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五期ぶりの利益
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会議室では月始めの恒例である営業会議が行われていた。鍬形彰はこの会議の最後に行われる成績発表が憂鬱でたまらなかった。前月の売上高が対象になるのだが鍬形は毎回最下位なので多くの社員からは「最下位は鍬形の指定席」とばバカにされているからだ。
「それでは先月の売り上げ成績を発表いたします」百センチは超えるだろうウエストの体型の宮田常務は「ポン、ポン」と自分の腹を右手で叩きながら近くにいたスタッフにホワイトボードを回転するよう指示した。ホワイトボードの裏面には先月の売り上げ高がグラフで表示されており、一位のグラフはダントツでホワイトボード上部に達していた。
「今月も一位は斉藤秀和」と宮田常務から名前を呼ばれた斉藤は席を立ちホワイトボードの前の宮田常務の前まで行くと、金一封の入った封筒が斉藤に手渡された。斉藤は「どうもありがとうございました」と深々と宮田常務に頭をさげると会議室にいる二十人弱のスタッフたちからいっせいに斉藤に向けての拍手が贈られた。その拍手のなか宮田常務の冷ややかな視線が鍬形に向けられていた。拍手が終わったところでにこやかに微笑んでいた宮田常務の顔が恐ろしい顔に豹変。レンタルショップで借りた昭和の映画、大魔神が右手を顔の前を通過させたときのように怖い顔になった。
定年退職していった先輩たちが、宮田常務のことを大魔神と言っていた頃、大魔神ってどんなものかと知りたくてDVDを借りて観たとき、あまりにもそっくりだったので、あれからはその姿が頭から離れていない。
「言うまでもないが最下位は鍬形彰、毎回言うが、この最下位という会社にとってのは、お荷物の最低の席だ」と怒りに満ちた言葉とともに「だがなぁ、今回は『五期ぶりに利益が』出た」
「えっ、ゴキブリに液が」びっくりした鍬形は後ずさりしながら机に頭をぶつけ倒れ込んだ
周りにいたスタッフは倒れてる鍬形を車座になり心配そうに見つめている。
「誰か、ぬれたタオルを持ってこい」
氷り水に浸したタオルを軽く絞り鍬形の首に巻き付けるように、床にはポタポタと水が落ちている。
「それと救急車の手配もしてくれ」
鍬形は朦朧としながらもスタッフの声が遠くの方から聞こえていたが、身体が金縛りになって起き上がれない。
鍬形抜きに会議が始まっていた。
「我々が人間たちに怖がれているのはなぜなんだ?」
「身体全体が黒光りしているからでしょうか?」他のスタッフからは
「身体の色ではないと思います。カブト虫は我々と同じような色をして頭に角があるだけで、子供たちには大人気ですよ」
倒れている鍬形の目から見える多くのゴキブリたちの触覚を小刻みに揺らしながら、あれこれ人間に怖がれなくするにはどうしたら良いか話している。その時だ、ゴキブリたちの触覚が凍り付いたように「ピタッ」と止まった。
「お前らは誰だ」宮田常務に似た太ったゴキブリが頭上に現れた得体の知れない透き通った人間たちに叫んだ。
「お前らゴキブリのおかげで、わたしたちの商売はあがったりだ」
「商売ってなんだよ、お前ら人間じゃないのか?」
「そうだよ、お前らゴキブリが縄張りを荒らす前は、我々が人間を怖がらせていたんだ」
ゴキブリらが彼らの足元を見ると足がない。
「そうか、お前らは幽霊なのか」
「そうさ、俺らは人間を怖がらせて楽しんでいたのに、お前らゴキブリが現れる様になってからは、活躍できる場所がなくなってしまったんだ」
幽霊のボスが他の幽霊たちに命じた。
「こいつらゴキブリに液をかけろ」
「わぁー、冷たい」鍬形は首の周りが冷たくなり飛び起きた。
「宮田常務、鍬形のが覚めました」とスタッフが報告している。
会議室を出る鍬形の背中を営業部長の八巻が「ポン」と叩きながら
「おまえは毎回最下位で悔しくないのか」と励ましとも思える諦めの声をかけてきた。八巻は、鍬形がこの会社に入社したときから色々と指導してくれた大先輩、陰ながら応援してくれているのは身体で感じていたが、やることなすこと、いつも空回りの鍬形にとって結果が出せないことがとても辛かった。
「来月は死に物狂いで頑張ります」と鍬形はトイレに立ち寄り洗面台に移る自分の姿形をみてぞっとした。身体全体が黒光りしてゴキブリの様に、一つ違う点はクワガタムシの様に頭の上から角の様なするどいはさみが付いていた。
「それでは先月の売り上げ成績を発表いたします」百センチは超えるだろうウエストの体型の宮田常務は「ポン、ポン」と自分の腹を右手で叩きながら近くにいたスタッフにホワイトボードを回転するよう指示した。ホワイトボードの裏面には先月の売り上げ高がグラフで表示されており、一位のグラフはダントツでホワイトボード上部に達していた。
「今月も一位は斉藤秀和」と宮田常務から名前を呼ばれた斉藤は席を立ちホワイトボードの前の宮田常務の前まで行くと、金一封の入った封筒が斉藤に手渡された。斉藤は「どうもありがとうございました」と深々と宮田常務に頭をさげると会議室にいる二十人弱のスタッフたちからいっせいに斉藤に向けての拍手が贈られた。その拍手のなか宮田常務の冷ややかな視線が鍬形に向けられていた。拍手が終わったところでにこやかに微笑んでいた宮田常務の顔が恐ろしい顔に豹変。レンタルショップで借りた昭和の映画、大魔神が右手を顔の前を通過させたときのように怖い顔になった。
定年退職していった先輩たちが、宮田常務のことを大魔神と言っていた頃、大魔神ってどんなものかと知りたくてDVDを借りて観たとき、あまりにもそっくりだったので、あれからはその姿が頭から離れていない。
「言うまでもないが最下位は鍬形彰、毎回言うが、この最下位という会社にとってのは、お荷物の最低の席だ」と怒りに満ちた言葉とともに「だがなぁ、今回は『五期ぶりに利益が』出た」
「えっ、ゴキブリに液が」びっくりした鍬形は後ずさりしながら机に頭をぶつけ倒れ込んだ
周りにいたスタッフは倒れてる鍬形を車座になり心配そうに見つめている。
「誰か、ぬれたタオルを持ってこい」
氷り水に浸したタオルを軽く絞り鍬形の首に巻き付けるように、床にはポタポタと水が落ちている。
「それと救急車の手配もしてくれ」
鍬形は朦朧としながらもスタッフの声が遠くの方から聞こえていたが、身体が金縛りになって起き上がれない。
鍬形抜きに会議が始まっていた。
「我々が人間たちに怖がれているのはなぜなんだ?」
「身体全体が黒光りしているからでしょうか?」他のスタッフからは
「身体の色ではないと思います。カブト虫は我々と同じような色をして頭に角があるだけで、子供たちには大人気ですよ」
倒れている鍬形の目から見える多くのゴキブリたちの触覚を小刻みに揺らしながら、あれこれ人間に怖がれなくするにはどうしたら良いか話している。その時だ、ゴキブリたちの触覚が凍り付いたように「ピタッ」と止まった。
「お前らは誰だ」宮田常務に似た太ったゴキブリが頭上に現れた得体の知れない透き通った人間たちに叫んだ。
「お前らゴキブリのおかげで、わたしたちの商売はあがったりだ」
「商売ってなんだよ、お前ら人間じゃないのか?」
「そうだよ、お前らゴキブリが縄張りを荒らす前は、我々が人間を怖がらせていたんだ」
ゴキブリらが彼らの足元を見ると足がない。
「そうか、お前らは幽霊なのか」
「そうさ、俺らは人間を怖がらせて楽しんでいたのに、お前らゴキブリが現れる様になってからは、活躍できる場所がなくなってしまったんだ」
幽霊のボスが他の幽霊たちに命じた。
「こいつらゴキブリに液をかけろ」
「わぁー、冷たい」鍬形は首の周りが冷たくなり飛び起きた。
「宮田常務、鍬形のが覚めました」とスタッフが報告している。
会議室を出る鍬形の背中を営業部長の八巻が「ポン」と叩きながら
「おまえは毎回最下位で悔しくないのか」と励ましとも思える諦めの声をかけてきた。八巻は、鍬形がこの会社に入社したときから色々と指導してくれた大先輩、陰ながら応援してくれているのは身体で感じていたが、やることなすこと、いつも空回りの鍬形にとって結果が出せないことがとても辛かった。
「来月は死に物狂いで頑張ります」と鍬形はトイレに立ち寄り洗面台に移る自分の姿形をみてぞっとした。身体全体が黒光りしてゴキブリの様に、一つ違う点はクワガタムシの様に頭の上から角の様なするどいはさみが付いていた。
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