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十八話
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18話
「アルジェントを神獣に祀り上げる、それに関しては許可を出します。それで、二つ目の要求はなんでしょうか?」
「それを言う前に、一つだけ聞きたいことがあるのだが」
ラフィニアさんは一息つき、ご主人さまを一瞥してから再び口を開いた。
「ノア坊が復讐を誓ったというのはどの神だ?」
そう言うとラフィニアさんは、機嫌がいいのか目を細めて笑みを浮かべた。
ラフィニアさんは恐らくもう、予想はついているんだろう。本当に人間とは思えない洞察力だ。
……ご主人さまが復讐を誓ったという神。いま私が持ち合わせている情報の全てを照合して考えると、その神の名前は––
「––円環龍ウロボロス。死と再生……つまり転生と、不老不死を司っている神獣ですね。
先程ラフィニアさんが仰られた、聖国の神獣です」
いくら神とはいえど「人間」の輪廻転生に手を出すには、それこそ全知全能とまではいかなくても死を司る程度の力は必要だ。
そしてそれに該当するこの世界の神は、ウロボロス以外にありえない。
「––ふふふ、やはりそうであったか。そうであろうな。そうでないとおかしい」
何がおかしいのか、今度は愉快愉快といった様子でくつくつと笑うラフィニアさん。
ウロボロスに、ご主人さま関連とはまた別の因縁があるのだろうか。
「二つ目の要求はこれだ。––聖国を跡形もなく滅せ。ついでにウロボロスも、な?」
ラフィニアさんは、お前ならばできるだろう?と言わんばかりの期待のこもった目を向けてきた。
「なっ、いくらなんでもそれには無理がある!今の彼女では、国を滅ぼせても髪を滅ぼすことは不可能だ!」
そんなイヴさんの予言を聞いて、ご主人さまは目を伏せ、ラフィニアさんは先ほどまでと変わらない笑みを浮かべている。
……たしかにイヴさんの言う通り、今の私では神を滅ぼすことは不可能だ。
そう。今の私では不可能なだけだ。
「ふふ、何をおっしゃるんですか?イヴさま。多少の準備は必要ですが、私でも神は滅ぼせますよ」
だから、ご主人さまは心配そうな顔をして私をみなくていいんだ。
ただ一言、私に告げてくれればいい。
「……ノア。彼女がむざむざ殺されたくなければ、契約者権限で止め––」
「––イヴ。少し黙れ」
あっけからんとした様子でご主人さまはイヴさんを手で制し、真っ直ぐと私を見つめてくる。
ご主人さまに手で制されたイヴさんは、目を見開いてから顔を歪ませ、口を噤んだ。
きっとイヴさんは、ご主人さまがただただ心配だったのだろう。
私を失わせることではなく、私を使って国を滅ぼさせることが。
私と言う悪魔は、いわばご主人さまの「力」だ。
つまり私が人を殺せば、ご主人さまが人を殺したということに等しい。
だけどね、イヴさん。もう遅いんだよ。遅すぎたんだよ。
ご主人さまが私を召還してしまった時点で、もう手遅れだったんだよ。
「イア。できるんだな?」
「ええ。少し時間を頂ければ」
私は片膝を床につき、ご主人さまにこうべを垂れる。
「––ですから、御命令を。ご主人さま」
「––」
何かを堪えるような表情をしているイヴさん。
余裕のある笑みを浮かべていながらも、どこか心配そうにご主人さま見つめているラフィニアさん。
そして、完全に空気と化している旦那さんとアルジェント。
そんな彼らを何かを決心した眼差しで一瞥してから、ご主人さまは口を開いた。
「––イア」
「なんなりと」
ああダメだ。笑みを、抑えきれない。
「聖国を滅ぼせ。そして、ウロボロスを殺せ。全ては、僕のために!邪魔する奴に遠慮はいらない。全て殺せ!!」
私は顔を上げて、牙をむき出しにしてニィィと獰猛な笑みを浮かべる。
「かしこまりました。私のご主人様。––必ずや聖国を滅し、ウロボロスを殺して見せましょう」
思わず滲み出てしまった〈威圧〉に加え、悪魔を象徴する黒い瞳と赤い瞳孔。
そして頭に生えた禍々しい二本のツノを見てしまったラフィニアさんの旦那さんは、気絶してしまった。
どうやら悪魔の姿形は人にとってあまりよろしいものではないらしく、一般人ならばこうして気絶してしまうのだ。
イヴさんやラフィニアさんでさえ、笑みを浮かべているが身体を震わさせているのだ。
––さてと、そうと決まればやることはただ一つ。
私はメニュー画面を開き、ログアウトのボタンをポチッと押した。
全ては、お昼ご飯を食べるために。
「アルジェントを神獣に祀り上げる、それに関しては許可を出します。それで、二つ目の要求はなんでしょうか?」
「それを言う前に、一つだけ聞きたいことがあるのだが」
ラフィニアさんは一息つき、ご主人さまを一瞥してから再び口を開いた。
「ノア坊が復讐を誓ったというのはどの神だ?」
そう言うとラフィニアさんは、機嫌がいいのか目を細めて笑みを浮かべた。
ラフィニアさんは恐らくもう、予想はついているんだろう。本当に人間とは思えない洞察力だ。
……ご主人さまが復讐を誓ったという神。いま私が持ち合わせている情報の全てを照合して考えると、その神の名前は––
「––円環龍ウロボロス。死と再生……つまり転生と、不老不死を司っている神獣ですね。
先程ラフィニアさんが仰られた、聖国の神獣です」
いくら神とはいえど「人間」の輪廻転生に手を出すには、それこそ全知全能とまではいかなくても死を司る程度の力は必要だ。
そしてそれに該当するこの世界の神は、ウロボロス以外にありえない。
「––ふふふ、やはりそうであったか。そうであろうな。そうでないとおかしい」
何がおかしいのか、今度は愉快愉快といった様子でくつくつと笑うラフィニアさん。
ウロボロスに、ご主人さま関連とはまた別の因縁があるのだろうか。
「二つ目の要求はこれだ。––聖国を跡形もなく滅せ。ついでにウロボロスも、な?」
ラフィニアさんは、お前ならばできるだろう?と言わんばかりの期待のこもった目を向けてきた。
「なっ、いくらなんでもそれには無理がある!今の彼女では、国を滅ぼせても髪を滅ぼすことは不可能だ!」
そんなイヴさんの予言を聞いて、ご主人さまは目を伏せ、ラフィニアさんは先ほどまでと変わらない笑みを浮かべている。
……たしかにイヴさんの言う通り、今の私では神を滅ぼすことは不可能だ。
そう。今の私では不可能なだけだ。
「ふふ、何をおっしゃるんですか?イヴさま。多少の準備は必要ですが、私でも神は滅ぼせますよ」
だから、ご主人さまは心配そうな顔をして私をみなくていいんだ。
ただ一言、私に告げてくれればいい。
「……ノア。彼女がむざむざ殺されたくなければ、契約者権限で止め––」
「––イヴ。少し黙れ」
あっけからんとした様子でご主人さまはイヴさんを手で制し、真っ直ぐと私を見つめてくる。
ご主人さまに手で制されたイヴさんは、目を見開いてから顔を歪ませ、口を噤んだ。
きっとイヴさんは、ご主人さまがただただ心配だったのだろう。
私を失わせることではなく、私を使って国を滅ぼさせることが。
私と言う悪魔は、いわばご主人さまの「力」だ。
つまり私が人を殺せば、ご主人さまが人を殺したということに等しい。
だけどね、イヴさん。もう遅いんだよ。遅すぎたんだよ。
ご主人さまが私を召還してしまった時点で、もう手遅れだったんだよ。
「イア。できるんだな?」
「ええ。少し時間を頂ければ」
私は片膝を床につき、ご主人さまにこうべを垂れる。
「––ですから、御命令を。ご主人さま」
「––」
何かを堪えるような表情をしているイヴさん。
余裕のある笑みを浮かべていながらも、どこか心配そうにご主人さま見つめているラフィニアさん。
そして、完全に空気と化している旦那さんとアルジェント。
そんな彼らを何かを決心した眼差しで一瞥してから、ご主人さまは口を開いた。
「––イア」
「なんなりと」
ああダメだ。笑みを、抑えきれない。
「聖国を滅ぼせ。そして、ウロボロスを殺せ。全ては、僕のために!邪魔する奴に遠慮はいらない。全て殺せ!!」
私は顔を上げて、牙をむき出しにしてニィィと獰猛な笑みを浮かべる。
「かしこまりました。私のご主人様。––必ずや聖国を滅し、ウロボロスを殺して見せましょう」
思わず滲み出てしまった〈威圧〉に加え、悪魔を象徴する黒い瞳と赤い瞳孔。
そして頭に生えた禍々しい二本のツノを見てしまったラフィニアさんの旦那さんは、気絶してしまった。
どうやら悪魔の姿形は人にとってあまりよろしいものではないらしく、一般人ならばこうして気絶してしまうのだ。
イヴさんやラフィニアさんでさえ、笑みを浮かべているが身体を震わさせているのだ。
––さてと、そうと決まればやることはただ一つ。
私はメニュー画面を開き、ログアウトのボタンをポチッと押した。
全ては、お昼ご飯を食べるために。
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