二度目の人生は氷の騎士様と歩む

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第1話:断罪と再誕

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鉛色の空が私の未来を映すように重く垂れ込める。冷たい石畳の上私は微動だにせず、ただその時を待っていた。群衆の怒号が耳朶を打つがもはや何の感情も湧かない。罵声と共に投げつけられる石や泥も乾いた皮膚の上を滑り落ちるだけ。私の心はとうに冷え切ってしまった。恐怖は幾度となく裏切られ絶望に突き落とされるうちにとうに摩耗し消え失せていた。

視線を上げた先には木製の処刑台。そのすぐ傍らに立つ憎き二つの影。私の妹リリアーナそしてかつての婚約者、この国の王太子。彼らは寄り添い勝利を確信したような薄ら寒い笑みを浮かべていた。リリアーナの可憐な顔に張り付いた天使のような笑顔。それは私を地の底へ突き落とすため周到に準備されたものだった。王太子の傲慢さと薄情さを隠そうともしない得意げな顔。この男に私は全てを捧げたというのか。

その偽善に満ちた笑顔を見た瞬間これまで押し込めていた最後の絶望と過去への激しい後悔が津波のように押し寄せた。ああなぜもっと早く気づけなかったのだろう。なぜあの甘い言葉に騙されあの瞳の奥の欺瞞を見抜けなかったのだろう。愚かだったあまりに愚かだった。

「もしやり直せるのなら――」

心の底からの掠れた願いが誰に届くともなく脳裏をよぎる。それは諦めにも似た純粋な最後の叫びだったのかもしれない。

その途端首元に身につけていた祖母から贈られた古いペンダントが熱を帯びたように微かに光を放った。幼い頃から肌身離さず身につけていた何の変哲もないはずの銀の飾り。その瞬間確かに温かい光が胸元から溢れ出したように感じられた。

次の瞬間ひやりとした冷たい感触が首筋を走る。鈍い金属の音と共にギロチンの刃が振り下ろされる衝撃。あまりにも現実離れした感覚に私の意識は途切れた。世界は深い闇に包まれる。

唐突な意識の覚醒。

重い瞼を開けるとそこは見慣れたしかし「あり得ない」場所だった。天蓋付きのベッド柔らかな絹のシーツ。壁には幼い頃私が描いた稚拙な絵が飾られている。全てがあまりにも現実味を帯びていた。

ここは……私の自室だ。

慌てて自らの身体に触れる。細くしかし若々しい手足。処刑台で冷え切っていたはずの体温が確かに脈打っている。夢ではないこれは現実だ。

身体を起こしぼんやりとした頭で壁のカレンダーの日付を確認する。

息が止まった。

そこには紛れもない見覚えのある日付が刻まれていた。私が処刑されたあの忌まわしい日から三年前。まだ全てが始まる前の平和だったはずの日々。

混乱した頭で必死に記憶を辿る。あの処刑台群衆の怒号。リリアーナと王太子の嘲笑。そして首元で熱を放った祖母のペンダントの光。

全てのピースがカチリと音を立ててはまった。

「……時間が巻き戻った……?」

信じがたいしかしこれ以外に説明のつかない現実が目の前に横たわっていた。祖母のペンダントが私の最後の願いに呼応し時間を遡らせたというのか。その力の由来など今はどうでもよかった。重要なのは私があの地獄のような未来からこの三年前の過去へと帰ってきたということだった。

過去に戻れた喜びと同時に押し寄せるあの処刑の記憶。冷たい刃が首筋を走る感触。裏切られた憎しみ。身体中の震えが止まらない。私はベッドから飛び降りふらつく足で書斎へと向かった。

震える手でペンと紙を取り出す。

「今度こそ運命を変えてみせる」

私の瞳に強い光が宿る。それは恐怖や後悔ではない。過去の過ちを繰り返さないという確固たる意志と未来への覚悟だった。

ペン先を走らせる。一度目の人生で起こった重要な出来事私を陥れた策略関わった人物の名前。記憶が鮮明なうちに全てを書き残さなければならない。**「未来の年表」**として箇条書きで必死に書き出し始める。

国王の病。リリアーナが手に入れるはずの魔道具。王太子の不正。社交界でのスキャンダル。
……そして私の処刑。

書き殴る文字に私の決意とこの限られた時間を最大限に活用しようとする焦燥が滲み出る。この未来の年表こそが私が二度目の人生で戦うための唯一の武器となるだろう。

私はもう「悪役令嬢」エレオノーラではない。過去の過ちを清算し自らの手で未来を切り開く新たなエレオノーラなのだ。この紙の上の文字は決して覆らない未来を指し示すものではない。それは私がこれから描き換えるべき新しい運命の設計図なのだから。
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