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第四話

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 私はローレンス。曾祖父の代からの使用人家系の長男。
 生まれた時から使用人として生き、死ぬことが決められていた。
 でもそれに不満を感じたことなんて一度もなかった。
 両親は厳しかったが、それでも愛情を込めて育てられた。
 私が十五歳になり、ロバートソン家で働くようになった日からやり取りは出来ていないけれど、元気にしているだろうか。

 ロバートソン家での日々はとても忙しく、大変なものだった。
 旦那様や奥様、貴族家の人々というのは総じてそういうものなのだろうが、使用人というのは家の歯車の一つでしかない。
 十数年ほど経った今でも彼らからは笑顔を向けられるどころか、労いの言葉ももらったことがない。まあ大して期待していたわけでもないのだが。
 しかし一人だけ、そんな自分の常識を覆した人がいた。

 私の人生が大きく変わったのはロバートソン家にきた日、そして長女エレン様が生まれた日。
 この家では若い使用人に子供の教育を任せる方針らしく、当時唯一の若手だった私は相当苦労した。
 周囲の使用人たちは仕事はできるが厄介ごとには首を突っ込みたくないらしく、お嬢様のことはほぼ自分一人で請け負うことになった。お嬢様の性格が歪んでしまったのはここに原因があるかもしれない、申し訳ない。

 エレンお嬢様はいわゆる天才だった。そして故に孤独であった。
 お嬢様から他人を避けたことは一度たりともない。いつも勝手に離れていくのは身勝手な凡人の自己防衛だ。
 それは当然友人や使用人に限らず、家族も同様だった。
 そういう私も彼女についていけないと思うことは幾度となくあったんだけれども。

 それでも今日まで付き添ってきたのはお嬢様の深い優しさに触れたからに他ならない。
 エレンお嬢様は本当はとても優しいお方だ。感情表現は苦手だがいつでも他人に寄り添おうとしていた。それを少しでも受け取ろうとした人がいたなら、状況は違っていただろう。

 私はエレンお嬢様に一生ついていくと決めた。それはエレンお嬢様が五歳の時、なんて尤もらしいエピソードがあるわけじゃない。日々の発言、行動。いつだって周りのことを考えていた。今は周りの気を引こうとしているのかそれがまるっきり裏目に出ているけれど。
 お嬢様の優しさを誰よりも近くで感じてきた。この方を命をかけて守ると決めた。
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