35 / 57
本編
第35話
しおりを挟む
「なんのつもりかしら?」
しかしその行動は突然の声によって止められてしまう。僅かに開いたドアだが、それは再び閉ざされる。そのことに安堵のため息をつかざるを得ない。
「私の部屋に何か用かしら、藤代想(ふじしろそう)?」
ドア一枚隔てた空間で話し声が聞こえる。声の主は勇魚だった。言葉の意味を省みるに、今闘矢は勇魚の自室にいるということだ。闇夜に慣れ視界が復活しつつあるが、闘矢は部屋ではなくドアに目を向けた。ジロジロ見ていると後が怖い。
「へ~ここはあんたの部屋だったのか。知らなかったよ」
人を小馬鹿にしたような声で話し相手の藤代想は答える。姿は見えないが、場の雰囲気にそぐわない気だるい印象を与える口調だった。
「別にあんたに用ってわけじゃない。今捜索中の奴がここにいる気がしただけだ」
「その根拠は?」
「んなもん勘に決まってんだろ」
「そんな理由で私の部屋に入ろうとしたのかしら?」
「だからそれは知らなかったんだっつうの。それに、こうやって人数かけて捜索してるのはあんたら自慢の監視カメラが使い物にならなくなったのが一番の原因じゃねえのか?」
「それは……」
答えた勇魚の声に力はなかった。
「そんなら頼りになるのは機械なんかじゃなくて、自分たちの探査能力だろうが。あんただって守り目に任命させられるほどの力を持ってんだから、そこらの下っ端よりは感が冴えると思うんだがな」
勇魚は答えなかった。姿は見えないが、勇魚が答えられなかった理由を闘矢は理解した。気配だけの評価だが、この2人の間には実力に決定的な違いが存在する。
「ま、同じ守り目だろうがここの警備隊形をまとめてるのはあんただ。あんたの指示に従うよ。ここがあんたの部屋なら自分で調べてくれ。俺はよそに行くことにするよ」
大きな欠伸を交え、足音と気配が1つ去っていく。そのことに一息つく闘矢だったが、しかしまだメインイベントが残っていた。
ドアノブが回され、勇魚が部屋に入ってくる。そしてドアの前で座り込んでいた闘矢と目が合った。
先ほどの会話から勇魚は闘矢を探す捜索隊に指示を出している側の人間、つまり今の闘矢は敵に見つかったも等しい。どうするか、と気を引き締めた闘矢だったが、それは杞憂に終わることになった。
勇魚は闘矢がいることにも特に驚く表情をすることなく、最小限の動きで入室してドアを閉め、明かりをつける。夜目に慣れたため闘矢は僅かに目を細める。
「あんた一体自分が何してるか分かってるの?」
開口一番、勇魚はドアの前で仁王立ちし、苛立ちがこもったストレートな罵声を飛ばす。
「お前、俺を捕まえるんじゃないのか?」
「質問してるのはあたしよ!!」
「す、すんません!!」
何故か怒られる始末。姿勢も空気を読んで正座にしているので、完璧に説教を受けているスタイルだ。
「あたしがあれだけもう関わりを持たないでって言ったのに何で来たの!?こんなことやって夏陽が喜ぶとでも思ってんの!?そんなのただの自己満足よ!意味分かる!?」
畳み掛けるように言葉を並べられる。
「分かってる」
対して闘矢は勇魚の顔を見てはっきりとした口調で答えた。
「これは俺の自己満足だ。そんなこととっくに分かっている」
「ならなんで来たのよ!?」
「夏陽に会って話したいことがある」
勇魚は、一層眉間にしわを寄せ、険しい顔つきになる。
「この状況、あの子があんたに会うと思ってるの!?いいえ、その前に会えると思ってるの!?ここにいるのは普通の人間じゃない、異能の力を持った異能者なのよ!?」
「それは、俺が夏陽に会わない理由にはならない」
「死ぬのよ!?」
「死ぬつもりは無い……というかこの問答宗司ともやったんだが」
闘矢は苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。数時間前にやった宗司との問答を思い出し、やはり自分が無茶なことをしようとしていることを改めて理解する。
「だからもうお前が何を言おうが俺は夏陽に会いに行くって決めたんだ。覚悟は決めてる」
そこで闘矢は一旦言葉を切り、自分を見下ろす勇魚に真剣な表情で見据える。
「お前は俺の邪魔をするか?」
闘矢の目は勇魚を威嚇していた。自身の行く先の邪魔をする者、その全てを消し去る意思をはっきりと示す。それは殺気と表現できるものだ。
今まで優位に立っていたと思っていた勇魚はその闘矢の明確な意思に意図せず身構えてしまう。勇魚の中にある本能が闘矢の殺気に反応を示した。
だがそれも一瞬のことだった。
「私に勝てるつもりでいるの?」
勇魚が殺気を放ったのを闘矢はひしひしと感じた。少しでも怯めば、飲み込まれてしまうほど鋭利な殺気。勇魚にも勇魚の行く先がある、やり遂げなければいけないことがある。譲れないものがあるのだ。
一触即発の空気が両者の間に流れる。もはやどちらが正しいなどの問題ではない。理屈を通り越した、プライドのぶつかり合いだった。
2人の視線が交差する。
場を静寂が支配した。
しかしその行動は突然の声によって止められてしまう。僅かに開いたドアだが、それは再び閉ざされる。そのことに安堵のため息をつかざるを得ない。
「私の部屋に何か用かしら、藤代想(ふじしろそう)?」
ドア一枚隔てた空間で話し声が聞こえる。声の主は勇魚だった。言葉の意味を省みるに、今闘矢は勇魚の自室にいるということだ。闇夜に慣れ視界が復活しつつあるが、闘矢は部屋ではなくドアに目を向けた。ジロジロ見ていると後が怖い。
「へ~ここはあんたの部屋だったのか。知らなかったよ」
人を小馬鹿にしたような声で話し相手の藤代想は答える。姿は見えないが、場の雰囲気にそぐわない気だるい印象を与える口調だった。
「別にあんたに用ってわけじゃない。今捜索中の奴がここにいる気がしただけだ」
「その根拠は?」
「んなもん勘に決まってんだろ」
「そんな理由で私の部屋に入ろうとしたのかしら?」
「だからそれは知らなかったんだっつうの。それに、こうやって人数かけて捜索してるのはあんたら自慢の監視カメラが使い物にならなくなったのが一番の原因じゃねえのか?」
「それは……」
答えた勇魚の声に力はなかった。
「そんなら頼りになるのは機械なんかじゃなくて、自分たちの探査能力だろうが。あんただって守り目に任命させられるほどの力を持ってんだから、そこらの下っ端よりは感が冴えると思うんだがな」
勇魚は答えなかった。姿は見えないが、勇魚が答えられなかった理由を闘矢は理解した。気配だけの評価だが、この2人の間には実力に決定的な違いが存在する。
「ま、同じ守り目だろうがここの警備隊形をまとめてるのはあんただ。あんたの指示に従うよ。ここがあんたの部屋なら自分で調べてくれ。俺はよそに行くことにするよ」
大きな欠伸を交え、足音と気配が1つ去っていく。そのことに一息つく闘矢だったが、しかしまだメインイベントが残っていた。
ドアノブが回され、勇魚が部屋に入ってくる。そしてドアの前で座り込んでいた闘矢と目が合った。
先ほどの会話から勇魚は闘矢を探す捜索隊に指示を出している側の人間、つまり今の闘矢は敵に見つかったも等しい。どうするか、と気を引き締めた闘矢だったが、それは杞憂に終わることになった。
勇魚は闘矢がいることにも特に驚く表情をすることなく、最小限の動きで入室してドアを閉め、明かりをつける。夜目に慣れたため闘矢は僅かに目を細める。
「あんた一体自分が何してるか分かってるの?」
開口一番、勇魚はドアの前で仁王立ちし、苛立ちがこもったストレートな罵声を飛ばす。
「お前、俺を捕まえるんじゃないのか?」
「質問してるのはあたしよ!!」
「す、すんません!!」
何故か怒られる始末。姿勢も空気を読んで正座にしているので、完璧に説教を受けているスタイルだ。
「あたしがあれだけもう関わりを持たないでって言ったのに何で来たの!?こんなことやって夏陽が喜ぶとでも思ってんの!?そんなのただの自己満足よ!意味分かる!?」
畳み掛けるように言葉を並べられる。
「分かってる」
対して闘矢は勇魚の顔を見てはっきりとした口調で答えた。
「これは俺の自己満足だ。そんなこととっくに分かっている」
「ならなんで来たのよ!?」
「夏陽に会って話したいことがある」
勇魚は、一層眉間にしわを寄せ、険しい顔つきになる。
「この状況、あの子があんたに会うと思ってるの!?いいえ、その前に会えると思ってるの!?ここにいるのは普通の人間じゃない、異能の力を持った異能者なのよ!?」
「それは、俺が夏陽に会わない理由にはならない」
「死ぬのよ!?」
「死ぬつもりは無い……というかこの問答宗司ともやったんだが」
闘矢は苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。数時間前にやった宗司との問答を思い出し、やはり自分が無茶なことをしようとしていることを改めて理解する。
「だからもうお前が何を言おうが俺は夏陽に会いに行くって決めたんだ。覚悟は決めてる」
そこで闘矢は一旦言葉を切り、自分を見下ろす勇魚に真剣な表情で見据える。
「お前は俺の邪魔をするか?」
闘矢の目は勇魚を威嚇していた。自身の行く先の邪魔をする者、その全てを消し去る意思をはっきりと示す。それは殺気と表現できるものだ。
今まで優位に立っていたと思っていた勇魚はその闘矢の明確な意思に意図せず身構えてしまう。勇魚の中にある本能が闘矢の殺気に反応を示した。
だがそれも一瞬のことだった。
「私に勝てるつもりでいるの?」
勇魚が殺気を放ったのを闘矢はひしひしと感じた。少しでも怯めば、飲み込まれてしまうほど鋭利な殺気。勇魚にも勇魚の行く先がある、やり遂げなければいけないことがある。譲れないものがあるのだ。
一触即発の空気が両者の間に流れる。もはやどちらが正しいなどの問題ではない。理屈を通り越した、プライドのぶつかり合いだった。
2人の視線が交差する。
場を静寂が支配した。
0
あなたにおすすめの小説
ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~
陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。
アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
名もなき民の戦国時代
のらしろ
ファンタジー
徹夜で作った卒論を持って大学に向かう途中で、定番の異世界転生。
異世界特急便のトラックにはねられて戦国時代に飛ばされた。
しかも、よくある有名人の代わりや、戦国武将とは全く縁もゆかりもない庶民、しかも子供の姿で桑名傍の浜に打ち上げられる。
幸いなことに通りかかった修行僧の玄奘様に助けられて異世界生活が始まる。
でも、庶民、それも孤児の身分からの出発で、大学生までの生活で培った現代知識だけを持ってどこまで戦国の世でやっていけるか。
とにかく、主人公の孫空は生き残ることだけ考えて、周りを巻き込み無双していくお話です。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる