二度目の人生は氷の騎士様と歩む

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第12話:真実への疾走

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夜明けの兆しが東の空にわずかに現れ始めていた。青みがかった薄明かりが王都の屋根をぼんやりと照らし出す。エレオノーラとダリウスは先ほど発見した細工された香炉を手に息を潜めていた地下室から次の手がかりを必死に探していた。時間は刻一刻と迫り焦りが募る。香炉の底に隠された紋様と内部から見つかった特殊な紙の切れ端。これらがリリアーナたちの巧妙な偽装工作の核心に繋がるはずだった。

エレオノーラはこの物証が持つ意味を懸命に思い出し一度目の人生でリリアーナがどのような小道具や手段を使っていたかを記憶から引き出そうとする。だが肝心な部分が朧げで確信が持てない。「……あの時リリアーナは確か……」言葉にならない呟きが彼女の唇から漏れる。未来視が曖牲になったことで彼女の頭の中はまるで古い絵画が色褪せていくように情報が抜け落ちていく感覚に襲われていた。ダリウスは彼女の焦燥を感じ取りながらも冷静に香炉の材質や加工隠された紋様を調べその出所を推測する。彼の指先が香炉の表面を滑るように辿る。

「この細工は王室御用達の工房のものではない。もっと裏稼業に近い職人の手によるものだ」

ダリウスの声が静かな地下室に響いた。彼の目は闇の中でも鋭い光を放っていた。

エレオノーラの機転とダリウスの騎士としての鋭い勘が彼らを真実へと導き始める。

「リリアーナは完璧なものを好みました。しかしその裏で彼女は常に誰も知らないような場所で秘密裏に準備を進めていたはずです。特に筆跡や印章の偽造には特定の職人を使っていたと記憶しています……確か王都の北東地区にそういった裏の仕事を引き受ける工房があったような……」

エレオノーラは曖昧な記憶の中からリリアーナが特定の職人の細工品を好んでいたことそして王太子が過去に偽造文書の作成を依頼したことがある場所の断片的な情報を絞り出す。彼女の言葉は確実な事実ではなく過去の記憶からくる「直感」に近いものだった。

ダリウスはその情報を元に普段は王室御用達の職人が出入りしないような宮廷の裏手の工房や王都の地下に広がる抜け道あるいは特定の貴族の隠し部屋といった秘密裏に作業が行える場所を推測し捜査範囲を絞り込んだ。

「北東地区の工房か。心当たりがある。そこは表向きは骨董品を扱う店だが裏では様々な『依頼』を受けていると聞く」

二人は危険を顧みず夜の闇に紛れてそれらの場所を次々と奔走した。王都の裏路地は昼間とは全く異なる顔を見せる。薄暗い影の中を足音を殺して進む。時折怪しげな人影が横切るがダリウスの威圧感とエレオノーラの冷静な判断力で彼らは無事に切り抜けていった。彼らの間には言葉を交わさずとも通じ合う深い信頼があった。

捜査は困難を極めた。リリアーナたちの仕掛けた罠は一度目の人生よりも巧妙で証拠は綿密に隠蔽されていた。彼らは偽造された文書のインクの成分を分析したり紙の透かし模様の不自然さを調べたりと細部にまで目を凝らす。偽造された文書のインクは通常の宮廷で使われるものとは異なり特殊な植物の染料が使われていることが分かった。紙の透かし模様も一見すると王室のものに見えるがわずかなズレや不自然さがあった。

あと一歩というところで彼らはリリアーナたちが偽装工作を完成させ証拠を隠滅しようとした最後の場所に辿り着いた。それは王城の地下書庫の奥深く普段は誰も立ち入らないような隠された一室だった。扉は厳重に施錠されていたがダリウスの騎士としての技術とエレオノーラの記憶を頼りにした鍵の構造の推測でなんとか突破する。

部屋の中はまだ完全に片付けられていない偽造用の道具や燃やし尽くされなかった紙の切れ端が散乱していた。そしてその部屋の奥壁に隠された小さな金庫の中に決定的な証拠となる最後の隠し場所のヒントが残されていた。それは王太子とリリアーナが共謀したことを示す彼らの直筆の計画書の一部だった。

ダリウスは無意識のうちに疲労が滲むエレオノーラの肩を支えた。彼女の顔には徹夜の疲れが色濃く出ている。険しい場所ではダリウスが先に手を差し伸べエレオノーラを安全な場所へと導く。エレオノーラもまた彼の顔の疲労や瞬時の判断を下す集中力に心を痛めていた。彼の呼吸がわずかに乱れているのがわかる。彼のために何かできないか。その思いが彼女の心の中で温かく広がっていく。

夜明けの光が王都の空を白み始めている。東の空が淡いピンクとオレンジに染まり新しい一日の始まりを告げていた。残された時間は刻一刻と少なくなっていた。

彼らは残されたわずかな時間の中でついに反逆罪の偽装工作の決定的な証拠を発見する。それは王太子とリリアーナが共謀したことを示す直筆の計画書そして隣国のスパイと偽装された人物との間で交わされたより巧妙な偽造文書の原本だった。その証拠は彼らを断罪するに足るだけの確固たるものだった。

「これだ……」

ダリウスの声が静かな部屋に響いた。彼の瞳には真実を掴んだ確信の光が宿っている。

しかしそれを国王や宮廷の貴族たちの前で提示しリリアーナたちの罪を暴くにはもはや時間がない。夜明けの朝議はすでに始まっているかもしれない。二人は発見した証拠を手に夜明けの光が差し込む王城へと最後の賭けに出るべく疾走するのだった。彼らの足音は静かな宮廷の廊下に新たな運命を切り開くための確かな響きを刻んでいた。
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