あの日君に誓ったこと

ハルサメ

文字の大きさ
41 / 57
本編

第41話

しおりを挟む
 身体を走る久しく感じることの無かった痛みに、まるで電撃が走ったかのように怯む。更に脳を支配する何かがここに来て肥大したかのように、思考を支配する。心と体、その両方が言うことを聞かない。

 そしてその一瞬の隙を突かれ、頭部に手刀の一撃が打ち込まれる。脳みそを無理矢理シェイクされる不快感と、さらに物理的な衝撃が襲い掛かる。荒波にもまれるようにぐちゃぐちゃにかき混ぜられる感覚を覚える。

 たちまちバランスを崩し、殴られた勢いのまま床を転がり壁に激突する。その時背中を打ったため呼吸が停止、直ぐに回復はしたものの依然闘矢の呼吸は乱れたままだった。

 闘矢の眼前には右の拳を握り締めながら恍惚とした表情を浮かべる悠獅の姿があった。一撃が闘矢に叩き込まれた。決して触られることの無かった闘矢に、決定的な一撃が入った。

「ようやく当てる事が出来た。いや、よく今まで避け続けたと言うべきか。今のは武家六家、五後胤家無刀技―双斬突。実戦でも使用されたことのある生きた暗殺拳だ。もっとも、外気功を主とする俺の御門の気質では内気功を用いるこの技はそこまでの殺傷能力はない。本来なら手刀は切り裂くことに昇華するようだが、俺では殴打が限界だ」

 本当ならすでに死んでいた、闘矢にそう告げるように悠獅は饒舌に語る。その闘矢は未だ立ち上がることもせず力なく床に手を突き、顔を伏せていた。

 悠獅は足を肩幅の広さまで開き、脱力した姿勢を取る。

「立ち上がる気力すらないか。一撃入れられただけで折れるとは意外にも脆いものだな。いや、唯一の自慢だった逃げることも出来なくなったが故に全てを諦めたか」

 そして嘲笑を漏らす。

「確かに中々面倒ではあったが、所詮はこの程度。十二宮家に牙を立てるにはあまりにも弱すぎる。逃げるだけでは戦いに勝つことは出来ない。四之宮夏陽を救い出すなど、到底無理なことだ」

 闘矢は壁に寄り掛かりながら立ち上がる。その姿は覇気どころか生気すら感じられるか怪しいほど弱弱しいものだった。

 触られた、触られてしまった。その事実が闘矢の心に深い傷を作る。

 それは恐怖、自身の身が傷つくことを恐れる生物的本能。

 それは絶望、自分には悠獅を倒すほどの力が無いことを悟ってしまった。

 悠獅の言うとおり、逃げることでは相手を倒すことは出来ない。相手を倒すことが出来なければ、その先に進むことは出来ない。逃げることは、前進にはなりえない。それは状況を打開する術ではない。夏陽に再び会うことなど無理なことだったのだ。

 闘矢はここに来て自身の心が揺れている事に気付いた。夏陽に会うために十二宮家に反抗することにためらいは無かった。異能があろうがなかろうが、夏陽に会うために全てを犠牲にする覚悟で挑んだ。 その覚悟に偽りは無い。

 しかし、結果闘矢は膝をついた。御門悠獅という存在を前にし、自身の無力を知った。どうにもならない現実を知った。やる気の有る無しの話ではない。やるやらないの葛藤ではない。そもそも無理な行いだったのだ。

 それは闘矢に、この場から逃げるという選択肢を提示した。夏陽に会うことを諦め、自身の身を守るという今の闘矢にはとても甘く、そして慈愛に満ちた天の声とも言うべき選択肢だ。


―それで、いいのか?

 闘矢の思考に、何かが語りかけた。

―本当に逃げてしまってもいいのか?

―御門を倒すのは俺には無理だ。俺には逃げることしか出来ない。

―お前から動き、相手を倒せばいいだろう?

―無理だ、俺には逃げることしか、避け続けることしか俺には出来ない。

 それに闘矢は反論する。闘矢にとって戦いとは逃げることだ。そう教わってきた。否―そうとしか教わっていない。祖父から受け継いだ戦い、桐崎の戦いとは常に逃げることだった。そんな自分が今更相手を倒そうと戦ったとしても、所詮付け焼刃になるだけだ。

―本当に逃げることだけだったか?

 しかしそれはなおも闘矢に問いかける。

―それがお前の本当の戦い方だったか?

―本当も何も、俺にはそれしかッ!

―いや、お前は知っているはずだ。後天的な桐崎の異能ではなく、先天的な異能を、祖父の修練により上書きされてしまったお前本来の異能を、お前は俺を知っているはずだ!


「――ッ!!」

 その時、頭部の悠獅の手刀が叩き込まれた部分に痛みが走る。正確には外傷ではなくその内部、脳自体がズキンッと痛んだ。脳が熱い何かに焼かれるように痛んだ。まるで脳の中身を無理矢理変えられるような感覚。

―さぁ再びこの力を存分に奮うがいい!そして戦え!十二宮家を滅ぼせ!戦う事、十二宮家と合間見える事こそがお前の存在意義であり、宿命。本当のお前を解放しろ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ラスボス王子はヒロインたちと悪役令嬢にざまぁしたいと思います~

陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。 アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

名もなき民の戦国時代

のらしろ
ファンタジー
 徹夜で作った卒論を持って大学に向かう途中で、定番の異世界転生。  異世界特急便のトラックにはねられて戦国時代に飛ばされた。  しかも、よくある有名人の代わりや、戦国武将とは全く縁もゆかりもない庶民、しかも子供の姿で桑名傍の浜に打ち上げられる。  幸いなことに通りかかった修行僧の玄奘様に助けられて異世界生活が始まる。  でも、庶民、それも孤児の身分からの出発で、大学生までの生活で培った現代知識だけを持ってどこまで戦国の世でやっていけるか。  とにかく、主人公の孫空は生き残ることだけ考えて、周りを巻き込み無双していくお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...