二度目の人生は氷の騎士様と歩む

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第2話:運命の選択と“氷の騎士”

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三年前の自室に戻ったあの日からエレオノーラの悪夢は終わらなかった。ベッドに横たわるたび処刑台の冷たい感触群衆の怒号そしてリリアーナと王太子の嘲笑が鮮明にフラッシュバックする。過去の傲慢な自分が招いた当然の報いだと頭では理解している。しかし同じ過ちを繰り返すことへの焦燥感が彼女の心を常に締め付けた。このままではいけない。何としてでも運命を変えなければ。

未来の年表を前にエレオノーラは思案を巡らせる。一度目の人生で自分を断罪した者たちに対抗しうる人物は果たして宮廷に存在するのか。思い浮かぶ顔ぶれは誰もが私情や派閥に囚われ真の公正さとは程遠い。だがただ一人だけ異質な存在がいた。「氷の騎士」ことダリウス騎士団長。彼は私情を挟まず法と秩序を絶対とする男だった。一度目の人生では彼こそが一切の情け容赦なく私を断罪した人物。彼への憎しみとそれでも彼だけが信じられるという奇妙な信頼の狭間でエレオノーラの心は激しく葛藤した。しかし運命を変えるためには彼の力が必要不可欠だと彼女は結論付けた。

昨夜の夜会での出来事がその決意をさらに後押しする。王太子が珍しくエレオノーラに話しかけてきたのだ。内容は何気ない世間話だったがその瞳の奥に宿るどこか不自然な優しさにエレオノーラは違和感を覚えていた。まだ具体的な動きはないもののリリアーナと王太子が既に何かを仕掛けようとしている気配を肌で感じた。一刻も早く行動しなければ再び同じ悲劇が繰り返される。震える指でエレオノーラは騎士団への謁見を申し込む書簡をしたためた。

謁見の申し出は騎士団内をざわつかせた。高慢な「悪役令嬢」として名を轟かせているエレオノーラがなぜ騎士団長に謁見を求めるのか。不審がる視線を背中に感じながらエレオノーラは謁見の間へと足を踏み入れた。

広々とした執務室の中央に立つ一人の男。それがダリウス騎士団長だった。黒曜石のような瞳引き締まった口元そしてピンと伸びた背筋はまさに「氷の騎士」という異名にふさわしい。一度目の人生での接点はあの断罪の場のみ。彼の冷徹な視線がエレオノーラを値踏みするように向けられると彼女の身体は無意識のうちにすくみ上がった。しかしここで怯むわけにはいかない。エレオノーラは決意を固め静かにしかしはっきりと切り出した。

「騎士団長私は未来を知っています。そして差し迫った危機を回避するためにあなたのお力が必要です」

ダリウスの表情は微動だにしない。彼の冷徹な眼差しはエレオノーラを射抜くようだった。

「未来を知るか。ずいぶん都合のいい能力だな」

彼の声は氷のように冷たく謁見の間の空気を凍てつかせるようだった。

「…処刑が怖くなって今度は占い師にでもなったのか?」

彼の言葉には侮蔑とエレオノーラの本心を試すような響きが込められていた。普通ならば激昂するか怯えて引き下がるか。しかしエレオノーラはその侮蔑的な言葉にも動じることなく彼の挑戦的な視線を真っ直ぐに受け止めた。彼の瞳の奥にわずかながらも「真実」を求める光が見えた気がしたからだ。

詳細を語らずともこの男に信じさせるには具体的な「証拠」が必要だ。エレオノーラは宮廷内で近々起こるであろうしかし些細な事件の具体的な「予言」を語り始めた。

「明後日の午後王城東側の温室で開かれる茶会の最中に、ある貴族が“落とした”文書がきっかけで密輸の疑いが浮上します。それを拾うのは第三騎士隊のロルフ副隊長――彼はあなたの部下のはず」

エレオノーラの言葉はまるで見てきたかのように具体的だった。日時場所関わる人物の名前そして事件の内容まで。あまりにも具体的すぎるその「予言」にダリウスの表情に微かな動揺がよぎった。眉間には深い皺が刻まれる。彼はエレオノーラの言葉を即座に否定せずその荒唐無稽な内容を脳内で反芻しているようだった。

謁見を終えたエレオノーラは全身から力が抜けるような疲労を感じた。しかしダリウスが自分の言葉を信じてくれることを今はただ祈るしかなかった。彼女は自室に戻ると未来の年表に新たに書き加えるべき項目を思い浮かべ小さく息を吐いた。

一方ダリウスは執務室に戻ってもエレオノーラの言葉が頭から離れなかった。彼女の「予言」の内容はあまりに具体的すぎた。それがもし真実だとしたらただの悪役令嬢が知り得る情報ではない。彼はエレオノーラの言葉に疑念を抱きつつもそのあまりの具体性に無視できないものを感じていた。彼は誰にも悟られないよう静かに部下を呼びエレオノーラの言葉の真偽を確かめるための密命を下した。

執務室の窓からはまだ深い藍色の空が広がっている。ダリウスの脳裏には先ほどのエレオノーラの真っ直ぐな瞳が焼き付いていた。

「俺は公正であることを自分に課してきた。感情に流されず法と秩序を守ることが騎士としての俺の存在意義だ」

彼は独りごちた。

「…だがあの目を見て何も感じなかったとは言えない」

彼の冷徹な表情の奥には前代未聞の「悪役令嬢」の申し出に対する困惑と微かな好奇心そして自身の理性との激しい葛藤が揺らめいていた。彼の長きにわたる騎士としての経験がエレオノーラの言葉の裏に隠された何かを感じ取っていたのだ。二人の運命的な契約の扉が今静かに開かれようとしていた。
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