天才怪盗の社会奉仕(エリート怪盗だった俺が問題だらけの学園で事件を解決します)

ハルサメ

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魅惑のサマーバケーション

第11話

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「彰人さん……」

 空港の喫煙スペース、そこでSAYURIの元マネージャーである彰人が一人タバコをふかしていた。以前のどこか張り詰めていた表情とは変わり、いくらか穏やかな、しかしやつれた表情をしている。

「人を呪わば穴二つ。復讐が成功したのにそれで心を痛めるとか、お人よしも過ぎるな」

 隣に立つ流斗に怪我は無い。なんでも荒事になることを予想して対策を取っていたらしく、吐き出した血も結局は血に似た液体であり、どこにも異常をきたしていないとのこと。

 この男の言葉もどこまでが本当でどこまでが嘘なのか分からない。今回の一件が全て彰人の仕組んだことである、と結論付けたことさえ、とても信じられるものではなかった。

「俺が何をしたと?」

「あんたはどこからか栄凌学園の噂を聞き入れた。そして俺という存在に行き当たった。芸能界でもギルドの力は強い。それを跳ね除けた俺に目をつけたあんたは、西城を使って俺をおびき出した」

「妄想も過ぎるな。何で俺がそんな事を企まなければならない?」

「理由なんていろいろつけられるだろ? 何より晃輝自身も言っていた。奴らの最初の被害者はなんて言ったってお前なんだからな。暴力に物を言わせてSAYURIを奪われたお前は十分晃輝に、そして自分を捨てたSAYURIに復讐する理由がある」

「彰人さんがSAYURIさんと?」

「考えてもみろ。ただ逆らっただけで付き合っている女のマネージャーをやらせるか? 俺ならもっと惨めな役職につける。それをしなかったという事は、それ以上にSAYURIのマネージャーがみじめだったということだ。晃輝の性格上、男のプライドをへし折ることを目的としていた。昔の女の世話をさせるなんてことを、平気でしたわけだ」

 流斗の言葉に対し、彰人は吸っていたタバコを灰皿に押し潰した。

「どこから聞いたのか、確かにそれは事実だ。SAYURIは俺ではなくあの男を選び、あの男はそのことで俺を煽り続けた」

「ちょっと待って。晃輝さんは、彰人さんが言ったからマネージャーをさせたって」

「それは間違ってない。彰人は食い下がることでマネージャーという立ち位置を獲得した」

 仕事の中枢を担う存在。SAYURIに最も近い存在。SAYURIの同行を完全に把握できる存在。

「SAYURIが西城を良く思っていなかったことも幸いし、民恵を使って西城を煽り、俺とぶつけさせた。結果は見ての通りだな」

「証拠はあるのか?」

「証拠を求める時点で、自分の行為を認めているようなもんだぜ。まぁここまで偉そうに言っといてなんだが、証拠は無い」

「ないの!?」

 本当に何で今まで偉そうに語っていたのか。

「こじつければそういう展開も十分ありえるってだけだ。ここで関係者に詳しい話を聞くのも面倒だし、なによりそれを公にしたところで、別に面白くなさそうだ」

 確かにこの男は行動原理がすべて面白いで統一されてそうである。

「海外での当てはあるのか?」

「当分は今ある金で食っていく事になるだろう。だがそれでもいい」

「なんだか楽観的なんですね」

「経験した事を生かすか殺すかは自分次第。俺がSAYURIのマネージャーをして唯一学んだことだ。良い地獄を見た経験は、これから先も俺の支えになる」

 最悪の絶望を味わったからこそ、折れることのない芯が築き上げられる。

「西城さん、一つ聞きたい。あなたはこの男と本当に付き合っているのか?」

「う……それは……」

 答えられずに目をそらす。

「いや、なら安心した」

「どういう意味だコラ」

「お前みたいな人間の隣に立つ人は、よほどの苦労を経験するのだろう。並の者じゃついていけない。西城さんにその覚悟があるのかと思ってな」

 彰人の言葉に、明確な対応を取る事が出来なかった。首を縦にも、横にも動かせない。

「まぁいい」

 何かを納得した彰人は、傍にあったケースに手をかける。

「ここから先、なるべく関わりたくないんでな。もう二度と会うこともないだろう」

 明らかな拒絶の意思を見せ、彰人はその場を去って行った。日本ではなく、海外を拠点に選んだ彰人にどんな未来が待ち受けているかは想像もできない。

 ただ、楽ではない事は確かだ。

「これが彰人さんの考えた展開なの?」

 全てを見通した男は肩を竦めた。

「外に出てもなんとか食って行けるだろう。ああ言ってたが、その用意もしているはずだ」

「それも調べたの?」

「SAYURIはブランドを海外に広めようとしていた。その時交渉したのはマネージャーの彰人だ。あいつはあらかじめツテを作っておいたんだよ。少なくとも、あっちの芸能関係者に知り合いがいるはずだ」

 SAYURIのブランドを国内で宣伝していたこともあり、大いに納得できた。使えるものは最大限に利用する。例えそれが元恋人でも、だ。

「あんた、あと他に隠していることは無いの?」

「俺はいつでもオープンマインドだが?」

「うっさいアホ!」

 この男のふざけた態度は平常運転だ。

「まぁ落ち着け。そうだな、お前の聞きたがっていることとすれば、晃輝を黙らせたのは警視庁の『もっと上』に話が通るからだ」

「もっと上?」

 問いに、しかし流斗は答えなかった。

「ひとまず、ありがとうでいいのかしら?」

「依頼を遂行したまでだ。まぁ俺自身の良い訓練にもなったけどな」

「訓練って、あんたまさか!?」

 この言葉で確信をもつことが出来た。やはり流斗は晃輝のプレースタイルを研究し、「真っ向から攻略」するつもりだったのだ。

「信じられない。相手は世界王者よ?」

「だからこそいいトレーニングになるんだろ」

 もうこの男の無茶無軌道には呆れるだけ無駄だと分かっていたはずだった。

「まぁ何事もなく無事に終わってよかったな。SAYURIがいなくなればお前も仕事がやりやすいだろ」

「なんとも頷き辛いわね」

 仕事場の雰囲気は改善されたかもしれないが、SAYURIのブランド関連の仕事はなくなった。それがプラスなのかマイナスなのか、それともイーブンなのかはまだ分からない。だがSAYURIという存在の空白は、決して小さいものではない。

 仕事を与えてくれる相手は、もういない。

「悲しくも身を寄せ合う相手がたくさんいるだろ?」

 ハッとして顔を上げると、目の前に民恵の姿があった。同じくSAYURIから仕事を与えられていた存在。その支配からの解脱を目指す同志。

「天里ちゃん、これから先も力を合わせて頑張りましょ!」

 屈託のないその笑みに、つい甘えたくなった。

 人は依存する生き物だ。完全に個人だけで生きて行く事が出来る生物に造られてはいない。

 だが依存を「楽」と履き違えることはそのまま退化を意味する。

 他者に支えられ、その中でどう生きるかを模索して行く。

 どこまで他者に思いを委ねるか。その魅惑と向き合って行かなければいけない。
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