メイドな悪魔のロールプレイ

ガブ

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十四話

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14話



「面白い子たちだったなあ」

暗い暗い森の中、セーラー服を着た少女–––カレンが鴉色のポニーテールを揺らして、道無き道を歩んでいた。
大地を照らすはずの暖かな日差しは生い茂った木々に阻まれていて、その光源がないため彼女の細かな表情を伺うことはできない。

(……それにしても、アレが災厄の悪魔だなんて到底思えないなぁ。可愛いし、私のことを全く警戒してなかったし)

カレンはこの世界に召喚された際、3つの能力を会得していた。
1つ目、〈身体能力強化《フィジカルアップ》〉。
名前の通り、身体能力を強化する。完全にイアの〈脚力上昇〉などの上位版だ。
2つ目、〈大賢者全てを知るもの〉。
これは〈未来視〉や〈過去視〉などのさまざまなスキルが組み合わさったことで成ったスキルである。
そして3つ目、〈勇敢者ブレイバー〉。
これは〈可能性〉を与えるスキルである。いわゆる才能の付与だ。魔法や剣技、勉学や運動、その全てにおいて彼女は才能を持ち合わせていた。

つまり、ぶっ壊れキャラである。

「うーん、情報によるとここら辺にあるはずなんだけどなぁ……」

カレンは地図とにらめっこしながら、辺りをキョロキョロと見回していた。

–––そうこうすること30分ほど経ち、彼女はため息を吐いてその場に座り込んだ。
天然の腐葉土が彼女の服に付着するが、気にしていないようだ。

「はぁ……。本当に可愛い子たちだったなぁ。青髪の美少女悪魔メイドに、なにやら深い事情を抱えてそうな薄幸美少……年、あとは魔物だけど人の姿をしている美女さんかー。……どうやったらあんな濃いメンツが揃うんだろ」

カレンは空間魔法第1楷位〈インベントリ〉を発動させ、なかから水筒を取り出した。

「……うん、やっぱりこの世界の水は美味しくないな」

ゴクゴクと喉を嚥下させたあと、口元から水筒を離して彼女はそう呟いた。
そして再びインベントリを開き、その中に水筒を放り投げた。

「さてと。もう少し頑張ろうかなー」

カレンは立ち上がり、服に付いた葉っぱを払った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


あのお騒がせ勇者が去った後、私たちの馬車は何にも足を取られることなく順調に街道を進み、無事帝国の入場門に着くことが出来た。

ちびっ子メイド……ではなく可憐で大人っぽいメイド–––つまり私だ!–––が馬車を引いてきたことに驚いたのか、列に並んでいた人たちが信じられないようなものを見るような目で見つめてきたが、そんなもの無視無視。

軽く睨みを効かせると、全員すぐさま目を逸らしてきた。情けないこの上である。

さてと、流石は大国。入場門には数えるのが億劫になるほどの人数が並んでいた。これだけの数となると……、入国手続きが出来るようになるのは明日ですかね。

「ご主人様。この調子ですと入国審査は明日以降になりそうです」
「……まあそうだろうな。ここは実力主義、就職なんかに種族は関係ないと名高い帝国の首都だ。一日待っただけで入れるのも珍しいんだぞ?」
「左様ですか……。うーん、面倒くさいですね。ご主人様、ご主人様に協力してくれそうな人に連絡取れないんです?帝都に居るんですよね?」

私がそう聞くとご主人様は眉をひそめて嫌そうな顔をした。ああ、殴り飛ばしたくなる顔ですね。

「……あるにはあるが、それではヤツに貸しを作ることに……」
「どうせこれからたくさん借りを作るのでしょう?今更では?」
「……まあそれもそうか」

ご主人様はやれやれみたいな手振りをしたあと、なにやら呪文のようなものを唱えた。

「……あーあー、聞こえるか。ジーク。僕だ、ノアだ」

ご主人様は自身の耳に手を添えて、ボソボソと喋り出した。……念話か何かな?うーん、ご主人様がひとりでに喋り出した!ついに壊れてしまったのですね……って揶揄いたいけれど、真面目そうな雰囲気になってるし、やめておこうか。
そんなことを思っていると、ご主人様はじとっとした目をこちらに向けてきた。

「一応真面目な話だ。揶揄ってくれるなよ?……一応お前にも回線は繋いでおく」

ご主人様はエスパーでも使えるんですかね?まさか私の考えが読み取られるとは……。

「かしこまりました」

内心が顔に出ないように、表情が無になるよう努めて、そう返事をした。

「……おいリヴ、聴こえていないのか?……おかしいな、いつもなら寝てても飛び起きて返事をしてくれるはずなんだが……」
「……ご主人様、かけてる相手を間違えていらっしゃいませんか?」
「……僕がそんなミスを犯すとでも?」
「はい」
「あれ、なんか心配になってきたぞ……」

ご主人様は慌てたような素振りを見せて、リヴという人物に必死に念話で呼びかけている。……連絡帳みたいなものはないんですかね?

「……出ないな。仕方ない、切るか–––」
『…………本当に、ノアか?』

ご主人様が念話を切ろうとした瞬間、どこからか泣いたあとのような少し掠れた声が聞こえた。

「ッ!リヴ、聴こえてたなら返事を……」
『……すまない。本当にノアかどうかの真偽が付かなかった』

まあ、それもそうだろうね。ご主人様の国は既に滅びていて、普通ならば滅びた国の人など死人扱いになる。
そんな人物から突然念話が届いたのだ。疑うのは当然だろう。

『……いまからそっちに行く。そこで待ってろ』
「……え?ちょ、おい」

プツッという電話が切れたような音が聞こえた。……念話が切れたのだろう。
それと同時に、ご主人様の大きなため息が聞こえた。

「……そういえばご主人様。その協力者って、どのような人なのですか?」

ふと思い出したように私が問うと、ご主人様は帝都の壁の方を強い瞳で見つめた。

「この国–––リュトゥーア帝国の次期皇帝になる事が既に決まっている、第二皇子リヴ・ルア・フォン・リュトゥーアだ」

亡国の皇子であるご主人様の友人だから、ある程度地位のある人だとは思っていましたかが……、まさか皇太子とは思っていませんでした。正直ビックリ。

「……そんな立場の人がこんなところにやって来るなんて、大丈夫じゃありませんよね?」
「ああ、そうだな。アイツのことだ。認識阻害のローブでも被って来ると思うが……」

そう言うと、ご主人様は馬車から降りてきて、私の隣に立った。いきなりどうしたんでしょう。

「馬車の中にいたら気づかれにくいだろう」
「左様ですか」

そんなこんなで私は周囲を警戒しながら、ご主人様は間抜け面でボーッと突っ立って居ながら、ご主人様の友人であるリヴという人物が来るのを待った。
……アルジェント、


〈【気配感知】のレベルが5→6に上昇しました。【予測】のレベルが2→4に上昇しました。【分身】のレベルが1→3に上昇しました》

大凡10分ぐらいが経過した頃だろうか。私の〈気配感知〉に、"気配を持たない気配"つまり、隠蔽された存在が引っかかった。
ご主人様の言った通り、〈認識阻害〉が付与されたローブを着て来たようだ。
ちなみにこれを感知できた理由は、気配のない空間–––つまり空白を見つけるように分身体も使って気配を探っていたからだ。

「ご主人様、リヴ様と思わしき人物を発見致しました。如何されますか?」
「……どこだ?」
「おっと、失礼しました。あちらの城壁の上で御座います」

私はちらりと視線だけをそこへ向ける。どうやらご主人様も見つけられたようだ。
認識阻害は他人に気づかれにくくなるだけで、一度気づかれて仕舞えばその意味はなくなってしまうのだ。

私は視線を元の場所へと戻し、リヴと思われる人物の気配の動きを注視した。
こちらを見つけられていないのかな?と、思った次の瞬間、その気配が動いた。なんと、100メートルくらいあるであろう城壁から、飛び降りたのだ。

ご主人様の横顔をちらりと見ると、あれが普通だと言わんばかりに、平常通りの顔をして飛び降りたリヴと思われる人物を見つめていた。僅かながらその顔には嬉しさが隠れ見えていた。

「ご主人様、あの人物は貴方様のご友人であられるリヴ様で間違いありませんか?」
「……ああ。あれは、リヴだ。魔力の色が、質が、アイツのだ」

ご主人様はこちらに向かって走って来ている人を、懐かしいものを見るような瞳で見つめていた。口元に、小さく笑みを浮かべて。

……ご主人様、大層な愚痴を言っていましたが……、仲が良いゆえの愚痴ということでしょうかね。

–––それから数分も経たないうちに、私たちの目の前にローブを着た人物–––リヴさんが立ち止まった。正確には、ご主人様の目の前に。

「…………」
「…………」

二人は無言で見つめ合う。ご主人様は不安げな表情で。リヴさんの表情はフードのせいでよく見えない。

「……あの……」

そう声をかけようとしたご主人様にリヴさんが–––静かに抱きついた。

「無事で、良かった……」
「……!」

何だよ、と言いたげな表情をしたご主人様だったが、その言葉を聞いた瞬間その表情は一転して、泣きそうな顔へとなった。
さて、周りに注目されないために隔離空間でも作りますか。
私は使い道がなく余っていたスキルポイントを空間魔法に適当に振り、レベルを上げた。

〈スキルポイントを5消費して、【空間魔法】のレベルが3→8に上昇しました。
【空間魔法】のレベルが4に上昇したことにより、第9階位【空間隔離】を獲得しました。
【空間魔法】のレベルが8に上昇したことにより、第8階位【座標設定】を獲得しました〉

おお、早速求めていたのが来ましたね。私は内心でそう喜びながら、この空間を【空間隔離】によって隔離する。
隔離された空間は、「そこに自分たちは居るが居ない」という矛盾をつくりだす。
まあ簡単に言えば見えないし触れないがそこにいる。そして突然現れても違和感を誰も感じない。そんな魔法だ。
しかし階級が低いく、さらに私の魔力の総量も低いので、そこそこの腕のある魔法使いには簡単に見破られてしまうだろう。
まあ、今は問題ないだろう。

「–––本当に、無事でよかった……!」

リヴさんは鳴咽の声を漏らしながら、力強くご主人様を抱きしめていた。
ご主人様も静かに涙を流して、「すまない。心配をかけた」と言ってリヴさんを力強く抱きしめている。

ふむ、熱い男の友情というやつですかね。よし、ここは……

「ご主人様、良かったですね……!私、猛烈に感動しています」

と大粒の涙を流しながら私は二人のハグを見ることにした。

〈スキル〈作り泣き〉を獲得しました〉

……空気読めないアナウンスですね。
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