天才怪盗の社会奉仕(エリート怪盗だった俺が問題だらけの学園で事件を解決します)

ハルサメ

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アルテミスの弾丸

第2話

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「さっさと起きろ!」

 昨晩の残り物である肉じゃがを電子レンジにかけた俺は、未だに起きてこない同居人の部屋を訪ねた。乱雑に放り投げられた衣服、下着すらそこら辺に散らばっているその部屋は、とても二十代の女性の部屋とは思えなかった。

「グガガ……グゴー」

 そしてベッドの上には部屋の主が掘削機のようないびきをかいて寝ていた。薄手のタンクトップに短パンとタオルケット一枚の状態は、しかし何の色気も感じさせない悲しさを持っていた。

「おら起きやがれ朱乃!」

 怒鳴ってタオルケットをひん剥こうとするが、わが伯母はタオルケットをぎゅっと握って離さない。意識は無いのだから本能的な拒絶なのだろう。本当に面倒臭い、毎日毎日同じことの繰り返しでこいつは本当に学習しない。

「ん……あぁ……朝か」

「そうだよ、朝だよ朝」

「……眠いな、寝て良いか?」

「仕事しやがれ社会人。夏休みって言っても教師には仕事が山のようにあるんだろ?」

「……ある」

「じゃあ寝んな。あとタオルケットは洗っとくぞ」

 隙を見て奪い去ったタオルケットを朱乃は名残惜しそうに見つめているが、返す気など毛頭ない。タオルケットを洗濯機に突っ込み、リビングへと戻った。

「朱乃さん起きた?」

 リビングではちょうど志保がご飯をつけているところだった。

「あの状況を起きたと言えるのかは分からんが、会話はした。あぁ俺のも頼む」

 ご飯を任せ、味噌汁を準備する。先月志保には料理禁止令を出したが、それでも何か手伝いたいと引き下がらなかったため、アホでもできるご飯当番を任せた。いくらドジを引き起こすとは言え、食器を割るという惨事を起こすことはなく今のところ平穏な生活を送る事ができている。

 因みにここで味噌汁を用意させなかったのは、汁物を溢されたらたまらないからである。

「あと隠し持ってるふりかけは戻しとけよ」

「ッ! い、嫌!」

「嫌じゃねえよ、ちゃんと鮭焼いただろ」

「焼き鮭好きじゃないもん……」

「んなもん知らんわ」

 中学の制服の内側に隠し持ったふりかけを支えるために、脇を不自然に締めているのが見え見えだった。別に悪いとは言わないが、せっかく焼いた鮭を無駄にするわけにもいかない。

 渋々ふりかけを戻す志保とすれ違い、テーブルに味噌汁の器を置いていく。

《今日の一位はおうし座。懐かしい人にばったり遭遇! 意外な話に発展するかも? ラッキーアイテムはロシアンティー。それではよい一日を!》

 テレビではアナウンサーが今日の星座占いを告げていた。丁度おうし座の俺ではあるが、そもそも占いなど信じる価値が無いと思っている。

 時刻は七時前、ニュース番組が始まる。

《おはようございます。恐ろしい事件が起きました。アメリカ、ワシントン・ダレス空港にて現地時間の午後五時過ぎ、ケリー国務次官が何者かに射殺される事件が起きました》

 聞き流そうとしていたキャスターの言葉に、自然と耳を傾けた。画面は日本からワシントン支部のキャスターへと画面が切り替わっていた。

《ケリー氏は経済・実業・農業担当の国務次官であり、今回も経済界のトップを含めた会合に参加していました。さきほど開かれた会見によりますと、ケリー氏は長距離から狙撃された可能性が高く、ケリー氏を狙った計画的な犯行であるとの見方を強めています。中東でのエネルギー開発などで大きな手腕を振るっていたケリー氏。人通りの多いワシントン市内で起きた事件ということで、市民からは驚きと恐怖の声が聞こえています》

「どうしたんですか?」

 ふりかけを戻した志保が、いつのまにか両手にご飯茶碗を乗せて隣に立っていた。

「いや、なんでもねえよ」

「嘘は嫌いです」

「この程度の返しくらい許せよ……」

 嘘が嫌いな、嘘がまるで通じない我が妹様は、普段抜けているくせにこういった所が中々面倒臭い。

「お前が気にするようなことじゃないから忘れろ忘れろ」

 今の俺には何の関係もないし、志保にとってはまったく縁のない話だ。

《それでは六時五五分になりました。今日のお天気です。本日は風もなく、カラッとした天気になるでしょう。いい洗濯日和に……》

「そうやってもたもたしてると朝練に遅れるぞ。七時半なんだろ?」

 今週末は駅前で夏祭りが開かれる。わざわざ道路を封鎖してまで巨大な神輿を担いだり、野外ステージではプロのミュージシャンやコメディアン、マジシャンなどを招いてのコンサートが行われたりするらしい。

 地元の中学校として志保の所属する吹奏楽部も演奏するらしく、なかなか本腰をいれて練習に励んでいるようだ。いくら学校が徒歩十分とはいえ、そろそろ朝食を食べ終わっていなければいけない時間だ。

「あわわ! 急がないと!」

「慌ててこけるんじゃないぞ」

 食パンを咥えて走り出しそうなほどに慌てる志保に、一応忠告する。案の定、志保は茶碗を危うくひっくり返しそうになっていた。

 平和、というのは何も特別なことが無い日常を言うのだと常々思う。飽くほどに退屈する日常。普通はそれでいい、いいはずなのだ。

 やっと起きてきた朱乃と急いで部屋を出ようとした志保がぶつかる。

 くだらない事に頭を抱えるようになった自分は、はたして弱くなったと言うのだろうか。
 惰性で生きている今。


 俺は、物事の尺度を計りかねているのかもしれない。
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