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35.王子様と眠り姫は新たな扉を叩く

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 便利な時代になったものだ、と思う。
 スマートフォンひとつあれば、何でもできる。
 買い物もできる。動画も見られる。ゲームもできる。地図にもなるし、もちろん電話も出来る。
 時計のアラームにもなるし、電卓にもなるし、それから……

 知りたくなかったことを、知ることも出来る。

 手にしていたスマートフォンをなるべく離れた場所に投げながら、冬夜はソファの上でジタバタと悶え苦しんでいた。
 見るんじゃなかった。
 藤堂が風呂に入ってるうちに、なんて、スマートフォンを手に取ったのが間違いだった。
 うっかり検索をかけ、出てきた衝撃的な動画に打ちのめされ、現在冬夜のHPは限りなくゼロに近い。

 あんな事……出来るわけない!!!

「何してるの?」
 いつの間にか風呂から上がっていたらしい藤堂が、タオルで髪を拭きながらこちらを見ている。
 冷蔵庫からペットボトルを取り出して水を飲む自分の姿に、冬夜の視線が注がれていることに気付くと、「飲む?」とペットボトルを差し出してきた。
 水……。
 そうだ、水を飲んだほうがいいかもしれない。
 フラフラと藤堂に近づき、水を受け取って、口につける。
 しかし、動揺していたせいで傾けすぎて、こぼれた冷たい水が顎を伝ってパジャマの中に滑り落ちていった。

「わっ!冷たっ!」
「あーあ。何してるの」
 藤堂は冬夜からペットボトルを取り上げて冷蔵庫にしまうと、持っていたタオルで冬夜の濡れた顎を拭きながら、「瀬川さん、バンザイ」と言う。
 つい条件反射でバンザイをすると、服の裾に手をかけられて、すぽんと脱がされてしまった。
 そのまま、丸めたパジャマとTシャツで、濡れた胸元を拭かれる。
 藤堂に礼を言い、新しいパジャマを出そうと寝室へ向かうと、そのまま藤堂もついてきた。
 くちゅん、とくしゃみをする冬夜を片腕で抱きよせながらクローゼットを開き、藤堂が出したものは……

 ずぼり、と頭からかぶせられたそれは、あきらかに冬夜には大きい。
「藤堂、これ藤堂のだろ」
 なんで間違えるかな、と自分のパジャマに手を伸ばそうとすると、藤堂に押しとどめられたあげくに、パシャっと写メを撮られた。
 この男は、いつもスウェットのズボンにスマホを突っ込んでいる。

「山口さんに、激励の写メ送りましょう」
 今撮影した彼シャツ状態の冬夜の画像を、山口に送ろうとする。
「またか!何のいやがらせかと思うだろ?!やめろよ」
 慌てて取り上げようとしたが、藤堂が警戒していたせいで前回のようにはうまくいかなかった。
 そのまま揉み合うようにして、ベッドの上になだれ込む。
 大きな体とベッドの間に挟み込まれ、身動きできずに睨み上げると、笑う藤堂の顔が近づいてきた。
 そのまま重なる唇に、うっとりと目を閉じる。
 藤堂のキスは、巧みだ。
 あっという間に唇を割られ、舌を誘い出されてくちゅりと絡め取られた。
 藤堂の熱い吐息がこぼれて唇にかかり、興奮を伝えてくる。
 舌先を触れ合わせるように、とろりと表面を擦り合わせるように、時折唇を外してお互いに呼吸を合わせながら、相手を飲み込んでしまわんばかりに唇を重ね合わせる。
 冬夜が藤堂の唇に夢中になっていると、大きすぎるスウェットの隙間からこっそりと忍び込んだ手が、ゆっくりと這うように下腹から胸を撫で上げた。

「んんっ……藤堂……、やだ……!」
 乳首に到達した藤堂の指先が、こりっとそれをつまんだ瞬間、冬夜の脳裏に先程見た衝撃映像が甦った。
 ブーメランパンツを履いて、サングラスをかけたゲイのお兄さんが、いたいけな大学生を裸に剥いて襲っちゃうというゲイビ。
 ズボンとパンツを脱がされた大学生の、すでに臨戦態勢なナニに手を伸ばすお兄さん。
 野太い喘ぎ声。
 けむくじゃらの股間とすね毛。

「だっダメっ!!無理っ!!!無理ーーーっ!!!」
 キスの気持ちよさに勃ち上がりかけていた冬夜のソレを一気に萎えさせる破壊力。
 ああ、あんなもの、見るんじゃなかった!
 今からアレを自分がするのかと思うと、藤堂に申し訳なさすぎて、穴掘って死ねる!
 ぐいっと力強く藤堂を押しのけると、冬夜は必死にベッドの上から逃れようとした。

「どうしたの?」
「む……無理です!俺には出来ません!」
 ベッドの上でダンゴ虫のように丸くなり、フルフルと首を振り続けると、藤堂のため息が降って来る。
「どうせ、変なもの見たんでしょう?」
 藤堂が、冬夜を包み込むように上から圧し掛かって、後頭部にちゅっとキスを落とした。
「お、男の裸なんて、見て勃つわけないだろ!藤堂ぜったい萎えるし!」
「勃ちますって。見ますか?」
「やだ!見ない!絶対見ない!」
 冬夜の裸を見た瞬間、へにょりと藤堂のアレが萎えたりしたら、精神ダメージが大きすぎて一生不能になる自信がある。
「もう。あなたはどうしてそう自己評価が低いかな。ほら、手、貸して」
 腕を引っ張られ、後ろ手になにかをむぎゅっと握らされる。
 硬くて熱い、布の上からでもはっきりと形のわかる、ものすごい熱量をもったそれは……
「俺の。わかるでしょ?」
 萎えるわけない、と、藤堂が耳の後ろにちゅうっと吸い付いてくる。
「でも……見たら萎えるかも」
「じゃあ、試しに見せて」
 
 嫌がる冬夜を押さえつけて、藤堂が後ろから強引にズボンとパンツを引きずり下ろす。
 衝撃映像を思い出したことですっかり萎えていた冬夜のそれは、どこにもひっかかることなく、するりと藤堂の目の前に姿をさらしてしまった。
「やっ……!」
「うわ……これは……クるなぁ……」
 くっと喉を鳴らす音がして、冬夜が手で触れていた藤堂のそれが、ぐっと質量を増すのを感じた。
「瀬川さん……こんなところまでキレイ……」
 藤堂がそっと手をのばし、人差し指の腹で先端をやさしくこすりあげる。
 先程のキスで溢れていた先走りを塗り広げるように、ねちねちと先端を押されると、それで一気に冬夜のそこが芯を持って勃ち上がった。
 ぷるん、と震えて上を向くそれを見て、藤堂がため息を溢す。
「すっげえ、キレイ。同じ男のものとは思えないな」
 冬夜は色が白いので、確かに、他の男に比べるとそこは白いかもしれないが、そんなところが綺麗な訳がない。
 その上、冬夜のその先端部分はピンク色で、勃起するとさらに色の濃さが増して、なんともいえないいやらしい色になる。
 今まで誰にもそんな風に見せたことがない場所をじっくりと眺められ、冬夜は羞恥に頬を染める。
 舐めていい?と聞かれて、咄嗟に「ダメ!」と答えると、「じゃあ、触るだけ」と言われて大きな手で包み込まれた。
 
 後ろ手で、藤堂の股間に触れさせられたまま腕ごと羽交い絞めにされて、うつ伏せにさせられて腰を持ち上げられる。
 自分の手とは違う感触の、ごつごつとした大きな手のひらと長い指が冬夜の屹立に絡まり、先端をくるりと撫でた後、くびれの部分で輪を作った。
 そのまま表面の皮だけを上下に動かされると、冬夜の口から甘い吐息がこぼれる。
 藤堂の立てるリップ音がひっきりなしに耳をくすぐり、時折はむっと耳を咥えられると面白い程体が跳ね上がった。
「先っぽ、びしょびしょになってる。気持ちいい?」
 低い声が直接鼓膜に流れ込み、ぞくりと体を震わせると、藤堂が己のものを握らせていた手をはずして、冬夜にシーツを掴ませた。
「こっちも、見せて?」
 抵抗する間もなく後ろから腰を高く持ち上げられ、双丘の狭間をむき出しにしようと長い指が尻たぶにかかった。
「やだっ!見る…な!」
 精一杯抵抗しようとするが、屹立をぎゅっと握られて身動きできなくなる。
 明るい室内で、好きな相手にそんな所を見られる恥ずかしさにぎゅっと身を縮めると、「お尻、プルプル震えててかわいい」と笑われた。
 
「んん?!ちょっ……藤堂っ!」
 ヌルン、と、空気に晒されている後ろの孔に、何かが触れる。
 違和感に振り返ろうとするのを、首筋をかぷりと噛まれて阻止され、驚いてシーツを掴んだところで、何かがそこに差し込まれた。
「あ……なに?!」
 キチキチと体内に入り込んでくるものを追い出そうと、体が反射的にいきむ。
 すると、意図するのとは全く逆に、棒状の物が奥までぬくりと差し込まれた。
「や……痛っ……」
 ぎゅっと体をすくめ、両手でシーツを握りしめると、こめかみから耳の後ろにかけて、藤堂の唇がこれでもかという程降り注ぐ。
「口、少し開けて」
 言われるがまま口を開くと後ろが緩んで、差し込まれたものがぬくり、ぬくりと出入りするのがわかった。
「ここ、小さいね……。俺の、入るかな……」
 差し込まれたのが藤堂の指だとわかったのは、興奮しきってかすれる藤堂の声が耳に注ぎ込まれたからだ。
 まるでセックスをしているように、藤堂の長い指が冬夜のそこに出入りするのを感じる。
 気持ちよくはない。圧迫感がひどくて、どちらかといえば気持ち悪い。

「すごく、キレイでやらしいな。ピンク色の口が、俺の指、飲み込んでる……」
 いつの間に用意していたのか、藤堂はローションを手に取り、冬夜の狭間にトロトロとそれを垂れ流す。
 途端に滑りのよくなった指が、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて出入りするのがいたたまれなくて、冬夜は枕を抱え込んで、深く顔をうずめた。
 前を擦るリズムと、後ろに突き入れるリズムを微妙にずらされるのが気持ち悪く、ぎゅうっと肛門を締めると藤堂が驚いて指を引き、それから笑ってまた差し込んできた。
「藤堂、いやだ……」
「んー?気持ちよくない?」
「前と、一緒にやって……ずれてると、気になる……」
 了解、と笑って、後ろに突き入れられた指が、屹立に触れる手と同じリズムを刻み出す。
 ゆるり、ゆるりとむずがゆいような何かが生まれて、冬夜を支配し始めた。

「んんっ……ダメ……と…どう」
「ん。イキそう?」
「も、イキ…そうっ……だから……」
 なんとかして欲しい、と藤堂にねだる。
 最後の瞬間は目の前に見えているのに、もう一歩が届かない。
「どうして欲しい?」
 余裕で尋ねてくる男が憎らしい。
「お願い……もっと強く、擦ってっ……」
 枕に額を擦り付け、切なくそう願うと、男が笑う気配がした。
「エロいね、瀬川さん。お尻いじられながら、イっちゃうんだ……」
「ばっ……誰のせ……いっ、あっあああっ……」

 パン、と何かが頭の中で弾けた瞬間、藤堂の大きな手に包まれた冬夜の屹立が、叩きつけるように激しく熱い飛沫を吐き出した。
 二度、三度とびくびく痙攣を続けながら精液をまきちらす冬夜を、藤堂が興奮した目で見つめているのがわかる。
 耳に、自分の鼓動がバクバクと響き、荒くなった呼吸が体全体を支配する。
 ゆっくりと後ろを振り返ると、興奮のあまり目尻ににじんでいた涙を、近づく藤堂の唇が吸い取った。
 ちゅぷ、と音を立てて、差し込まれた指が抜き去られる。
 冬夜が吐き出した劣情を全て手のひらで受けた藤堂は、何故だかそれを、嬉しそうに眺めていた。
「見るなっ!そんなの!」
 枕元のボックスティッシュを引き寄せ、何枚かを引っこ抜いて慌てて藤堂の手の上にかぶせる。
 証拠隠滅だ!とゴシゴシ擦ろうとすると、さっと藤堂の手が逃げていった。
「早く拭けよ!」
「ダメ」
「なんでっ!気持ち悪いだろ?!」
 そんなものを大事に抱えていて、良い事はひとつもない。
 いたたまれないから、早く拭き取って欲しい。
 恥ずかしさに頬を染めて冬夜が睨み上げると、藤堂がニヤニヤと笑っている。
「なんだよ?!」
「いや。瀬川さん、男だったんだなーと思って」
 これ見て、実感した、と、藤堂が手のひらをティッシュで拭った。

「男に決まってるだろ?!だから萎えるって言ったのに!」
 藤堂の言葉に、やっぱり男なんてダメだったんだ、と、興奮が一気に冷めていく。
 なんだか悲しくなってぷいと顔を背けると、藤堂が笑って冬夜の手を引く。
「萎えてないって。触ってみて」
 導かれるまま、先程と同じ場所に手を触れさせられる。
 その場所は、先程と変わらず……むしろ、先程よりさらに硬く張り詰めている気がする。
 冬夜がホッとするのと同時にぐっとそこを押し付けられて、かあっと顔が赤くなるのがわかった。
「と……藤堂……。これ……かたい……」
「うん。なんとかして?」
「な……なんとか……って」
 同じ男なら、これがツライこと、わかるでしょ?と下からのぞき込まれて、キスされる。
 どうすればいいのかと固まっていると、「直接触って」と藤堂に強請られる。
 戸惑いながら、スウェットのズボンと下着をひっくるめて下へずらすと、引っかかりながら勢いよく藤堂のものが飛び出して来た。
 手を伸ばして少し強めに握ると、ぴく、と藤堂のそれが動く。
 自分のものとは違う形と大きさ、それに硬さに感動して「ふあ……」とうっかり感嘆の声を漏らしてしまい、藤堂に笑われた。
「そのまま、そうしてて」
 両手を添えて包み込むようにすると、藤堂がそこへ自身を強く押し付けてくる。
 頭を抱え込まれ、荒々しく唇を奪われると、もう何が起こっているのかわからなくなった。
 
 ギッギッとベッドが規則的に軋む音が耳に響く。
 藤堂は激しく腰を蠢かせながら、器用に冬夜の唇や舌を翻弄する。
 先走りで滑りの良くなった屹立を手で包みながら、固く閉じていた目をうっすらと開けて盗み見ると、情欲に濡れて燃えるような目をしている藤堂と視線がぶつかった。
 
 本当にセックスしてるみたいだ……。
 
 冬夜を食らいつくしそうな程激しい男の視線に耐えきれず、ぎゅっと目を閉じると、抗議するように舌を強く吸われた。
 きゅん、と体の中心からせつない疼きが沸き上がり、先程果てたはずのその場所が、再び力を持って頭をもたげてくるのがわかる。
 男の動きが早まり、ああ、イクんだなとわかって、それを促すために包み込んでいた手を上下に動かすと、びくん、と震えた体が次の瞬間動きを止めて、熱い飛沫を冬夜の手に吐き出した。
「う……はっ……」
 体をしならせ、冬夜に自身を押し付けながら果てる男の姿に、ぞくり、と体が震えた。
 はあはあと呼吸を荒げながら、冬夜の頭に頬をすり寄せ、藤堂は満足そうにあちこちにキスを降らせる。
 吐き出された男の精液が愛しいなんて、どうかしてると思う。
 けれど、これを受け入れてみたかった、とありえない事を思う自分を嗤う気は起こらない。
 さっき、藤堂が冬夜の吐き出したものを見ていた気持ちが、なんとなくわかった気がした。

「瀬川さん、手……」
 濡れてべとべとになった手を、藤堂がティッシュで拭っていく。
「ごめん。気持ち悪かった?」
 聞かれて、首を横に振る。
「……入れなくて、よかったの?」
 てっきり最後までするつもりなのだと思っていたが、藤堂はそうしなかった。
 やはり、男のあんな所を使うのは抵抗があったのだろうか。
 冬夜の不安を見て取ったのか、藤堂にきゅっと抱き締められる。
「瀬川さんが、慣れてからにしよう。怖いだろ?」
 その言葉で、藤堂が冬夜を気遣ったのだとわかり、思わず腕を回してすがりつく。

 好き。本当に藤堂が好き。
 やさしいこの男が、こんなにも好きだ。

「どうしても入れて欲しいっていうなら、すぐ復活するけど、どう?」
 からかうようにそう言われて、思わず藤堂を突き飛ばす。
 ベッドの上で笑いながら冬夜を見つめる藤堂に、やっぱり好きだ、という気持ちが溢れそうになって、冬夜は思い切り枕に顔をつっぷした。
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