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分室推理合戦
第1話
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私立栄凌高校。この日本を代表する超マンモス校には、夏休み中に何日か学習のための登校日が設けられている。生徒の動向把握なのか、学校側の学力向上のためなのか、はたまた別の思惑があるのか。ともあれ、五千人を超す人間が再びこの学びの杜に足を運ばなければならない。
それはつまり生徒が登校するということであり、
「なんで三日間の登校日でこんな依頼の数が増えるんだよ」
登校日二日目の放課後、いつものごとく分室を訪れた俺の机の上には プリントアウトされた依頼。その量を見て、思わずため息をつく。
「人が集まるということは、その分何かしら心配や不安、困り事が増えるということでしょうか。文句を言っても仕方ありません。さばきますよ」
すでに仕事モードに突入しているあーやは、依頼の分野ごとに振り分けを行っている。いつ見ても働いている姿しか見ていないため、将来は「仕事が恋人です」とか真顔で言いそうな感じである。
「何か言いましたか?」
「いえまったく何も。というか今日はこんなに集まりが悪いのか?」
分室には俺とあーやの姿しかない。偉そうに座っている室長はおろか、周防の姿もない。
「皆さんすでに依頼に動いていますよ。夏休みですから、色々な団体から学校外での依頼が増えているのですよ。周防君の花火研究会とかですね」
「よかったぜ。今日はあいつの顔を見なくて」
「あ、今日彼は」
「おいーっす。お疲れー」
「来ますよ」
「あ? 何の話だ?」
まるで見計らったかのように入ってきたなこのツンツン頭。
「なんでもないです。こんにちは周防君」
「いや、絶対なんかあっただろ。おい結崎、お前何の話をしてたんだ?」
「うるせえ黙れサッサと座れ。俺は仕事に移るから酸素だけ吸ってろ」
「開幕から暴言すぎるだろお前!?」
あーやが気を利かせて誤魔化したのに、そこで絡んでくるのが周防なのである。絡むと余計面倒だ。俺は依頼のリストアップに没頭することにした。
・家庭科教員の香水がきつい。
・音楽室の部室のエアコンが壊れた。
・美術部の作品のモデル。
・購買部のメニューを増やしてほしい。
・コーヒー研究会を発足したい。
・技術室の扉の建付けが悪い。
・音楽室の楽器を運びたい。
・写真部のデータの整理を手伝ってほしい。
・図書室で本の整頓をしたい。
・校内で変なにおいがする場所がある。
・誰もいない男子トイレからたまに水の流れる音がする。
・数学が難しい。
・職員室のコーヒーが減っている。
ざっと今届いている依頼がこれだ。中には依頼? と思うものもあるのだが、それも日常茶飯事。この分室は学校内の何でも屋、言い方を変えれば『押し付けられ役』である。というか、職員室の話を生徒に頼むのは意味不明だ。
依頼の詳細をざっと読み、解決法の模索や過去の例を参照する。この学園は問題が多く発生するが、その分過去の蓄積も多い。新規で頭を悩ます依頼は実のところ多くはない。
多くはないというだけで、まったくないわけではない。そしてそういう依頼こそ、過去に例がない分、味が濃かったりするわけだ。
「それにしても室長のやつ遅いな」
最後の授業が終わり、もう一時間近い。あの人はこういった連絡は律儀である。何の連絡もないところを見ると、よほどややこしい事態に巻き込まれたか、と邪推してしまう。
「そうですね、何かあったのでしょうか?」
「なぁに、何かあったとしても識也さんなら何の問題もないさ」
「分かんねえぞ。もしかしたら女がらみかもしれない」
周防が「え!?」という声を漏らす。
「知らないのか? 奴はそれなりに人気がある。隠れファンだって多い。アタックをかけた中の一人や二人、奴の琴線に触れないと言い切れるか?」
「おいおい識也さんに限ってそんな三流ミュージシャンみたいなことするわけが」
「奴だって雄だ。雌が言い寄ってきて悪い気はしないだろう。今はちょうど夏休み、思春期真っ盛りな心と体が開放的になるのは自然なことだろう?」
「まさか本当に、いや、そんなわけが……」
「ましてやあの支倉の跡取りともなれば、熾烈な子種の奪い合いが起こるのは必然。我先にとあの手この手で室長を陥れようとする輩が出てきてもおかしくないだろう?」
「…………」
勝ったな。
「勝ったな、という顔をやめなさい。周防君もあっさりと言いくるめられないでください。この人の言葉には一切の根拠がありません。すべて憶測、適当ですよ」
やはりあーやは冷静だった。
「お、おう、そうだよな! おい結崎! 適当を言うんじゃねえ!」
「推察と言え。可能性はゼロじゃない」
「その論理でありもしない誤解が生まれるなら、それはもう虚言ですよ。なんでもありで勝手なことを言いふらさないように」
「事実は小説より奇なりというだろ? あーやが俺を愛している可能性だって」
「ゼロです」
即答。
「前に言ったはずだあーや、断言は足元を」
「ゼロです」
「だから」
「ゼロです」
「こんにちは」
「ゼロです」
取り付く島もないんですが?
それはつまり生徒が登校するということであり、
「なんで三日間の登校日でこんな依頼の数が増えるんだよ」
登校日二日目の放課後、いつものごとく分室を訪れた俺の机の上には プリントアウトされた依頼。その量を見て、思わずため息をつく。
「人が集まるということは、その分何かしら心配や不安、困り事が増えるということでしょうか。文句を言っても仕方ありません。さばきますよ」
すでに仕事モードに突入しているあーやは、依頼の分野ごとに振り分けを行っている。いつ見ても働いている姿しか見ていないため、将来は「仕事が恋人です」とか真顔で言いそうな感じである。
「何か言いましたか?」
「いえまったく何も。というか今日はこんなに集まりが悪いのか?」
分室には俺とあーやの姿しかない。偉そうに座っている室長はおろか、周防の姿もない。
「皆さんすでに依頼に動いていますよ。夏休みですから、色々な団体から学校外での依頼が増えているのですよ。周防君の花火研究会とかですね」
「よかったぜ。今日はあいつの顔を見なくて」
「あ、今日彼は」
「おいーっす。お疲れー」
「来ますよ」
「あ? 何の話だ?」
まるで見計らったかのように入ってきたなこのツンツン頭。
「なんでもないです。こんにちは周防君」
「いや、絶対なんかあっただろ。おい結崎、お前何の話をしてたんだ?」
「うるせえ黙れサッサと座れ。俺は仕事に移るから酸素だけ吸ってろ」
「開幕から暴言すぎるだろお前!?」
あーやが気を利かせて誤魔化したのに、そこで絡んでくるのが周防なのである。絡むと余計面倒だ。俺は依頼のリストアップに没頭することにした。
・家庭科教員の香水がきつい。
・音楽室の部室のエアコンが壊れた。
・美術部の作品のモデル。
・購買部のメニューを増やしてほしい。
・コーヒー研究会を発足したい。
・技術室の扉の建付けが悪い。
・音楽室の楽器を運びたい。
・写真部のデータの整理を手伝ってほしい。
・図書室で本の整頓をしたい。
・校内で変なにおいがする場所がある。
・誰もいない男子トイレからたまに水の流れる音がする。
・数学が難しい。
・職員室のコーヒーが減っている。
ざっと今届いている依頼がこれだ。中には依頼? と思うものもあるのだが、それも日常茶飯事。この分室は学校内の何でも屋、言い方を変えれば『押し付けられ役』である。というか、職員室の話を生徒に頼むのは意味不明だ。
依頼の詳細をざっと読み、解決法の模索や過去の例を参照する。この学園は問題が多く発生するが、その分過去の蓄積も多い。新規で頭を悩ます依頼は実のところ多くはない。
多くはないというだけで、まったくないわけではない。そしてそういう依頼こそ、過去に例がない分、味が濃かったりするわけだ。
「それにしても室長のやつ遅いな」
最後の授業が終わり、もう一時間近い。あの人はこういった連絡は律儀である。何の連絡もないところを見ると、よほどややこしい事態に巻き込まれたか、と邪推してしまう。
「そうですね、何かあったのでしょうか?」
「なぁに、何かあったとしても識也さんなら何の問題もないさ」
「分かんねえぞ。もしかしたら女がらみかもしれない」
周防が「え!?」という声を漏らす。
「知らないのか? 奴はそれなりに人気がある。隠れファンだって多い。アタックをかけた中の一人や二人、奴の琴線に触れないと言い切れるか?」
「おいおい識也さんに限ってそんな三流ミュージシャンみたいなことするわけが」
「奴だって雄だ。雌が言い寄ってきて悪い気はしないだろう。今はちょうど夏休み、思春期真っ盛りな心と体が開放的になるのは自然なことだろう?」
「まさか本当に、いや、そんなわけが……」
「ましてやあの支倉の跡取りともなれば、熾烈な子種の奪い合いが起こるのは必然。我先にとあの手この手で室長を陥れようとする輩が出てきてもおかしくないだろう?」
「…………」
勝ったな。
「勝ったな、という顔をやめなさい。周防君もあっさりと言いくるめられないでください。この人の言葉には一切の根拠がありません。すべて憶測、適当ですよ」
やはりあーやは冷静だった。
「お、おう、そうだよな! おい結崎! 適当を言うんじゃねえ!」
「推察と言え。可能性はゼロじゃない」
「その論理でありもしない誤解が生まれるなら、それはもう虚言ですよ。なんでもありで勝手なことを言いふらさないように」
「事実は小説より奇なりというだろ? あーやが俺を愛している可能性だって」
「ゼロです」
即答。
「前に言ったはずだあーや、断言は足元を」
「ゼロです」
「だから」
「ゼロです」
「こんにちは」
「ゼロです」
取り付く島もないんですが?
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