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ネコとオセロと学校と
29匹目 『怒りの藤夜に抵抗出来るわけ無いじゃない!』
しおりを挟むーーさて、帰宅。
猫宮に貸していたコートを返却させ忘れ、冷気に晒されつつの帰路は正直地獄だった。よって、扉を潜って真っ先にヒーターの電源を入れたのも仕方ないと言うものだろう。
数秒後、熱風を吐き出し始めたヒーターの前で、スマホをいじりNYAINを起動、つい半日前まで真以外誰も登録されていなかったページに新しく追加された『藤夜の告白成功させ隊』と名付けられたグループを開いた。
真っ先に目に飛び込んできたのが、藤夜からの[とっとと連絡寄越せやあいつ……]といった、下手すりゃキャラ崩壊な暴言の数々。
嫌な予感がして少しログを遡れば、時には涙を感じさせながら、時には諦めを孕んだようなーー正直、見ていて不安になってくる情緒不安定なチャット群。
合間にちょこちょこ挟まれる『WwW』というハンドルネームからの合いの手が哀愁を誘うがーーこれの元凶は俺だ。なんでこうも大惨事になったのかは不明だが、取り敢えず、連絡を入れるとしよう。
[すまん、色々やってて遅れた。今なんか進展したか?]
そんな一文を打ち込んだ瞬間、間髪入れずにこう返ってきた。
[…へ? あんた、咲森?]
[ああ]
[……遅いわよー!! 何やってたのあんた!]
[ん、猫宮輸送したり飯食ったり。連絡は完全に忘れてた]
[ひどいでござるなww]
[うるせえ、慣れてねえんだよ]
そもそも交友関係・真 猫宮(機械音痴で携帯未所持) マスター(黒電話しか使えない)な俺がそういうSNSのルールをいきなり守れる訳がない。この告白作戦も巻き込まれただけで、本意では無いし。
だが、まあ。約束を破ったのはこっちである以上、ここは素直に謝っておこう。
[ただ、悪かった。全面的にな]
[…ああもう、良いわよ! それじゃ、とっとと始めるわよ、作戦会議!]
[了解でござるww]
[分かった]
ーーーだがしかし。1日の疲れに染みる熱源の中ーーー俺は、会議に参加する間も無く、微睡みに落ちた。
これは、明日藤夜に怒鳴られるルート確定か? そんな夢を、見た気がした。
◆◇◆
「……許さない」
「すまん」
案の定、という奴だろうか。
昨日よりは暖かい朝、居眠りから目を覚ました俺は、急いで学校への登校を果たしーーそして、教室の入り口で出待ちしていた、藤夜に睨まれていた。
因みに、猫宮は背中に隠れている。藤夜って本性隠す気ないのか?
無口で交流をしない、放課後は一人ですぐに帰ってしまうクールビューティーーそんなイメージがあり、てっきり猫を被っていたのかとばかり思っていたのだが。
「……け、犬斗、誰…っていうか、なに?」
「ああ、まあ……色々だ。お前には関係ないし、席着いとけ」
「う、うん……」
ちらちらと不安そうに振り向きながらゆっくりと席に向かう猫宮を見届けたのち、頭一つ分低い位置から睨みつけてくる藤夜に視線を移した。
「で? なんで昨日何も言わなかった? 弁解を聞いてやろうじゃないの」
「ああ、うん……有り体に言えば、寝落ちだ。悪い」
「……はぁ……昨日も思ったけど、あんた、謝る時に本当に悪いと思ってなさそうなのよ。なんで?」
「なんで、って……」
え、そうなのか?
自分の三人称が良く分かっていない俺は、そんな認識に首を傾げる。
「取り敢えず、こっちに来なさい。続きよ」
「…お、おう」
有無を言わさぬ迫力に、俺だけでなく俺に憎悪を向けていた山田含めた男子生徒群までもが黙りこくる。
そのまま為すがままに引きずられーー三角形に並べられた三つの椅子、一つに草場が座るーーそんな一つに、強制着席の運びとなって。
そして、周囲に、特に真に聞こえないように小音量でーー「それじゃあ、始めましょうか」と、藤夜が言った。
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