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第3話:最初の「予言」と揺らぐ信頼
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エレオノーラはダリウスに告げた「予言」が実現する日まで気が気でなかった。その重圧はまるで胸の奥を冷たい手で締め上げられるよう。もしダリウスが予言を信じなければ未来を変えるチャンスは永遠に失われる。手の震えが止まらない。昨夜からほとんど眠れていないせいで目蓋の裏は熱を持っていた。
約束の茶会の日。エレオノーラは王城東側の温室から最も離れた庭園の片隅で結果を待つ。不安と緊張で心臓が破裂しそうだった。もし予言が外れたら? 彼が信じなかったら? その後のことは想像することすらできない。もしこの一度きりの賭けに失敗すれば、再びあの処刑台に立つことになるだろう。彼女の未来視は完璧ではない可能性を示唆していた。「……見えたはずの光景が、少しずつ滲んでいく……私のせい?」以前なら確かに知っていたはずの“結末”が今はどこか曖昧になっている。ただ祈るように時が過ぎるのを待った。
午後の茶会の時間が過ぎようやく静寂が破られた。
間もなく王城東側の温室から女性たちの甲高い悲鳴が響き渡る。その音はガラスが割れる乾いた音と混じり合いエレオノーラの耳に飛び込んできた。直後けたたましい音が城内に響き渡った。騎士団の緊急招集を告げるラッパの音だ。
「っ……!」
エレオノーラの身体に電流が走ったような衝撃が走った。予言が始まった。
その頃ダリウスはまさにその温室の中にいた。茶会の最中突然の騒ぎに人々がざわめく。彼の視線の先に一人の貴族が何かを落とした瞬間隣の男が慌てて手を伸ばす――が、第三騎士隊のロルフ副隊長がそれよりも早く拾い上げた。ロルフの手には数枚の薄い紙束が握られている。
「これは……」
ロルフが目を見開き驚愕の声を上げる。彼が拾い上げた文書は明らかに密輸に関する不正な取引を示唆する内容だった。その瞬間ダリウスの脳裏に謁見の間でエレオノーラが語った言葉が雷鳴のように響き渡る。
「明後日の午後。王城東側の温室。茶会の最中。ある貴族が文書を“落とす”。それが密輸の疑いを呼ぶ――」
「それを拾うのは第三騎士隊のロルフ副隊長――彼はあなたの部下のはず」
エレオノーラの予言の具体的な内容が完璧に一致した。ダリウスは激しい衝撃を受ける。自身の「理性」が目の前の信じがたい現実によって激しく揺さぶられた。これは偶然か? いや、これだけの一致が偶然であるはずがない。だがもしこれが罠だったとしたら――。彼は即座に事態を掌握し冷静な指揮で温室の混乱を収拾した。エレオノーラが事前に提供した貴族の氏名や関わりのある商人の情報が決定的な手掛かりとなりダリウスは事件を迅速に解決に導く。彼の脳裏にはエレオノーラが語った「未来」の言葉が何度も何度も反芻されていた。
事件解決後ダリウスは即座にエレオノーラを自身の執務室に呼び出した。机の上には今回の事件で押収された不正文書が積み重ねられている。彼の表情は普段の氷のような冷静さの中に微かな動揺と困惑の影を宿していた。
「なぜ君はそのような事を知っていた?」
ダリウスは隠すことなく直接的に問い詰めた。彼の視線はエレオノーラの瞳を深く見つめている。それは答えを求める騎士の視線だった。
エレオノーラは慎重に言葉を選ぶ。彼を信じて言葉を選んだ。拒絶されればすべてが終わる――でも今ここで動かなければ未来はまた“あの処刑台”へと繋がってしまう。
「私は一度この目で未来を見たからです」
彼女はそれだけを告げた。そして自身の破滅が近いことそれが宮廷内の深い陰謀によるものであることを仄めかすに留めた。あくまで彼の知的好奇心と公正な判断力を刺激するように。
ダリウスはエレオノーラの言葉を受け止めしばし沈黙した。彼の脳裏には最近感じていた宮廷の小さな異変がよぎっていた。王太子の側近である貴族が普段は顔を合わせないはずの怪しげな商人との接触を頻繁に行っていたこと。それはまだ確証のないただの不穏な気配に過ぎなかった。しかしエレオノーラの予言と今回の事件そしてこの小さな異変が彼の頭の中で一つの線となりつつあった。
「あの貴族が商人と接触していたのはたしか前夜会の直後……その時点で文書の入手が可能だったとしたら――」
ダリウスはエレオノーラの言葉と自身の見聞を論理的に繋ぎ合わせようとしていた。彼の厳格な理性と公正であろうとする揺るぎない信念が目の前の非常識な事実と自身の経験との間で激しくせめぎ合っていた。
エレオノーラの言葉の真実性。それがもたらした事件解決の功績。そしてダリウス自身が感じ取っていた宮廷の不穏な空気。これらの全てが彼の「公正」という信条を強く揺さぶる。彼はエレオノーラが過去の「悪役令嬢」とは異なる計り知れない何かを秘めていると感じ始めていた。彼女は単なる嘘つきの女ではない。
エレオノーラはダリウスの内心の葛藤と彼が証拠に基づいて動く人物であることを理解していた。だからこそ今が決定的な一歩を踏み出す時だと判断した。彼女はさらに踏み込んで協力を持ちかける。
「私を陥れようとする者たちはあなたにとっても看過できない存在となるでしょう。秘密裏に私の協力者になっていただきたい」
ダリウスはエレオノーラから目を逸らすことなく深い沈黙を保った。その沈黙は彼が熟考している証だった。そしてやがてその口から低くしかし確かな言葉が発せられた。
「君の敵の名を知る必要がある」
公正を貫く心が彼女の言葉に答えを求めた。二人の運命的な契約の扉が今静かにそして重々しく開かれようとしていた。
約束の茶会の日。エレオノーラは王城東側の温室から最も離れた庭園の片隅で結果を待つ。不安と緊張で心臓が破裂しそうだった。もし予言が外れたら? 彼が信じなかったら? その後のことは想像することすらできない。もしこの一度きりの賭けに失敗すれば、再びあの処刑台に立つことになるだろう。彼女の未来視は完璧ではない可能性を示唆していた。「……見えたはずの光景が、少しずつ滲んでいく……私のせい?」以前なら確かに知っていたはずの“結末”が今はどこか曖昧になっている。ただ祈るように時が過ぎるのを待った。
午後の茶会の時間が過ぎようやく静寂が破られた。
間もなく王城東側の温室から女性たちの甲高い悲鳴が響き渡る。その音はガラスが割れる乾いた音と混じり合いエレオノーラの耳に飛び込んできた。直後けたたましい音が城内に響き渡った。騎士団の緊急招集を告げるラッパの音だ。
「っ……!」
エレオノーラの身体に電流が走ったような衝撃が走った。予言が始まった。
その頃ダリウスはまさにその温室の中にいた。茶会の最中突然の騒ぎに人々がざわめく。彼の視線の先に一人の貴族が何かを落とした瞬間隣の男が慌てて手を伸ばす――が、第三騎士隊のロルフ副隊長がそれよりも早く拾い上げた。ロルフの手には数枚の薄い紙束が握られている。
「これは……」
ロルフが目を見開き驚愕の声を上げる。彼が拾い上げた文書は明らかに密輸に関する不正な取引を示唆する内容だった。その瞬間ダリウスの脳裏に謁見の間でエレオノーラが語った言葉が雷鳴のように響き渡る。
「明後日の午後。王城東側の温室。茶会の最中。ある貴族が文書を“落とす”。それが密輸の疑いを呼ぶ――」
「それを拾うのは第三騎士隊のロルフ副隊長――彼はあなたの部下のはず」
エレオノーラの予言の具体的な内容が完璧に一致した。ダリウスは激しい衝撃を受ける。自身の「理性」が目の前の信じがたい現実によって激しく揺さぶられた。これは偶然か? いや、これだけの一致が偶然であるはずがない。だがもしこれが罠だったとしたら――。彼は即座に事態を掌握し冷静な指揮で温室の混乱を収拾した。エレオノーラが事前に提供した貴族の氏名や関わりのある商人の情報が決定的な手掛かりとなりダリウスは事件を迅速に解決に導く。彼の脳裏にはエレオノーラが語った「未来」の言葉が何度も何度も反芻されていた。
事件解決後ダリウスは即座にエレオノーラを自身の執務室に呼び出した。机の上には今回の事件で押収された不正文書が積み重ねられている。彼の表情は普段の氷のような冷静さの中に微かな動揺と困惑の影を宿していた。
「なぜ君はそのような事を知っていた?」
ダリウスは隠すことなく直接的に問い詰めた。彼の視線はエレオノーラの瞳を深く見つめている。それは答えを求める騎士の視線だった。
エレオノーラは慎重に言葉を選ぶ。彼を信じて言葉を選んだ。拒絶されればすべてが終わる――でも今ここで動かなければ未来はまた“あの処刑台”へと繋がってしまう。
「私は一度この目で未来を見たからです」
彼女はそれだけを告げた。そして自身の破滅が近いことそれが宮廷内の深い陰謀によるものであることを仄めかすに留めた。あくまで彼の知的好奇心と公正な判断力を刺激するように。
ダリウスはエレオノーラの言葉を受け止めしばし沈黙した。彼の脳裏には最近感じていた宮廷の小さな異変がよぎっていた。王太子の側近である貴族が普段は顔を合わせないはずの怪しげな商人との接触を頻繁に行っていたこと。それはまだ確証のないただの不穏な気配に過ぎなかった。しかしエレオノーラの予言と今回の事件そしてこの小さな異変が彼の頭の中で一つの線となりつつあった。
「あの貴族が商人と接触していたのはたしか前夜会の直後……その時点で文書の入手が可能だったとしたら――」
ダリウスはエレオノーラの言葉と自身の見聞を論理的に繋ぎ合わせようとしていた。彼の厳格な理性と公正であろうとする揺るぎない信念が目の前の非常識な事実と自身の経験との間で激しくせめぎ合っていた。
エレオノーラの言葉の真実性。それがもたらした事件解決の功績。そしてダリウス自身が感じ取っていた宮廷の不穏な空気。これらの全てが彼の「公正」という信条を強く揺さぶる。彼はエレオノーラが過去の「悪役令嬢」とは異なる計り知れない何かを秘めていると感じ始めていた。彼女は単なる嘘つきの女ではない。
エレオノーラはダリウスの内心の葛藤と彼が証拠に基づいて動く人物であることを理解していた。だからこそ今が決定的な一歩を踏み出す時だと判断した。彼女はさらに踏み込んで協力を持ちかける。
「私を陥れようとする者たちはあなたにとっても看過できない存在となるでしょう。秘密裏に私の協力者になっていただきたい」
ダリウスはエレオノーラから目を逸らすことなく深い沈黙を保った。その沈黙は彼が熟考している証だった。そしてやがてその口から低くしかし確かな言葉が発せられた。
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