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ミネルヴァの梟、探る
第7話
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「あやや、久しぶりだな」
「お久しぶりです神北先生。ですからそのあややは止めてください」
「私は可愛いと思うんだが?」
「せめて絢音でお願いします。おや、依頼人の方でしょうか?」
あやや改め絢音という少女は、その整った眉を潜めながら朱乃に浅い礼をし、後ろにいる俺に目を向けた。ただ目を向けられただけなのに、何やら心臓がつままれた感覚が襲ってきた。こりゃ完全にトラウマになっているな。
「私の甥の結崎流斗だ。今日からここに入ることになった」
「おい、俺はまだ入るとは言って無いぞ」
「と、彼は言ってますが?」
「なに、惰性的に日常を過ごしているだけの、ただのチキン野郎だ。どうせ父親と同じで頼まれたら断れない性質なんだ。存分にしごいてくれ」
「はぁ……」
少女は分かったような、分からないような生返事をする。まぁ当事者である俺すら分かっていないのだから仕方ないだろう。というかそこでも親父と対比するのを止めろ。それとチキン野郎も。こっちは訴訟も辞さないぞ。
「じゃあ今度こそ私は去らせてもらう。ではな」
ヒラヒラと手を振り、今度こそ朱乃は去って行った。おそらく部屋を出て距離を取った後、盛大に声を上げて笑っているのだろうと思うと、胸糞悪くて笑いが込み上げてくる。
ハハハ……クソ喰らえ。
「それで、これはどういうことですか? 影宮室長」
自分の席なのか、絢音という少女は事務デスクの椅子の一つに腰掛ける。
「僕らに関してはいつもと同じだよ。彼をこの一週間で、使える人材かどうか見極める。それだけだ」
「なるほど、分かりました」
室長の言葉に少女は淡々とした答えを返す。いやだから勝手に納得するなよ。
「おい、またそっちで勝手に話を進めないでくれよ。こっちはまだ説明の無いままだぞ」
「おっとそうだね。ごめんごめん」
室長は申し訳なさそうに眉を下げた。その表情にはもう苦笑いが張り付いている。
「えっと、まずは自己紹介からしようか。僕はこの学芸特殊分室の二十一代目室長をしている三年の影宮識也。そしてそっちにいるのが、ここの一員で二年の君塚絢音君だ」
紹介され、君塚先輩が浅く頭を下げる。大人びている印象があったが年上だったのか。
「一年の結崎流斗です。今更ですが敬語の方がいいでしょうか?」
「いや楽な方で構わないよ」
思ったとおりだ、この影宮と言う男子生徒はそういう意味で器が大きい。
「室長、私の方は業務に入ってもいいでしょうか? 先日の件でまだ資料の整理が終わっていないので」
「おおそうか。では僕たちは隣の部屋に移ろう。じゃ、少し経ったらよろしくね」
「了解しました」
不穏な言葉を聞いた気がしたが、それを確認するより室長が俺を隣の部屋へと追いやった。そこはテーブルを挟んでソファーが二つ対面に置かれているだけの質素な部屋だった。
「こっちは応接室として使ってる部屋だよ。他にもあんまり聞かれちゃマズイ話する時も、基本的にこっちを使ってるんだ」
聞かれちゃマズイってそんなグレーな話題をいきなり出さないで貰いたいものだ。
俺と室長はそれぞれ向かい合う形でソファーに座った。
「さて、それじゃあ君が一体どんな状況にドナドナされているのか話していこうか」
確かに今の俺は、まさに荷馬車に揺られる子牛気分だよこの野郎。
「学芸特殊分室、長いから分室って言うけど、ここが何をするところか知っている?」
「まぁ学内での噂程度だ。依頼したら大体のことを引き受けてくれるって事くらいだな」
本人たちの前で学園のパシリ、と揶揄するわけにはいかないだろう。
「概ねその認識であってるよ。ネットや目安箱から出された依頼は様々だから、一概にこういう仕事ですって言う事も出来ないんだよ。こちらも予測できる訳ではないからね」
「予測できる人間がいたらぜひ見てみたいものだ」
人間が生活している以上問題は千差万別だ。大変重大な問題もあれば、世の中には玉転がしで負けただけで警察に連絡する輩もいるし、救急車をタクシーの様に呼び出すなど、どんな馬鹿げたことですら問題としてあげてしまう者もいるのだ。
なるほど、ここで朱乃の問答の意味が分かった。この学園では、多すぎる生徒により生じる問題を、この分室が専門的に扱っているのだ。つまりこの分室こそ、栄凌学園の学生の統率を取るために作られた、力を持つ組織。
だが、そうすると新たな疑問が湧いてくる。
「何で学校側がそんな問題処理係を生徒にやらせているんだ?」
「うん、その通り。分室が作られたのにはのっぴきならない訳がある。この学園は学生の数が多い。だから多種多様な問題が発生する。はっきり言うと、その処理を学園側が放棄したんだ」
「……は?」
「いやだから学園側、つまり教師たちが多すぎる学生の問題が面倒臭くなって、それの処理を学生に丸投げしたんだよ」
またも苦笑いを浮かべる室長に、思わず失笑してしまう。
「お久しぶりです神北先生。ですからそのあややは止めてください」
「私は可愛いと思うんだが?」
「せめて絢音でお願いします。おや、依頼人の方でしょうか?」
あやや改め絢音という少女は、その整った眉を潜めながら朱乃に浅い礼をし、後ろにいる俺に目を向けた。ただ目を向けられただけなのに、何やら心臓がつままれた感覚が襲ってきた。こりゃ完全にトラウマになっているな。
「私の甥の結崎流斗だ。今日からここに入ることになった」
「おい、俺はまだ入るとは言って無いぞ」
「と、彼は言ってますが?」
「なに、惰性的に日常を過ごしているだけの、ただのチキン野郎だ。どうせ父親と同じで頼まれたら断れない性質なんだ。存分にしごいてくれ」
「はぁ……」
少女は分かったような、分からないような生返事をする。まぁ当事者である俺すら分かっていないのだから仕方ないだろう。というかそこでも親父と対比するのを止めろ。それとチキン野郎も。こっちは訴訟も辞さないぞ。
「じゃあ今度こそ私は去らせてもらう。ではな」
ヒラヒラと手を振り、今度こそ朱乃は去って行った。おそらく部屋を出て距離を取った後、盛大に声を上げて笑っているのだろうと思うと、胸糞悪くて笑いが込み上げてくる。
ハハハ……クソ喰らえ。
「それで、これはどういうことですか? 影宮室長」
自分の席なのか、絢音という少女は事務デスクの椅子の一つに腰掛ける。
「僕らに関してはいつもと同じだよ。彼をこの一週間で、使える人材かどうか見極める。それだけだ」
「なるほど、分かりました」
室長の言葉に少女は淡々とした答えを返す。いやだから勝手に納得するなよ。
「おい、またそっちで勝手に話を進めないでくれよ。こっちはまだ説明の無いままだぞ」
「おっとそうだね。ごめんごめん」
室長は申し訳なさそうに眉を下げた。その表情にはもう苦笑いが張り付いている。
「えっと、まずは自己紹介からしようか。僕はこの学芸特殊分室の二十一代目室長をしている三年の影宮識也。そしてそっちにいるのが、ここの一員で二年の君塚絢音君だ」
紹介され、君塚先輩が浅く頭を下げる。大人びている印象があったが年上だったのか。
「一年の結崎流斗です。今更ですが敬語の方がいいでしょうか?」
「いや楽な方で構わないよ」
思ったとおりだ、この影宮と言う男子生徒はそういう意味で器が大きい。
「室長、私の方は業務に入ってもいいでしょうか? 先日の件でまだ資料の整理が終わっていないので」
「おおそうか。では僕たちは隣の部屋に移ろう。じゃ、少し経ったらよろしくね」
「了解しました」
不穏な言葉を聞いた気がしたが、それを確認するより室長が俺を隣の部屋へと追いやった。そこはテーブルを挟んでソファーが二つ対面に置かれているだけの質素な部屋だった。
「こっちは応接室として使ってる部屋だよ。他にもあんまり聞かれちゃマズイ話する時も、基本的にこっちを使ってるんだ」
聞かれちゃマズイってそんなグレーな話題をいきなり出さないで貰いたいものだ。
俺と室長はそれぞれ向かい合う形でソファーに座った。
「さて、それじゃあ君が一体どんな状況にドナドナされているのか話していこうか」
確かに今の俺は、まさに荷馬車に揺られる子牛気分だよこの野郎。
「学芸特殊分室、長いから分室って言うけど、ここが何をするところか知っている?」
「まぁ学内での噂程度だ。依頼したら大体のことを引き受けてくれるって事くらいだな」
本人たちの前で学園のパシリ、と揶揄するわけにはいかないだろう。
「概ねその認識であってるよ。ネットや目安箱から出された依頼は様々だから、一概にこういう仕事ですって言う事も出来ないんだよ。こちらも予測できる訳ではないからね」
「予測できる人間がいたらぜひ見てみたいものだ」
人間が生活している以上問題は千差万別だ。大変重大な問題もあれば、世の中には玉転がしで負けただけで警察に連絡する輩もいるし、救急車をタクシーの様に呼び出すなど、どんな馬鹿げたことですら問題としてあげてしまう者もいるのだ。
なるほど、ここで朱乃の問答の意味が分かった。この学園では、多すぎる生徒により生じる問題を、この分室が専門的に扱っているのだ。つまりこの分室こそ、栄凌学園の学生の統率を取るために作られた、力を持つ組織。
だが、そうすると新たな疑問が湧いてくる。
「何で学校側がそんな問題処理係を生徒にやらせているんだ?」
「うん、その通り。分室が作られたのにはのっぴきならない訳がある。この学園は学生の数が多い。だから多種多様な問題が発生する。はっきり言うと、その処理を学園側が放棄したんだ」
「……は?」
「いやだから学園側、つまり教師たちが多すぎる学生の問題が面倒臭くなって、それの処理を学生に丸投げしたんだよ」
またも苦笑いを浮かべる室長に、思わず失笑してしまう。
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