか、反発するかのどちらかの行動をとる。だが無言と言うのはそうもいかない。何せ相手は黙ってじっとこちらを見ているだけなのだ。
怒っていると分かっている状況で、しかし相手が何も言ってこない重圧は、怒鳴り散らされるよりも堪える物がある。そんな時に取れる行動といえば、戸惑って萎縮し、黙って己の至らないところの反省を行うくらいだろう。
だが何事にも例外がいるわけで、数少ないであろうが開き直って知らぬぞんぜぬを決め込み、何がなんだか分からない体を装う派の人間もいる。
状況を飲み込めずに気にせず騒ぎ続けるアホは、無視できるものとする。
「あんたねぇ……呼び出された分際でニヤニヤしてんじゃないわよ」
そんな例外を選択した俺に、低い怒気のこもった声音が投げかけられる。
俺を放課後の職員室へと呼び出した張本人、私立栄凌学園英語教師の神北朱乃教諭が不満たっぷりの声音で言う。黒の短い髪につり目気味の瞳。整っている容姿はしかし可愛いという女性的なものではなく、野生的な荒々しい美しさを感じさせる。
それが今は右頬をピクピク震わせながら、巷のヤンキー共が裸足で逃げ出すほどの眼力で俺を睨みつける。流石は正真正銘の元ヤン、迫力が違う。
「ニヤニヤなんてしていない。生まれつきこんな顔だ。言うなればそういう家系なんだ」
「ンなこと言ったら、私にだってそのニヤニヤの遺伝子があるってことか?」
ドスを効かせた表情で、我が叔母はメンチを切り始める。そんな表情するから嫁の貰い手がないんだよ、とは言わない方が無難だろう。煽りにも限度と言うものがある。
それにしても、甥とはいえ生徒に対してこんな態度をとっていて、よく教師が務まるものだ。採用試験の面接で、一体何を基準にしているのか問い詰めたいくらいだ。
「あんたのそのふざけた態度は義兄さんにそっくりだよ」
「あぁ……そりゃ嬉しくないなぁ」
親父にそっくりだなんて、今後の生活態度、いや人生を省みるレベルで悪寒が走る。
「まぁあんたがそんな奴だって事は、この半年でよく理解したさ」
「理解してもらえたようでなによりです、はい」
謙虚に受け答えしたはずなのに、また睨まれてしまった。
「それで、だ」
乱雑に髪を掻き毟りながら、こいつめんどくせーという類の深い息を吐かれる。とてもタバコが似合うシチュエーションだが、タバコはやらない信条とのことだ。
「ここ二ヶ月過ごしてみて、学生生活には慣れたか?」
高校生活、ではなく学生生活、に何か思うところがあるのは、おそらく俺が過敏に反応しすぎなのだろう。
「まぁボチボチやっているよ。友達は一人もいないがな。ハッハッハ」
「それが悪いこととは言わないが、胸を張って言うことじゃないぞボッチ」
「だったらもっと繊細に扱ってくれ。こう見えて俺、ナイーブなんだ」
「この期に及んでナイーブを主張するとか舐めてんのか? てかここは学校なんだから、敬語を使え敬語を」
生徒相手に「舐めてんのか?」と言う教師には言われたくはない言葉である。
「ったくお前と話してると、どうしてこうもイライラするんだ」
「親父の血を引いてるからなんだろ?」
朱乃が机に叩き付けた拳の音と衝撃で、周囲にいた他の先生方がビクッと震え上がる。
「なんであんたは姉さんに全然似てないんだ!」
「そりゃ血以外で接点がまったく無かったからじゃないか? 性格は生まれた後の経験によるところが大きいから、いくら俺でも知らない人間に似ることはないだろう」
「本当に義兄さんを相手にしているみたいだよ。って、だから話が脱線してるんだよ!」
頭を抱えたかと思えば急に怒鳴り散らす。朱乃は本当にあの母親と血を分けた姉妹なのかと疑いたくなってくるほどそそっかしい。
「あんたもう余計な事は言わないこと、良いね!」
脱線させる原因を作ったのはそっちなのだが、とりあえず首肯しておく。野暮な事を言わないのは世渡りのコツだ。
怒鳴り散らされれば人間は萎縮するか、反発するかのどちらかの行動をとる。だが無言と言うのはそうもいかない。何せ相手は黙ってじっとこちらを見ているだけなのだ。
怒っていると分かっている状況で、しかし相手が何も言ってこない重圧は、怒鳴り散らされるよりも堪える物がある。そんな時に取れる行動といえば、戸惑って萎縮し、黙って己の至らないところの反省を行うくらいだろう。
だが何事にも例外がいるわけで、数少ないであろうが開き直って知らぬぞんぜぬを決め込み、何がなんだか分からない体を装う派の人間もいる。
状況を飲み込めずに気にせず騒ぎ続けるアホは、無視できるものとする。
「あんたねぇ……呼び出された分際でニヤニヤしてんじゃないわよ」
そんな例外を選択した俺に、低い怒気のこもった声音が投げかけられる。
俺を放課後の職員室へと呼び出した張本人、私立栄凌学園英語教師の神北朱乃教諭が不満たっぷりの声音で言う。黒の短い髪につり目気味の瞳。整っている容姿はしかし可愛いという女性的なものではなく、野生的な荒々しい美しさを感じさせる。
それが今は右頬をピクピク震わせながら、巷のヤンキー共が裸足で逃げ出すほどの眼力で俺を睨みつける。流石は正真正銘の元ヤン、迫力が違う。
「ニヤニヤなんてしていない。生まれつきこんな顔だ。言うなればそういう家系なんだ」
「ンなこと言ったら、私にだってそのニヤニヤの遺伝子があるってことか?」
ドスを効かせた表情で、我が叔母はメンチを切り始める。そんな表情するから嫁の貰い手がないんだよ、とは言わない方が無難だろう。煽りにも限度と言うものがある。
それにしても、甥とはいえ生徒に対してこんな態度をとっていて、よく教師が務まるものだ。採用試験の面接で、一体何を基準にしているのか問い詰めたいくらいだ。
「あんたのそのふざけた態度は義兄さんにそっくりだよ」
「あぁ……そりゃ嬉しくないなぁ」
親父にそっくりだなんて、今後の生活態度、いや人生を省みるレベルで悪寒が走る。
「まぁあんたがそんな奴だって事は、この半年でよく理解したさ」
「理解してもらえたようでなによりです、はい」
謙虚に受け答えしたはずなのに、また睨まれてしまった。
「それで、だ」
乱雑に髪を掻き毟りながら、こいつめんどくせーという類の深い息を吐かれる。とてもタバコが似合うシチュエーションだが、タバコはやらない信条とのことだ。
「ここ二ヶ月過ごしてみて、学生生活には慣れたか?」
高校生活、ではなく学生生活、に何か思うところがあるのは、おそらく俺が過敏に反応しすぎなのだろう。
「まぁボチボチやっているよ。友達は一人もいないがな。ハッハッハ」
「それが悪いこととは言わないが、胸を張って言うことじゃないぞボッチ」
「だったらもっと繊細に扱ってくれ。こう見えて俺、ナイーブなんだ」
「この期に及んでナイーブを主張するとか舐めてんのか? てかここは学校なんだから、敬語を使え敬語を」
生徒相手に「舐めてんのか?」と言う教師には言われたくはない言葉である。
「ったくお前と話してると、どうしてこうもイライラするんだ」
「親父の血を引いてるからなんだろ?」
朱乃が机に叩き付けた拳の音と衝撃で、周囲にいた他の先生方がビクッと震え上がる。
「なんであんたは姉さんに全然似てないんだ!」
「そりゃ血以外で接点がまったく無かったからじゃないか? 性格は生まれた後の経験によるところが大きいから、いくら俺でも知らない人間に似ることはないだろう」
「本当に義兄さんを相手にしているみたいだよ。って、だから話が脱線してるんだよ!」
頭を抱えたかと思えば急に怒鳴り散らす。朱乃は本当にあの母親と血を分けた姉妹なのかと疑いたくなってくるほどそそっかしい。
「あんたもう余計な事は言わないこと、良いね!」
脱線させる原因を作ったのはそっちなのだが、とりあえず首肯しておく。野暮な事を言わないのは世渡りのコツだ。
1
あなたにおすすめの小説
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件
fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。
チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。
しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。
気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。
笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる