天才怪盗の社会奉仕(エリート怪盗だった俺が問題だらけの学園で事件を解決します)

ハルサメ

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アルテミスの弾丸

第8話

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 再び志織の車に乗り、裏口から道路へと出る。昼間の時間帯ではあるが、交通量はそこまで多くない。町の至る所には今度行われる夏祭りの準備が行われていた。アーケードの下にはぼんぼりが垂れ下がっており、催し物を紹介する看板が所々に配置されている。

 夕方に差し掛かり、西日がきつい時間になってきた。暑さもさることながら、日差しが眩しい。建物の窓やガラスに反射した光が視界に度々入り込み、個人的に煩わしい時間だ。

「一つ聞いていい?」

 車で移動して五分ほど、呟くような声だった。

「質問するのは自由だ。答えるかは分からんがな」

「あんた、自分の父親を憎んでる?」

 この質問には流石の俺も眉をひそめてしまった。

「自分を犯罪者に育てた父親を、あなたは恨んでない?」

「またその話か」

 同じ主旨の話を夏休み前にも行った。母親としての責務を全うできなかった。志織はその事に深く悩んでいる。

「言ったはずだ。結崎に生まれた時点で、親父の子供に生まれた時点で俺の将来は既に決まっていた。そこに恨む恨まないなんて私情は挟まれない」

 犯罪者に育てたと言うが、実際のところそこがまず間違いである。俺は犯罪者に育てられたのではなく、最初から犯罪者になるべく生み出された。代々グラウクスの称号は結崎の家系に受け継がれているのだ。その意味で親父は自分の跡継ぎを作っただけ。生物的になんらおかしな話ではない。

「たとえそうだとしても、これまでのあなたの人生は普通じゃなかった。今のような平穏な生活、最初から過ごしてみたいと思ったことは無い?」

 命の危険に晒されることも無い。辛く苦しい訓練をこなすことも無い。ただ友人と学び、遊び、成長していく。

「ないな」

 悪いが、そんな仮定の話には興味が無い。

「室長にも言ったが、今の俺があるのは過去があるからだ。それを否定して仮定の話なんてする気にはなれない。俺はいつでも俺の生き方を肯定する」

 反省はしても後悔はするな。よく言われる言葉だが、これは実に的を射ている。過去を引きずる後悔に先は無く、過去から学び生かしていく反省には未来がある。そしてこの世は結果論。未来を上手く調整すれば、過去の失敗などいくらでも巧手だったと結論できる。

「……同じなのね」

 すると志織はクスリと小さく笑った。

「何がだ?」

「昔に涼斗、あなたの父親も同じ事を言っていたわ」

「…………前言を撤回させてくれ」

「かっこよく決めたんだから泣き言言わないの」

 いや、しかし、親父と一緒なんて反吐が出る。

「確かに私は涼斗の妻で流斗の母親でもあるけど、血統という意味で結崎の一員ではない。その意味だと、家族の中で異端なのは私の方なのかもしれないわね」

 結崎という家。その血の呪いは俺と、そして志保に受け継がれている。

「つまり涼斗にとって私は、結崎の跡継ぎを生ませるための苗床だったって事か」

「否定はしない。オリュンポスでは優生学が奨励されていた。優秀な遺伝子同士の交配。上級幹部ともなれば子供の数が二桁なんてのはざらだ」

「なるほどね、つまりあいつは私以外に女を囲ってたと」

「いや、俺の知る限りあいつの子供は俺と志保だけだ」

「それはあんたが知らないだけじゃ」

「グラウクスを継承した時に全ての記録を見させてもらったが、俺の異母兄弟は一人もいなかった。結崎涼斗が唯一選んだ伴侶はあんただけだ。あの野郎が残した言葉にこんなものがある。『抱く女は一人だけにしろ。優れたとかそんなもの気にするな。でもな、結局この家系は優れた女を好きになっちまうんだよ。そして代々、俺たちはその女を泣かせてきた』」

 志織の顔を伺うことはしなかったが、息を呑む気配を感じた。

「あんたがどう思おうが、それはあんたの勝手だ。だがな、自分は関係ないとかそういったことを思ってるんなら、それはとんだ勘違いだ。結崎涼斗に選ばれた、それだけであんたはこの物語のメインキャラクターだよ」

「あんたが主人公の物語かしら?」

「さぁね。だが少なくとも、結崎涼斗のヒロインは結崎志織だろ?」

「なるほど、さっきのあんたの言葉を借りるなら、『結崎涼斗に選ばれた時点』で私の将来は決まってしまった訳か。高校時代の先輩の言葉を思い出すよ。『結崎涼斗は災厄みたいなものだから』。出会ってしまった私が悪いか」

 その高校時代に親父と志織がどのような関係だったかは分からない。だがほぼ確実に、二人は仲がいいとは言えない間柄だったのだろうと想像は出来る。

 それでも、俺や志保が生まれた。

 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

 そこからしばらく無言の時間が続き、やがて栄凌学園の校舎と体育館が見えてきた。と言っても馬鹿でかい敷地なので、今見えている建物はごく一部に過ぎない。体育館もあれは第三体育館であり、確かバドミントン部専用で規模的には真ん中くらいのものである。

 出会った場所と同じ門に車が近づき、そのまま止まることなく通り過ぎた。

「一応確認しておくが」

 志織におかしなところはない。俺も特別驚きはしなかった。

「あんたはいつも尾行されているのか?」
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