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死神が見せたもの
しおりを挟むそんな訳で、逃げ出したにも関わらず、郡司は再び六条の館を前にしていた。
当然のことながら、郡司をはじめとする一行は、すぐに男たちに囲まれて――。
「御館様に連絡しろ!」
と、今度は覚悟が出来ていたとはいえ、再び車椅子に座る真っ黒いミイラの処に連れて行かれ――。
「ほひゃまあ、あはひひひゃはいひゃ――」
アザミを見ながら、ミイラ――この館の当主、六条アカネが言った。
「お姉さま、生憎、ミイラの言葉が解る【アルカナ】は持っていないの。誰かに通訳させてくださらないかしら?」
「――」
アザミの言葉に、ミイラの体温が一度上がった。――ように感じた。ただし、体温があるのかどうかも不明である。
ミイラは、二部式の着物の中に手を入れて、取り出した【アルカナ】をすっと擦った。黒い眼窩が、再びアザミを睨みつける。
口を開いたのは、例によって通訳係の男だった。慣れた脳の方が操作しやすいのかも知れない。
「アサギリ様、御館様はあなたの身勝手さを許してきたのは間違いだった、とおっしゃっています」
通訳が言った。
「あら、そう。私が勝手にすることにお姉さまの許可がいるとは知らなかったわ」
またここでも姉弟喧嘩が始まりそうな予感――だったのだが、
「――っていうか、私がこうして、この面々と一緒に六条の家に戻って来た理由を尋ねた方がいいんじゃないの?」
と、今回の危機を匂わせるように、アザミが続ける。
アザミの側には、郡司と藤堂、そして、シバがいる。タヌキはきっと、あの四阿でごはんが来るのを待っているだろう。
そして、ミイラの側には通訳他二人の男たちと、離れた椅子にアヤメが無言で腰かけている。
「あなたのお話を聞きましょう」
通訳が言った。
「――そういえば、アオイがいないわね?」
素直に聞くと言われたら、焦らしてみたくなるのもセオリー通り。恐らく今頃は、タヌキにごはんでもあげているに違いないアオイのことを匂わせてみる。
「まさか、アオイ様もあなた方と共に行動を?」
通訳の問いに、椅子に腰かけるアヤメの眉が、ピクリ、と動いた。それを見る限り、アヤメもアザミ同様、アオイが【JUSTICE】であることを知らないらしい。
「別にぃ。ちょっと気になっただけよ」
アザミはどうでもいいように話を終わらせ、
「今すぐ全ての【アルカナ】を手放さないと、死ぬわよ、私たち」
と、死神の描かれた【DEATH】のアルカナを取り出した。
あの後、順番に【DEATH】が見せる光景を確認したのだが、その死の宣告は、誰が見ても同じだった。
「それはどういうことでしょうか」
通訳が訊く。
「ここにいる全員が死ぬとすれば、その原因は【アルカナ】以外に考えられないでしょう?」
今、アザミが口にしたことは、ここへ来る前に皆で考えて出した結論である。郡司としては、紗夜を見つける前に、またしてもこんな危機に見舞われてしまって、気が急くばかりなのだが。
「馬鹿馬鹿しい――と、おっしゃっています」
天を仰ぐミイラの手が、再び【THE DEVIL】のアルカナを擦った。他人の脳に干渉することが出来る神秘である。
だが、一体、誰の脳に――。
もう、それ以上の通訳の言葉はなかった。
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