天才怪盗の社会奉仕(エリート怪盗だった俺が問題だらけの学園で事件を解決します)

ハルサメ

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アルテミスの弾丸

第1話

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 東京某所、老舗の料亭の前に黒塗りの車が停車する。運転手が開けた後部座席のドアから降りて来たのは一人の少年。寝癖のように見えるほど癖の強い髪に縁の太い眼鏡。身に纏う紺色のスーツは、高校生という年齢を感じさせないほどに似合っている。

 少年――影宮識也は運転手に手で挨拶すると料亭の暖簾をくぐった。店内は静かだった。閑古鳥が鳴いているのではなく、今宵は貸切だ。たとえ諸外国との会合が開かれようとも、この場所は譲られることが無い。

 この親子の対話に、邪魔者は許されない。

「五分遅い」

 女将に先導されて行き着いた部屋には、既に相手が座っていた。袴姿が妙に似合った相手はその両目でしっかりと識也を捉える。年齢は四十になったばかりのはず。しかしその実際は、ふた回り以上の貫禄を感じさせるほど風格である。本人としてはただのお小言のつもりなのだろうが、隣の女将は今にも心臓が止まりそうに震えている。

 支倉真一。現内閣の法務大臣を務める日本の重役であり識也の実の父親は、その存在自体が異質だった。

「生憎と、このような場に招かれる教育をされていなかったので、準備に手間取りました」

 安心させるため、女将の肩に手を乗せる。促すように手を振ると、女将は低頭しながらすぐに下がっていった。

「座れ」

 淡々とした指示。こちらの意見を全く聞く気が無い様子に、識也は居心地の悪さを再認識した。

(今日の僕は義理で来ているだけだ)

 憎めない一人の後輩の顔を思い出し、諦め半分で真一の正面に座った。

「始めに言っておきます。僕はあなたの後を継ぐ気はありません」

 相手より先に口火を切る。後を継ぐ、というのは政治家になると言う意味ではない。真一のもう一つの顔、裏の顔を後継する意思がないということだ。識也には同い年の腹違いである兄、支倉遼一がいる。だが受け継いだ資質の差から、真一は後継には識也を据えるつもりである。先日の一件があり、遼一が再起不能になったことからも、識也の後継はほぼ確実視されている。

 本来ならば会いたくは無い存在。ただ後輩二人を守るために、識也はこの場に来るしかなかった。

「今宵の話はそれでは無い」

 だが識也の宣言は空振りに終わった。

「私の座は、このような席で決められるほど軽いものではない」

「だったらなんだというのですか? 申し訳ありませんが、僕にはあなたと閑談するつもりは一切ありませんよ」

 日本のあらゆる権力者が畏怖する存在に、たとえその実子だとしてもここまではっきりと告げる事は簡単なことではない。ただ真一は表情を崩すこともなく袴の袖口から手を出すと、識也のテーブルにあるお品書きを指差した。

 実の父親ながらその行動の真意を探る事が出来なかった識也は、その表紙をめくって全てを悟った。老舗の料亭にしては安物のようなつくりだったそれは、お品書きなどではなく一人の人間の詳細なデータが閉じられたファイルだった。

「……これは?」

 初めて見る顔の人物は、しかし驚くべき事に証明写真を識也と同じ栄凌高校の制服で撮影している。ウェーブのかかったセミロングのブロンド髪に、鮮やかな碧眼。美しさを追求した、それこそ作り物かと疑うほどの均整の取れたロシア系の顔立ちは、識也をして美しいと心の底から思えてしまうほどだった。

「来月から学園に通う事になる者だ」

「それはなんとなく分かります。僕が聞きたいのは何故あなたが、そして何故わざわざ僕に直接伝えているのか、ということです」

 学園の転入生、留学生ならばそれは学園の仕事であり、世話と言うのなら生徒会の仕事である。ここから分かることと言えば、この転入生が特異であるということくらいだが。

「まさかッ!?」

 履歴書等におかしな点は無い。だがそんなもの、いくらでも捏造は可能だ。

「組織の人間を学園に通わせるつもりですか!?」

「行動に制限は設けている」

「そういう問題では無いでしょうッ!」

 冷静な識也がテーブルに拳を叩きつける。学園の生徒が見たら、誰もが驚く姿だ。

「あなた直轄のギルドの面々ならばわかりますが、外部の者を招きいれるなんて見過ごせません。結崎君の時は、志織さんや神北先生の紹介があったからこそ認めたんです」

 一人の後輩、識也よりも深い闇の底にいたその少年は、多くの人間の支持があったからこそ同胞として招き入れる事を認めた。彼の場合は表の世界での制限、とりわけ血のつながりによる制限が特に効力を発揮している。

「そしてその結崎君については、どのように対応するつもりですか?」

「すでに手は打ってある。お前が気にすることではない」

 言いたい事だけ言って、こちらの意見をねじ伏せる。そのやり方は昔と何も変わっていない。そして自分はいつも、その言葉に振り回されるちっぽけな存在だ。

「それでは何故僕にこのような話をしたのですか?」

 無理矢理後継者にされないだけでもいい話だが、これは明日の生活に支障が起きてしまう問題だ。組織の人間を学園に混ぜるなど、腐ったミカンどころではない。無垢な子羊の群れに狼を放つようなものだ。

「いずれ肩を並べるかもしれない相手だ。今の内に探りを入れておけ」

「冗談…………ですよね?」

 父親の言葉に、識也は驚きを隠せない。

「十二柱の、後継者だとでもいうのですか?」

 写真の中の人物は、識也に笑いかけているように見えた。
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