二度目の人生は氷の騎士様と歩む

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第14話:赦しと抱擁

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リリアーナと王太子の断罪が終わり謁見の間には重苦しい沈黙が満ちていた。国王の怒りの声が響き渡った後貴族たちはざわめきながらもその場の空気に圧倒され誰もが言葉を失う。エレオノーラは長きにわたる苦しみと戦いからの解放された安堵と激しい戦いの終焉による極度の疲労を感じていた。身体の芯から力が抜けていくような感覚に思わず膝が震える。しかし彼女の瞳には真実が白日の下に晒されたことへの確かな達成感が宿っていた。

ダリウスは連行されていくリリアーナと王太子の姿を冷徹な視線で見送っていた。彼の表情は普段と変わらぬ無表情だがその背中からは計り知れない重圧から解放されたようなしかし同時に新たな感情の波に揺られているような気配が漂う。彼はエレオノーラの元へ歩み寄ると人目を避けるように促し共に王城のバルコニーへと向かった。

夜明け直前の空はまだ深い藍色を残し星々が瞬いていた。王都の街並みは夜の帳がまだ完全に払われておらずぼんやりとした影絵のように見える。静かな風が二人の間をそっと通り過ぎていく。バルコニーからは遠く王都の街並みがぼんやりと見え全てが終わったことを告げているようだった。この静寂だけが彼らの心を包み込んでくれる。謁見の間の喧騒が嘘のように世界から音が消えたかのようだった。

静寂の中ダリウスは自身の大きくそして力強い手を見つめていた。その手は剣を握り法を執行しそしてエレオノーラを守り抜いた手だ。しかし同時に一度目の人生でエレオノーラを処刑台へと送った手でもあった。彼の指先が微かに震えているのがわかる。その震えは冷たさからではなく内なる苦悩から来るものだった。

「……俺は一度君を処刑台へ送った。この手で」

ダリウスの声は罪悪感に苛まれるかのように微かに震えていた。その言葉には一度目の人生でエレオノーラを断罪したことへの深い後悔と自責の念がにじみ出ていた。公正であることに徹してきた彼にとってその事実は何よりも重い十字架だった。彼は自身の「正義」がどれほど彼女を傷つけ絶望させたのかを今改めて痛感していた。彼の瞳の奥に深い闇が渦巻いているのが見えた。その闇は彼自身が背負い続けてきた過去の重荷だった。

エレオノーラは彼の言葉を遮ることなくただ静かに彼の隣に寄り添った。彼女の心には彼への憎しみなどもはや一片もなかった。あるのは彼が自分を信じ命を賭して守ってくれたことへの深い感謝だけだった。彼の苦悩が痛いほど伝わってくる。

エレオノーラは迷うことなくダリウスの震える手をそっと自らの両手で包み込んだ。彼女の指先が彼の温かい手に触れるとダリウスの肩が僅かに震える。彼は驚いたようにエレオノーラに視線を向けた。その瞳には困惑とそして微かな希望が入り混じっている。彼の冷徹な表情が一瞬だけ揺らいだ。

エレオノーラは彼の目を見上げて優しくしかし確かな声で告げた。その声は夜明けの光のように彼の心の闇を照らすようだった。

「でも今はその手で私の未来を守ってくれたじゃないですか」

彼女の言葉はダリウスが抱えていた過去の罪悪感をまるで魔法のように溶かしていくようだった。彼の心に深く突き刺さっていた棘がゆっくりとしかし確実に引き抜かれていく。彼の騎士としての信念が今真に完成された瞬間だった。

「あの時あなたが私を断罪したのはあなたの『正義』に従った結果だった。私はそれを知っています。そして今あなたが私を信じ守ってくれたのもあなたの『正義』に従った結果です。私はその『正義』を心から信じています」

エレオノーラの言葉は彼の過去を否定するものではなかった。むしろ彼の苦悩と選択の全てを受け入れ肯定するものだった。彼女の赦しの言葉は彼が「守るべきもの」を守るために選んだその「新たな正義」を肯定する光となった。ダリウスの瞳から一筋の光が溢れ落ちた。それは彼が初めて流す真の涙だったのかもしれない。

エレオノーラの赦しの言葉と温かい手の感触にダリウスは初めて感情を抑えきれなくなる。彼の心臓が早鐘を打ち始め全身の血が熱く駆け巡る。彼の冷徹な表情が一瞬にして崩れ去った。彼は衝動的にエレオノーラを強くしかし壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。

エレオノーラの身体が彼の腕の中にすっぽりと収まる。彼の香りが肌を伝い凍っていたエレオノーラの心に暖かさをもたらす。一度は断罪者と罪人として対峙した二人の体が今深く重なり合った。それは単なる信頼を超え深い愛情と魂の結びつきを意味する抱擁だった。ダリウスの肩が微かに震えているのがわかる。彼の頬に温かいものが触れた。それは彼がこれまで押し殺してきた感情の全てだった。

彼らの間に過去の全てが許され新しい未来が確かに始まったことを示す甘く切ないそして確かな絆が生まれた瞬間だった。夜明けの光がバルコニーに差し込み始め二人の姿を優しく包み込む。彼らはこの抱擁の中で互いにとってかけがえのない存在となったことを深くそして静かに確信していた。彼らの物語は今真の始まりを迎えたのだ。
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