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Karte.1 自己愛の可不可-水鏡
自己愛の可不可-水鏡 18
しおりを挟む「母からいくらもらったんですか?」
春名がソファに落ち着くのを見て、冬樹が言った。
「いくら?」
冬樹の言わんとすることが解らなかった訳では、ない。
だが、それを訊くことも春名の仕事の一つである。
「金をもらって弟を引き受けたんでしょう? 母が渡した倍の金を払いますよ。どうぞ、お引き取りを――」
冬樹の言葉に、
「冬樹っ! ――すみません、先生。兄は本気で言っている訳じゃ――」
「本気だ。それに、おまえがその医者に謝ることはない」
傲慢とも思える言葉だった。
珠樹のことも、冬樹が全て決めている――そう言った母親の顔が、脳裏を過った。
「冬樹――」
「私なら構わない、珠樹くん。医者が家にまで押しかけて来るのは、余り気分のいいものではないだろうからね」
春名は、ようやく落ち着きを取り戻して、静かに言った。多分、今の冬樹の言葉に、二人の違いを確信したせいでもあっただろう。
「先生――。ぼくは先生に来てもらえて、気を悪くしてなんか……」
珠樹が真摯な眼差しで、小さく呟く。
それが本心であることも解っている。
「今日来たのは、君を心配してだ」
「え?」
「連絡も取れなかったのでね」
「え、あの――。だって――」
珠樹の表情が、戸惑いに変わった。言葉を探すようにしながら、傍らの冬樹を垣間見る。
「先生に連絡してくれたんじゃなかったの、冬樹?」
その言葉には、春名も戸惑った。病院には、珠樹からにせよ、冬樹からにせよ、何の連絡も入ってはいなかったのだ。
だが、冬樹は――。
「したさ。先生にまで連絡が伝わらなかったんだろ。何しろ、親に金をつかまされて、病気でない人間まで入院させる病院だ。さぞ忙しいことだろうからな」
と、天を仰ぐ。
「どうしてそんなこと――っ」
「連絡の行き違いがあったのならこちらの不手際だ。押しかけてすまなかったね」
春名は、動じもせずに、すぐに折れた。腹が立たない訳ではなかったが、押し問答をするためにここまで来た訳でも、ない。
それでも――。
「これからは気をつけてください、先生」
その言葉には、腹立ちを堪えるのに、苦労した。
冬樹は周りの人間すべてを見下すように、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。珠樹がうろたえているのとは、正反対の表情である。
「君は、いつも珠樹くんに代わって連絡をしたり、何もさせないように面倒を見ているのか?」
少し厳しい口調で、春名は訊いた。
「応える謂れはありませんよ。ぼくも珠樹もあなたの患者ではない」
「珠樹くんは私の患者だ」
「弟に悪いところなどない」
「全て他人が悪い、と?」
鼻で笑う春名の言葉に、冬樹の表情が大きく変わった。
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